ガールズトークと一匹のブタ①
「さて、片付けも終わったことだし、さっそく新作レシピづくりに取り掛かりましょうか。まずは方向性についてだけど、どんなものがいいと思います?」
「なんでアタシのほうを見るのよ」
「だってシャンテちゃんにも一緒に考えて欲しくって」
「それは構わないけれど、まずはミスティに訊きなさいよ」
そう言いつつもシャンテは丸椅子に腰を下ろす。
「それじゃあ改めて。ミスティさんはどういったものがいいと思いますか?」
「それがその、正直なにから考え始めていいのやら。ニーナさんは普段どういったものから着想を得るのですか?」
「私ですか? そうですねぇ、例えば素材屋で素材を眺めている時だったり、街をぶらぶら歩いているときにふと目にしたものからヒントをもらうことが多いです。あとは依頼人のお悩みを解決するときに必要に迫られて新しい発明を考えてみたりだとか。お風呂に入っているときに閃くこともありますね」
そういえばそんなこともあったわね、とシャンテが笑う。
「突然風呂からあがってきたかと思えば、タオル一枚の姿でリビングまでやってきてびっくりしたわ。兄さんだって側にいたのに迂闊だったわよね」
「あ、あれは閃いたことを忘れないうちにノートにまとめようとしたんだよ」
ニーナはそのときのことを思い出して恥ずかしくなるが、ミスティは、それほどまでに錬金術に情熱を注げるなんてすごいことです、となぜか感心する。
「まあ、その話は置いといて。いまは難しく考える必要もないですし、ほんと気楽にしてもらっていいですよ」
「そうそう。可愛いものが作りたい、とか、そんなんでいいのよ」
「可愛いものといえば、あの<空飛ぶドッグウェア>のデザインはとっても素敵でした。まるっこくて可愛い翼のデザインが特に。あんな感じでワンちゃんが着る可愛らしい衣服を考えてみてもいいかもですね」
「いっそわんことのペアルックを考えてみるとか」
「いっそ可愛いミニブタとのペアルックを考えてみるとか」
と、ここでなぜかロブがガールズトークに加わる。
「とはいえ、私たちは錬金術師ですから、ただ可愛いだけの調合品ではいけないんですけどね」
「あら、洋服を作るなら可愛いは絶対よ? 人が着るものであれ、わんこが着るものであれ、まずはそれを着て外を歩きたくなるようなデザインを優先すべきだわ」
「わかる~。やっぱ女の子は可愛いが正義だよな」
なにを言ってるんだろう、このブタは。
ニーナとシャンテは冷ややかな視線を送る。ミスティは会話の内容を書き留めることに必死で、ノートばかりを見ていた。
「そうかもしれないけれど、でもそこに魔法的な効果を付与しないと、錬金術師が制作する意味がないよ。それにデザインを考えるにしても、その効果に見合ったものじゃないと」
「でも、デザインからアイデアが閃くことだってあるんじゃないかしら?」
「うーん、まあそれはたしかに。ミスティさんはどう思います?」
ニーナはペンを動かし続けるミスティに話を振ってみる。
「とても参考になります。その……お二人の考え方はどちらも正解なんだろうなと。そのなかでもシャンテさんの<外を着て歩きたくなるような衣服>という考え方は素敵だと感じました」
「衣服に限らず、テンションの上がるものを身につけるって結構大事なことだと思うのよね。もちろん家のなかでオシャレしたっていいと思うけど、やっぱり誰かに見てもらいたいって欲求は大事だと思うのよ。そういう意味で言えば、ニーナが作ってくれた入浴剤みたいなのも、お肌がすべすべになる効果を実感できたらテンション上がるし、綺麗になった自分を誰かに見てもらいたくなるわよね」
「たしかに美容系の商品はいつの時代も人気があるって、メイリィさんも言ってたね」
「俺も、いつ何時も美人を求めてるんだぜ」
はいはい、とシャンテが適当に話を流そうとする。
「えー、さっきから俺に対してなんだか態度が冷たくない? 俺ってば結構大事な意見も出してると思うんだけど」
「どこがよ。ただ欲望を垂れ流してるだけじゃない」
「欲望ってのは案外馬鹿にできないんだぜ。それに三人だけだと意見が偏っちまうからな、彼氏目線の提案も必要だろ?」
誰が誰の彼氏なのよ、とシャンテが突っ込みを入れるが、これをロブは聞き流す。
「そういう意味でいやぁ、家で着る服だって場面によっちゃ重要だぜ? 彼氏と二人きりのときにだけ着る洋服ってもんがあってもいいだろ。彼女のネグリジェ姿なんてもんは最高に興奮するしな」
うーん、意外とそういうものなのかもしれない。
ニーナは恋愛に疎いが、そういうムードになったときに相応しい服装というものがあるのだろう、ということぐらいは想像がついた。
ただ、少しばかり話が変な方向に進み始めたような気がするので、ここまでの話を聞いてどう思いましたか、と早めにミスティに話を振ることにした。
「えっと……私は誰かとお付き合いしたことがないので、ロブくんの意見はとても貴重だと感じました」
「だろ?」
「ただ恋愛ごとに関する知識があまりにも乏しいので、そういった場面に相応しい調合品を作る自信がなくて……」
「だったら俺と<そういった場面>を練習してみるか?」
「え?」
──どごぉ!
軽めのげんこつがロブの頭上を襲う。




