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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
10章 冒険は終わらない
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道を切り開くのはガラクタ品①

「ん? なんじゃ。侵入者は国家騎士ではないんか?」


 全身銀の鎧をまとった男は口元に手を当て、珍客を見るかのようにこちらを見る。


「そういうアンタは何者よ?」


「ほう、威勢がいいな。儂はブラッドリー海賊一番隊隊長のカネロ。先代の頃より海の男として生きてきた老いぼれよ。で、お前さんらは侵入者ということでええんかの?」


 男は自らを一番隊隊長と名乗った。ならば、牢屋の鍵を持っているとされる男の一人ということ。それはつまり、戦いを避けられない相手だということだ。明らかに他の海賊たちとは装備や佇まいが異なるものの、ここは逃げずに立ち向かうしかない。杖を握りしめる手にもおのずと力がこもる。


「……ほう、敵ながら良い眼をしておるな。しからば!」


 カネロはいかにも重量がありそうな打撃武器である<メイス>を片手一本で軽々と振り回し、カネロから見て最も近い敵であるシャンテにメイスの先端を向ける。


「老兵自ら侵入者どもを蹴散らしてくれようぞ。覚悟!」


 大きく一歩踏み出し、カネロは振り上げたメイスをシャンテに向けて力任せに振り下ろす。


 船内の床がめり込むほどの、まさに渾身の一撃。

 しかしシャンテはそれをくるりと回転しながら躱すと、流れるような動きで遠心力たっぷりの斬撃を脇腹目掛けて繰り出す。フレイムスピアの刃は確実にカネロを捉えて、金属同士が激しくぶつかり合う音が響いた。


「ぬううん」


 けれどもカネロは止まらない。さらに距離を詰めるようにもう一歩踏み込むと、中段、腰の位置に構えたメイスを突き込むようにしてシャンテを襲う。


 シャンテは後ろに大きくステップして、それを躱した。


「身軽じゃな。それにこの狭い船内を苦にすることなく槍を扱えるだけの腕前もある。部下に欲しいぐらいじゃが、どうじゃ、海賊には興味ないかの?」


「馬鹿言わないで!」


 シャンテは槍に炎を灯すと、石突部分より炎を噴出。隙だらけに見えるカネロに突撃を仕掛ける。

 ……が、槍は銀の鎧を貫かないばかりか、カネロは微動だにしなかった。


「はっはっはっ。なんとも血気盛んなお嬢さんじゃな。じゃが、その貧相な腕では儂をぐらつかせるこそもできんぞ?」


「ちっ……ニーナッ!」


「うんっ!」


 シャンテがさっと飛びのいたのを見て、ニーナは入れ替わるように雷撃を繰り出した。距離が近いこともあり、揺れ動く一撃はたしかにカネロに命中。銀の鎧を雷が覆う、はずだった。


 ところが、ニーナが放った雷撃は鎧に触れた途端に弾かれてしまった。


「はっはっはっ! さすがはジェラルド殿が仕入れた鎧じゃな。武器だけでなく防具も一級品じゃよ」


「うそ、魔法が効かないの?」


「うむ、そういうことじゃよ。たしか<魔法反射装甲>といったかの? 国家騎士が扱う<武雷刀>に対抗するための試作品という話じゃったが、なるほど、これはなかなかにご機嫌な鎧じゃ」


 ガンガンっ、と鎧を拳で叩きながら、カネロは愉快そうに笑う。

 そこへ、ならばここは俺が、とロブが巨大化して押し倒そうとする。これにはさすがのカネロも、鎧兜の奥の眼をカッと見開いたが。


「ぬうううんっ!!」


 メイスを投げ捨て、両手で抱きかかえるようにロブの突撃を受け止めると、両足に力を込めて踏ん張る。それでも押し切ろうとするロブだったが、ほんのわずかに押し下げただけ。倍ほどの体格差をもってしても、カネロはこれを正面から受けきってしまった。


 カネロの一番の武器は床をえぐるメイスでも、魔法を弾く鎧でもない。これらを自在に操る筋力こそがカネロの強さに繋がっていたのだ。


 ぼふんっ、と力を使い果たしたロブが元の小さなブタに戻ってしまう。これをカネロは邪魔だとばかりに軽く蹴り飛ばす。

 斬撃は効かない。魔法も弾かれてしまう。力で押し倒すこともできない。逃げようにも、いつのまにかカネロの部下たちが前も後ろも塞いでしまっている。完全に手詰まりだった。


 けれど、このような状況でもシャンテは諦めていなかった。

 新たな武器を手にカネロの前に立ちふさがる。


「……なんじゃ小娘。()()()()()()で儂とやり合おうというのか?」


 カネロが眉間にしわを寄せたのも無理はない。鎧に対抗するために打撃武器を手に取ることは間違いではないが、それにしては細長く、軽そうで、とても鎧の上からダメージを与えるような代物には見えないからだ。


「ええ、そうよ」


 シャンテは、カネロに棒きれと評された白い得物を握りしめる。額に流れる汗。カネロを打ち倒す自信があるわけではないが、しかしニーナが作りし武器ならば、この状況をひっくり返せるかもしれない。シャンテは調合品に秘められた可能性を信じていた。


 ゆらりと構えるシャンテ。

 静から動へ。カネロが構えを取る前に懐に飛び込むと、握りしめたその得物で脇腹を、鎧の上から力の限りに殴りつけた。

 対するカネロは小柄な少女を叩き潰さんとばかりに拳を振り上げて──


「ぬぅあ!?」


 そのとき、あれだけ鉄壁を誇ったカネロが体がぐらりと揺れた。

 かと思えば、老兵はその場で片膝をつく。左手を床につき体を支えるように、そして右手で殴られた脇腹を……ではなくて頭を抱えている。それはまるで、突如立ち眩みにでも襲われたかのようであった。


「ぐぅ、いまのはいったい?」


「どうかしら、ニーナが作った<骨伝導こつでんどうソード>のお味は? 脳が揺さぶられて、もう立っていられないでしょ?」


 ──<骨伝導ソード>

 それはニーナがセオドア島にて思い付きのままに調合した発明品だった。用途不明。販売することなんてこれっぽちも考えていない。ガラクタ品と馬鹿にされても仕方がないような発明品が、まさか武器となり、こうしてカネロに膝をつかせるなんて。ニーナは声にこそ出さないものの、発明者としての喜びを確かに感じていた。

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