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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
12章 ひよっこ錬金術師、先生となる
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二人の錬金術師の微妙な関係②

「ではミスティさん。ポーションとはなにか、簡単にでいいので説明してみてください」


「えっと、ポーションとは錬金術におけるもっとも有名な調合品です。傷をたちまち癒す水薬として錬金術がまだ市民権を得ていない頃から存在し、錬金術の発展に一役買ったとされています。鎮痛作用もあり、即効性にも優れることから応急処置としての役割も果たします。


 基本的には水より少しだけとろっとした無色の液体で、ほんのりと甘いのが特徴なのですが、錬金術師たちが独自のアレンジを重ねた結果、その数は実に数百種類にも及ぶと言われており、そのぶん見た目も効果も様々となりました。


 これらのポーションはヒーリング系、スタミナ系、ストレンジ系に大別することができます。通常のポーションはヒーリング系に属しており、傷や毒をたちどころに治してしまう水薬です。その一方でスタミナ系のポーションは即効性こそ期待できないものの、体の内側から持続的に体力を回復させる水薬で、主に疲労回復効果が期待できます。


 またストレンジ系のポーションは、身体能力を強化させることが目的の水薬です。瞬発力の向上や、視覚や聴覚といった五感を強化するものが一般的ですが、体に変化を与えるという意味では惚れ薬もこれに分類することができます」


「はい、もう補足する必要もないぐらい完璧な説明ですね! ちなみに通常のポーションに使用される素材は知っていますか?」


「<水>と、<薬効ツユクサ><マンドラゴラの根><真っ黒ヤモリの炭焼き><秘密の胡麻>の五つです。これらを<マナ溶液>のなかに加えて、ひたすら煮詰めます」


「またまた完璧な答えです。では、実際に作ってみたことは?」


「一応、挑戦したことは……」


「それなら話が早い。では今回はポーションのなかでもちょっとランクの高い<ハイポーション>にチャレンジしてもらいましょう」


 最も王道である通常のポーションは品質によってランク分けがされており、価値が上がるにつれて<ノーマルポーション>、<ハイポーション>、<エクスポーション>と名前が変わる。同じ素材を使っていても、出来栄えによって大きく効果が変わるのがポーションの面白いところだ。


 ちなみにランクが上がると効果だけでなく見た目も変わる。白く濁ったような液体から無色透明へ、<エクスポーション>ともなると虹色に輝くような液体となる。反対に<ノーマルポーション>以下の、ポーションとすら呼べない様な品質のものは泥水や煤水すすみずなどといった不名誉な名前で呼ばれてしまう。


「ただこの家には<真っ黒ヤモリの炭焼き>と<秘密の胡麻>がないので、いまから買いに行こうと思います。もうこの街の素材屋は覗いてみましたか?」


 いえ、まだなんです、とミスティは首を横に振る。


「では一緒に行きましょう! この街でしか取り扱っていない様な珍しいものがずらりと並ぶお店なので、見たら絶対に驚きますよ? 外は……まだ雨降ってるみたいですけれど、これぐらいなら傘を差せば全然大丈夫ですね! というわけで、いますぐ準備してください!」


「はいっ! ……えっと、具体的にはなにを用意すべきでしょうか?」


「寒くない格好さえしていただければじゅうぶんですよ。素材にかかる費用は私たちが出しますが、他に欲しくなるものがあるかもしれませんし、お財布ぐらいはあったほうがいいかもです」


「なるほど、わかりました。それで、あの、昨日からずっと言おうと思っていたのですが……ニーナさんは私の先生なのですし、そんなにあらたまった言葉で話していただかなくても大丈夫です」


「だったらミスティさんも畏まった言葉遣いじゃなくて、もっとフランクにいきましょ。私たち同い年なんですから」


「それは困ります。たとえ年齢は同じでも先生と生徒ではまるで立場が違うのですから、そこはきっちりと線引きすべきです」


 むむっ、この辺りは妙に頑固である。生真面目だなぁ。


「ミスティさんが言葉遣いを改めないなら、私もこのまま丁寧語で話し続けようかなぁ」


「そ、そんな……」


 冗談のつもりで言ったのに、ミスティは口元に手を当てて考え込んでしまった。かなり真剣にどうすべきか悩んでいるようだ。表情からも必死感が伝わってくる。


 ただ、その姿がとてもかわいらしくて、もう少しこのまま悩む姿を眺めていたい。

 と、こんなことを思ってしまうのはいけないことだろうか。


 そんなこんなでニヤニヤしながら見ていると、シャンテにわき腹を小突かれた。なに困らせてんのよ。いまから素材屋に行くんでしょ。そう、一足先に準備を済ませたシャンテは言う。確かにその通りだった。


「あ、あの、ニーナさん、やはり学ばせていただくという立場上、言葉遣いというのはきちんとすべきだと思うのですが……」


「ふふっ、それじゃあこうしましょう。これからひと月以内にオリジナルの商品を開発して、メイリィさんのお店で契約を勝ち取り収入を得る。それができればミスティさんもクノッフェンで暮らす錬金術師の仲間入りです。つまり私と対等な関係になるのですから、そのときはお友達としてお互いに呼び捨てで呼び合いましょう。どうですか?」


「……わかりました。憧れの人と対等というのは恐れ多くもありますが、私にとってこれ以上ない目標です。そうなれるよう努力します」


 今度こそニーナたちは家を出て素材屋へと向かう。まだ小雨がぱらついていたが、このぐらいなら傘を差すだけで濡れることもないだろう。


 ミスティは傘を持っていなかったが、ちょうど家に来客用にと買っておいた傘があったので、それを使ってもらった。以前に依頼に来たお客さんが帰り際に雨に降られて困ったことがあったので、同じようなことが起きても困らないようにと、シャンテが予備を購入していたのだ。


 そのまま道なりに歩き、ミスティの故郷の話に耳を傾けていたときだった。前のほうから真っ黒な傘を差して歩いてくる女性の姿が見えた。その人は赤い髪をしていて、見慣れた紺色の隊服に身を包んでいた。顔はよく見えないが、その人がいったい誰なのか、ニーナはすぐに思い当たった。


「アデリーナさん!」


「あら、ニーナ! 元気そうね」


 会えたことが嬉しくて、ニーナは小走りで駆け寄った。


「アデリーナさんのほうこそ、もう外を出歩いてもいいんですか?」


「ええ、病院生活で体がなまってしまったから、これから少しずつ体力を戻していかないと」


 アデリーナと最後に会話したのは一週間ほど前のこと。そのときはまだ病院のベッドの上での生活を余儀なくされていた。海賊たちとの戦いで投与された薬の代償は凄まじく、無理に体を動かした反動から筋繊維はズタズタ。救出直後はとても自力で歩ける状況ではなかった。加えて使用された薬物のなかには幻覚作用を及ぼすものもあり、医師や看護師が見守るなか、最低でもひと月は絶対安静が言い渡されていたのだった。


 あれだけのことがあったにもかかわらず、こうして見かけだけでも以前と変わらず微笑むことができるまでに回復できたのは、騎士としての強靭な肉体と、薬なんかに負けない強い精神があってこそだろう。


「それに誘拐犯はどこに潜んでいるかわからないし、いつまでも私だけベッドの上で寝ているわけにもいかないわ」


「え、まだ事件は終わってないってことですか?」


 ムスペルから続く一連の事件は、ジェラルドの逮捕によってひとまずの終わりを迎えたと思っていたのに。組織の残党か、もしくはリムステラが新たに仕掛けてきているのだろうか。ニーナは不安な気持ちに駆られるけれども。


「ううん、そういうわけじゃないよ。ただ昔からこの街は有望な人材が集まるからか、次から次へと悪い大人も集まってきちゃってね。だから常に警戒を怠るわけにはいかないの。あなたたちもじゅうぶん気を付けてね」


「はい、そうします」


「いい返事ね。ちなみに、そちらの子は新しくできたお友達?」


「はい、ミスティさんといって、昨日この街に来たばかりの錬金術師なんです。これから街を案内がてら素材屋に行ってみようと思っていたところなんですけど……そうだ、実は昨日、ミスティさんは財布を無くしてしまったみたいなんですけれど、それらしきものを見かけませんでしたか? 誰か親切な人が拾ってくれたとか、そういう情報があれば教えて欲しいのですが」


「申し訳ないけど、少なくとも私のもとにそういった知らせは届いてないわね。でも誰か知っているかもしれないし、どんな形のお財布なのか教えておいてもらえるかしら?」


 アデリーナは窺うようにミスティの瞳を覗き込むが、そのミスティはというと、どういうわけか口をわずかばかり開いて呆然とした様子で。


「……憧れの人が、また一人」


「えっと、聞こえてるかしら?」


「えっ? あっ、すみません、少しぼーっとしていたようです」


 そういえばミスティが見せてくれた新聞記事には、アデリーナを始めとした国家騎士のことも書かれてあったように思う。つまりアデリーナもまた、ミスティにとって憧れの存在だったのだろう。まさかこんなところで偶然ばったり出くわすと思っていなかったからか、心の準備ができていなかったようで、思わず見とれてしまったらしい。


 それからミスティは慌ててどんな財布だったのかを説明して、ひとまずその場は別れることとなった。

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