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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
11章 ガラクタ発明家を訪ねて
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ヌシが住む沼を目指して①

 翌日は薄雲が目立つものの、良く晴れた日だった。


 今日はダンたっての希望でマヒュルテの森に向かうことになっている。そのためニーナは朝早くから準備をして、メイリィが営む魔法雑貨店へと足を運ぶことになった。目的はもちろん契約交渉。完成したばかりの<感電ビリビリレモンのど飴>を試してもらうためだ。催促されているわけではないので別に急ぐこともないけれど、ニーナは早く試してもらいたくて、こうしてロブを連れて開店直後の店にやってきたのだった。


 結果として反応は上々だった。

 初めこそ髪が逆立つという現象に難色を示したメイリィだったが、この欠点は人々を笑顔にできるんですと、とにかく目立つので宣伝にもなりますと、ニーナは欠点を認めたうえで商品を目一杯アピールした。実際、髪が逆立ってしまうのは十秒にも満たない程度のわずかなあいだであり、また商品化に当たっての構想もきちんと考えてきたからだろうか、最後には店に並べてもらう約束を取りつけることができた。今日は一度持ち帰るが、<ココ・カラー>で容器とラベルを完成させたうえで再びメイリィに見てもらって、そこで了承が得られれば、晴れて商品として売り出されることになる。


 ──また一つ、私の発明品がクノッフェンのお店に商品が並ぶんだよね……!


 初めて交渉に臨んだときは<激辛レッドポーション>しか契約してもらえなかった。そのときだって合格をもらえたのは、急病で倒れたイザークの代役を果たして認めてもらえたからだった。それがなければ契約できていなかったかもしれないと思うと、そもそもの実力が足りていなかったんだろうなといまならわかる。


 だからこそ、こうして新作の契約を一人で結ぶことができるようになって嬉しくてたまらなかった。


 交渉を終えて家に戻ると、ダンとテッドが準備万端といった様子で待ち構えていた。家のなかだというのにリュックを背負い、早くいこうぜ、と急かしてくる。なのでニーナは休むことなく出発することに。


 こうしてマヒュルテの森へと赴くことになったのだった。







 マヒュルテの森へと通じる唯一の門、<ギルド会館>。

 ニーナの家からみて北東方向にあるそこまでの道のりは、ひたすら緩やかな上り坂が続く。その先頭を歩くのは、腰に剣を、背中におおきなリュックサックを背負うダンだった。強くなってきた日差しにも負けず、大きな歩幅で元気に歩いている。


 そんなダンの手のなかには三本の釣り竿が。これはシャンテが釣具店でレンタルしてきたものであり、素材採取に用いるものである。狙うはズバリ<巨大ナマズのヒゲ>。それはロブの解呪薬に必要な六つの素材のうちの一つであり、その持ち主である<巨大ナマズ>を釣り上げようというのである。昨夜シャンテが言っていた、行きたいところがある、というのが森のなかにあるヌシの住む沼だったのだ。


「あちこち森のなかを探索するより、釣りをしてもらってた方が色々と安全でしょ」


 と、シャンテはこっそりと理由を教えてくれた。危険な森のなか、ダンとテッドを連れまわすのは危ないのではないか。だったら沼でヌシ釣りに励んでもらおう。そうしたシャンテの思惑にうまく乗せられて、ダンは早くもやる気満々である。男の子にとってヌシ釣りというのは非常に魅力的なイベントに感じたようだ。


「おいおい、歩くの遅いんじゃねーの? もっと張り切っていこうぜ!」


 まったく、好き勝手言ってくれちゃって。こっちは朝から契約交渉に臨んだりと、休みなく動きっぱなしで疲れているというのに。


「そんなんじゃヌシは釣れねーぞ?」


「そんなんじゃって、なにを根拠に言ってるのさ。森のこともヌシのこともなんにも知らないくせに」


「でも釣りぐらいはやったことあるぜ。あれはな、気合と根性が大事なんだ。気持ちというかメンタルの部分が糸を通じて釣り針に伝わるんだよ」


「えぇー、嘘だぁ。もしそれが本当だとして、釣る気満々の針に食いつく魚なんて馬鹿じゃん。そんなんでヌシが釣れるの?」


「そりゃあヌシだからな。男と男の勝負を挑まれて逃げるわけがねぇ」


 なんなの、その理屈は。そもそもヌシはオスなのだろうか。

 根拠のない自信に満ち溢れたダンを見ていると、そこはかとなく不安が募るけれど、これ以上はなにを言っても無駄みたいだとニーナは反論を諦めた。


 古風な砦のような外観を誇る<ギルド会館>に辿り着くと、ダンは目を輝かせて喜んだ。ダンにとって冒険者は憧れ。だから冒険者たちの拠点ともいうべき<ギルド会館>の前に立てるだけで幸せいっぱいなのだろう。そして同じくテッドも夢中になって写真を撮っている。


 ──こういうところを見ると、テッドもやっぱり男の子なんだよねぇ。


 あんまりはしゃぐと自分たちが田舎者だって自己紹介しているみたいで恥ずかしいけれど、つい高ぶってしまう気持ちはニーナにもわかった。まさにニーナも、初めてマヒュルテの森を訪れたときがこうだったからだ。


 そのあと、興奮冷めやらぬまま受付に立ち寄って、冒険者としての登録を行う。ニーナが登録票を受け取ったときと同じく、ルーチェという受付嬢が対応してくれた。縁なしの眼鏡をかけた二十歳ぐらいの女性で、あどけない顔つきと、緩くウェーブがかかったブロンドヘアーが魅力的である。同性のニーナから見ても可愛い。そして服の上からでもわかるほどの、立派なお胸の持ち主である。


 そんな彼女が気さくに微笑めば、ダンとテッドも鼻の下を伸ばして……


 ──どごぉ!


 ロブの頭上にげんこつが落ちた。同じように鼻の下を伸ばしていたのである。今回もなかなかに強烈な一撃だった。

 それを見たダンたちはびくりと肩を跳ね上げた。


 ──そういえば二人はシャンテちゃんのげんこつを見るのは初めてだっけ。


 きっといまの一瞬で、シャンテを怒らせると怖いのだと二人の脳裏に刻まれたことだろう。

 ダンとテッドは目をぱちくりとさせたあと、真面目な顔をして残りの登録作業を済ませるのであった。

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