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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
12章 ひよっこ錬金術師、先生となる
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二人の錬金術師の微妙な関係①

 夕方から降り始めた雨は翌日の朝になっても続いていた。カーテンを開けてみても日差しは差し込まず、窓の向こうに見える空はどんよりとした雲で覆われている。


「おはようございます……」


「あっ、ミスティさん。おはようございます」


 二段ベッドの上でミスティが目をこすっている。まだ眠たいのか片目は閉じたまま。着崩れたパジャマから覗き見える白い肌がなんだか色っぽい。ロブと一緒の部屋で寝ていたら色んな意味で危ないところだった。


「まだ、雨は降っているのですね」


「ですね.。晴れていたら街を案内したかったんですけど。まあ昼頃には止むかもしれませんし、天候が良くなることを期待しつつ、とりあえず朝ごはんにしましょうか」


 ニーナは手早く着替えると、いつものように朝食の準備を始める。少し遅れてミスティもやってきて、二人で台所に立つ。こうして隣に立たれると、やっぱり自分は同年代の女子たちと比べても小柄なのだなと思い知らされる。いつかは自分も姉のように大きくなれるだろうか。……色んな意味で。


 ミスティは日ごろから料理をしていたようで、包丁の扱いも手慣れたものだった。かなり慎重派なのかスピードはそれほどでもないが、なにを切らせても均等にカットしてくれる。りんごの皮むきもシュルシュルと、光にあてれば透けそうなほど薄く剥いてくれる。だから安心して料理を任せられた。これがダンやテッドなら手つきが危なっかしくて見ていられないところである。


 朝食を終えたあとはイザベラの家を訪ねた。この白髪の老婆はご近所さんであり、ニーナたちが暮らすシェアハウスのオーナーでもある。まだ住む場所が決まっていないミスティにも家を紹介してもらえないかと頼むつもりだった。


 要件を手短に話すと、そうねぇ、とイザベラは口元に手を当てた。


「紹介できる家が無いこともないけれど、私も慈善事業をしているわけでは無いから、せめて稼ぐ見込みがないとね。ニーナさんたちの場合は二人で協力して暮らしていくという話だったから了承したけれど、あなたは一人なんでしょう?」


「そう……ですね」


 ミスティは悲しそうな顔をするけれど。

 でも家はあることにはあるんですね、とニーナは確認する。


「ええ、ここから十分ほど歩いたところに空き家があるから、そこは貸し出せるわよ。広さはニーナさんたちに貸している家と同じぐらいで、毎月の家賃も同じ。この際だから契約金は免除してあげるわ。この条件でいいというのであれば、いまからでも鍵を渡すけれど?」


「いえ、いまは貸し出してもらえるとわかっただけでじゅうぶんです。これから家に戻って一緒に新作のレシピを考えて、そして必ず契約を勝ち取ります。ですから支払いの目途が立ったらまたお願いに来るので、そのときはよろしくお願いします」


「そう、待ってるわ。頑張ってね」


 目標はできた。売れる商品の開発は決して簡単なことでは無いけれど、それでも候補地が見つかっただけでも進歩である。こうして不安の種を一つずつ取り除いていくことが大事であると、ニーナは同じような経験から知っていた。


 ──そのためにも、まずはレシピ作りからだよね!


 そうしてニーナたちはレシピ作りに取り掛かるために家に戻ってきたのだけれども。


「あの、ニーナさん? 先ほどからどうしてそんなに難しい顔を?」


 ニーナは悩んでいた。いざ人にものを教えるとなったときに、なにから始めればいいかわからなかったのだ。


 理想はニーナの教えによってミスティの調合の腕が上がり、学んだことを活かして新作を生み出し、それがヒット商品となってくれること。つまり、一人で新作レシピを創作できるだけの力を身につけてもらうことがニーナの願いだった。


 ──でも、なにから教えたらいいんだろう? そもそもミスティさんは最低限の基礎ができているし、かといって細かいことを指摘し始めたらきりがないし。


「ねえ、シャンテちゃんは人にものを教えるとき、なにから始める?」


「アタシに訊かれても錬金術のことなんて知らないわよ」


「それはそうかもだけど、錬金術とは関係なしに、例えば槍の扱い方を誰かに教えるとしたら、まずなにから始めるのかなって」


「そうねえ、アタシもそんな経験ないからわかんないけど、槍を握ったことも無いような素人が相手なら、槍の握り方から正しい姿勢、足の運び方まで、基本となることを全部一から丁寧に、形になるまで何度でも繰り返し教えるわね。でも、ある程度基本がしっかりしている人に槍での戦い方を教える場合なら、まずは実際に戦ってみるかな」


「いきなり実戦で試すってこと?」


「そうよ。戦ってみることで相手の力量を正確に測ることができる。相手のなにがいけないのか、悪い点も見えてくるし、その場ですぐに指摘してあげることもできる。反対に相手はアタシの槍捌きを見ることで、そこから学ぶこともできるでしょ」


「そっか、実際になにか調合してもらえばいいのか」


「そうね。あとはニーナも調合してみるとか。難しく考えないで普段通りの姿を見てもらえばいいのよ。ね、ミスティもニーナが調合してるところ見てみたいでしょ?」


「はいっ、ものすごく興味があります」


 期待の眼差しを送られて、ニーナはちょっぴり恥ずかしくなる。

 これまでずっとからかわれてきたから、憧れられることに慣れていなかった。


「まあ、せっかくの師匠と弟子の関係なんだし、楽しんでみれば?」


「そうは言われても、私の頑張りがミスティさんの今後の人生を左右するかもしれないんだよ? そんな気楽には考えられないよ」


「かもしれないけど、ニーナだって人に教える立場になるのは初めてなんでしょ? じゃあ完璧になんて無理じゃない。できるのはいつも通りのことだけ。二人で失敗を繰り返しながら壁を乗り越えていけばいいのよ」


 シャンテの言う通りかもしれない。こういってはなんだけど、初めから教師らしく振舞うなんて自分には無理だ。自信を持ってできることといえば錬金術の楽しさを伝えることだけ。


 ──楽しさを伝えるためにも、まずは私が楽しまないとね。


「よーっし、それじゃあまずはミスティさんの調合を見せてもらおうかな」


「うっ、やっぱりまずは私からなんですね」


「当然です。私は師匠であり先生ですからね。まずは生徒がどれぐらいできるか実際に見せてもらわないと! そうだなぁ、なにから作ってもらおうかなぁ……」


「あの、あまり難しいものは──」


「うんっ、決めた! ここは錬金術の基本中の基本である<ポーション>を作ってもらいましょう!」


 私は私らしく。

 ニーナはミスティのことをとことん振り回すことに決めたのだった。

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