感電ビリビリレモンのど飴①
帰宅したとき、すでに太陽は西に大きく傾いていた。
あれからニーナはテッドに街を案内するため、半日かけて街中を歩き回った。田舎では見られない様な珍しい食材が並ぶ市場。豊富な学術書が世界中から集まる街一番の書店。お洒落な看板が目を引く喫茶店。<青空マーケット>が開催されたミーミル・ストリートや噴水広場。街のシンボルともなっている時計塔……。テッドは途中で<スクロール紙>を買い足す必要が出てくるほど、何度もカメラのシャッターを切った。
なだらかな上り坂を登って帰宅して。
ニーナは疲れていたが、すぐに調合の準備に取り掛かる。いますぐベッドに倒れ込みたいぐらい体は疲労を感じているのに、不思議とやる気は漲っていて、なんとしても夕食までに一つ新作を作り上げてみせようという気になっていた。
<錬金釜>に深緑色のどろどろとした液体である<マナ溶液>を流し込む。マナの木の根っこや葉や実を形がなくなるまで煮込んだものである。これをぐつぐつと沸騰するまで<ヴルカンの炎>と呼ばれる意志を持った炎で温める。
溶液が温まるのを待つあいだ、ニーナはテーブルの上に買ってきたばかりの素材を並べる。<マジカルシュガー><ウルドの滝の天然水><魔イワシの乾燥粉末><スピラーミント>、それから庭で採れた<マーレレモン>。これら五つの素材を使って新作を作り上げる。
新作といっても、<スピラーミント>以外は別の調合で使用したことのある素材たちだ。当然ながら素材ごとの特徴も把握している。だから初めての調合でも成功させる自信はある。ニーナはレシピ帳を読み返しながら、慎重に計量作業を進める。
「もしかしてここ、邪魔だった?」
テーブルの向かい側では、テッドが手帳に向かっていた。きっと今日のことを忘れないようにと、写真という形だけでなく文字でも記録しているのだろう。またテッドの奥では、シャンテが夕食の準備を始めていた。
「ううん、そんなに散らかす予定ないから大丈夫だよ」
計量を終えて、<お知らせヤギ時計>のタイマーもセットして。頭のなかを整理するために、ニーナは目をつむって手順を脳内でイメージしてみる。……よしっ、完璧。成功するイメージを胸に、ニーナは調合に取り掛かろうとする。
「あのさ、ニーナ」
<マジカルシュガー>を手に取ろうとしたそのとき、先ほどまでソファーに座っていたはずのダンが立ち上がって話しかけてきた。
なんだろう。なんともタイミングが悪いなぁと思いつつも、どうしたの、と笑顔で訊ねてみる。
「俺もなにか手伝った方がいいか?」
「え? ……ううん、ゆっくりしててくれたらいいよ?」
まさかの申し出に戸惑いつつも、ニーナは首を横に振った。錬金術は繊細な作業が求められるだけでなく、完成品をイメージする力が必要だ。計量を手伝ってもらうことはあっても、基本的には一人で取り組むもの。気持ちはありがたいものの、手伝ってもらうとむしろ失敗してしまう。
「突然どうしたの? いままでそんなこと一言も言ってくれなかったのに、急に手伝った方がいいか、だなんて」
「いや、その……タダで泊めてもらってるわけだし、なんか手伝うべきかなと思ってさ」
「そんなの気にしなくていいよ」
なんだかダンはやけに寂しそう。大きな体がいまだけは少し小さく見える。普段は遠慮なんてするような性格じゃないのに、本当にどうしたというのだろう。
そこへ、だったらこっち手伝ってよ、とシャンテが言った。
「じゃがいもと人参の皮むき、できる?」
「あっ、やります!」
「いやいや、ダンってたしか料理がすっごく苦手だったよね?」
「皮むきぐらい余裕だって!」
とてつもなく不安だけれど……ううん、いまは自分の調合に集中しないと。向こうはシャンテに任せておけば大丈夫なはずだから。
ニーナは釜のなかに<マジカルシュガー>を大量に投入すると、これを魔女の杖に似た<かき混ぜ棒>を使って、底からしっかり力を込めてかき混ぜる。




