ロブさんをデッサン!①
「それでは先に<わんわんチョーカー>から作ってみたいと思います」
まずミスティが手に取ったのは<ピッグスエード>と<以心伝心ココロの糸>である。耐摩耗性と通気性に優れ、しかも安価で手に入るにブタの革に、マージョリーの弟子ウィルベルが作りし素材を少量加えて煮詰める。<以心伝心ココロの糸>はペアルック製品を作成するときに使用されるもので、二人の仲を良好にするおまじないがかけられている。ミスティはこれらをぐつぐつと沸騰する鍋の中に投入し、<かき混ぜ棒>を使って一定の速度でかき混ぜる。
しばらくして、錬金スープの色が黄土色に染まった。
これは土のマナを豊富に含む素材を投入したときに見られる色の変化だ。素材が持つ属性によって錬金スープの色は変わり、火属性なら赤、風属性なら黄緑、水属性なら青、土属性なら黄色系統の色に染まるのが調合における一つの法則となっている。この色の変化を観察し、最も鮮やかな色が現れたタイミングで次の素材を投入する。
ちなみに同じ属性の素材を連続して使用する場合、どうしても似たような錬成反応が続いてしまうことがある。そんなときは<雪化粧のしずく>を一滴垂らして色をリセット。錬金スープの色を真っ白に染めてから次の素材を投入することで、色の変化を見逃さないようにすることができる。<雪化粧のしずく>は調合結果に影響を及ぼさない不思議な液体だ。
なお、使用する素材の属性がバラバラだと調合の難易度は格段に跳ね上がる。たくさんの特性を発明品に盛り込もうとすると、どうしても素材の数が多くなってしまいがちだが、そんなときでも属性は二つまでに絞るというのがレシピ作りの鉄則だ。その点において、今回使用されるのは土属性の素材のみ。これより投入される<イヌコログサ>も大地のマナを豊富に含む素材である。
──相変わらず表情に余裕は無いけども、ここまではすごく順調そう。
ずっと眉間にしわを寄せながらも、ミスティはあたふたと慌てることなく調合に取り組んでいる。初めの頃はなにかとニーナの顔色を窺いながらだったが、いまでは素材を投入するタイミングも自分で決めることができるようになっていた。多少なりとも自分の調合に自信が持てるようになっているのだとしたら、それはとても嬉しいことだとニーナは思う。
そのまま見守ること十数分。一度白く染まった錬金スープの色は再び黄土色へと変わっていた。<イヌコログサ>の<犬の知的好奇心をくすぐる>という特性をうまく引き出せたみたいだ。ミスティは<神秘のしずく>が入った小瓶を手に取ると、一度大きく息を吐き出す。錬金スープに形を与える最後の工程は、いつどんな時でも緊張するもの。
ここで初めてミスティと目が合ったニーナは、大丈夫だよと背中を押すように、深く頷きを返した。
──ぼふんっ!
錬金釜から立ち上る煙の色は白。どうやらミスティは見事に調合を成し遂げたようだ。安堵の表情を浮かべるミスティの側で、ニーナも頬を緩める。二つで一つの商品なので、まだ半分終わっただけではあるけれど、それでも喜ばしいことに変わりはない。
「えっと、続いて<ドッグイヤーパーカー>にかかります」
「うん、この調子でパパっと作っちゃいましょう!」
額の汗をさっと拭って、ミスティは再び調合の準備に取り掛かる。次は土と風の二つの属性を扱うこともあり、先ほどよりは難易度が少し上がる。それでもこの調子であれば、次もきっとうまくいくような気がしていた。
そんなニーナの期待に応えるように、ミスティは続く調合を成功させる。またしても白い煙が上がったのだ。途中からニーナの膝の上で調合の様子を見つめていたロブも、おーっ、と声を上げた。
「スゲー調子良さそうじゃん」
「ですね! ささっ、完成した品を広げてみせてください!」
ニーナは待ちきれず、ミスティに催促をした。
ところが、どういうわけかミスティは釜のなかを覗き込んだまま、前かがみの姿勢から動こうとしない。煙の色は白かったので調合は成功したはずなのに、いったいどうしたというのだろうか。
「ミスティさん?」
「えっと、その……」




