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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
10章 冒険は終わらない
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命がけの鬼ごっこ③

 シャンテの機転により、慌てふためく海賊たちを尻目に包囲網から抜け出すことができたニーナたちは、この隙を利用して騒動の中心地からできる限り遠ざかろうとした。途中、海賊たちとすれ違いそうになることもあったが、みな空高く伸びる黒煙に気を取られていたので気付かれることもなかった。


 そうして一度完全に相手を振り切ることに成功したこともあって、そろそろどこかで一息つこうかと考え始めたものの、やはり相手の数が多い。もっと遠くへ、海賊たちの手が届かない場所まで。ニーナたちは足を動かし続ける。一瞬たりとも気が休まる瞬間がなかった。


 隠れて、見つかりそうになって、慌てて逃げて。

 見つかって、追われて、走って、どうにか逃げ切って、また隠れて。


 逃走を始めてからどれぐらいの時間が経ったか分からないが、いつのまにか西日が差し始めていた。もうこんな時間なのかという想いと、あとどれぐらいこうして走り続けなくてはいけないのだろうかという不安。終わりが見えないのがなによりも辛いと感じた。


「──ん? いまそっちから音が聞こえなかったか?」


 茂みを抜けようとしたところで、すぐ側にいた海賊がニーナたちの存在に気付く。まだ姿は見られていないようだが、真っすぐこちらに向かってきていた。見つかってしまうのも時間の問題だろう。


「いたぞ! 捕まえろ!」


「やべえ、見つかっちまった!」


 とんとこと、ロブが短い脚をフル回転させて逃げる。それを男たちが走って追いかける。

 そのすぐ側で、ニーナとシャンテは茂みに隠れて息を押し殺していた。こうしてロブを囮に相手をやり過ごすのは何度目になるだろうか。申し訳なく思う一方で、いまは少しでも休めることが有難い。ニーナは遠ざかっていく海賊たちの背中を見ながら大きく息を吐きだすと、地べたに座り込んだ。


 足の裏に目を向ける。この島に流れ着くまでにサンダルは流されてしまった。裸足で駆けまわっていたから両足とも血だらけで、薬もなくて。だから傷口は変色してしまって見るに堪えないぐらい酷い有様だった。足の裏だけじゃなくて腕も顔にも細かい傷が無数についている。茂みを抜けるときに枝葉がぶつかってできたものだ。何度も転んだから、膝も擦り傷だらけである。


「ちょっと、大丈夫なの? やっぱり靴貸そうか?」


「ううん、大丈夫。いまさら靴を履いたって傷が治るわけじゃないし、二人ともケガしたら元も子もないよ。シャンテちゃんとロブさんが走り回ってくれているから、ここまで逃げることができてるんだ」


「それはそうかもしれないけれど……」


「大丈夫。きっと助けは来る。あと少しぐらいなら私も走れるよ」


 ニーナはそう口では言うけれど、心身ともに限界が近かった。いまも肩を激しく上下させている。本当なら今すぐにでも体を横にして休みたかった。


 けれど、そうも言ってられないから。

 ニーナは斜めがけにしたかばんから魔法瓶を取り出して口をつける。中身はココナッツジュース。あらかじめ割って、すぐ飲めるようにして保存しておいたものだが、もう残りも僅かになってきた。当然ながら食料も残っていない。見上げた空はいつの間にか星がちらほらと姿を見せ始めていた。


 いつまでこうして逃げ続ければいいのだろうか。時間の経過とともにどうしようもない不安が胸を締め付ける。

 でも辛くても諦めたくはなかった。捕まってしまえば、今以上に苦しい思いをするのは間違いないのだから。


 そのとき、がさがさと茂みの揺れる音がして、ニーナは肩をビクつかせる。

 けれども顔を見せたのはロブだった。どうやら追っ手を撒いて逃げ切ったようである。


「ふぃー、あいつら俺だけ殺そうとしやがって、ひでー奴らなんだぜ。しかも丸焼きにして食ってやるとか」


 酷いですよねとニーナも同意するが、そのとき偶然にもお腹がぐぅーと鳴った。


「まさかニーナも俺を食おうとしてる!?」


 後ずさるロブに、そんなことしませんよっ、とニーナは頬を膨らませる。失礼な、私とシャンテちゃんに限って絶対そんなことしませんよ、と怒ってみせるが、けれど傷だらけなロブを見て、ニーナは優しくロブのことを抱きかかえた。


「絶対三人揃って逃げ切りましょうね」


 このときはまだ、辛くても笑顔でいられた。







 太陽はその姿を完全に隠し、やがて夜がやってきた。

 見上げれば幾千もの星が瞬いているが、その光はあまりに頼りない。


 ニーナたちは相変わらず茂みに身を隠し、疲れ切った体を休めていた。さすがの海賊たちも疲れてきたのか、それとも追いかけることに飽きてきたのかは分からないが、心なしか動きが鈍いように感じる。周囲は暗くてよく見えないが、奇妙なまでに静まり返っており、誰かがこの付近に潜んでいることもなさそうだ。


 そんなことを考えてきたときだ。遠く向こうから汽笛の音が聞こえてくる。これは船の音? こんな時間に出航するのだろうか。それとも誰かが助けに来てくれたのか。ニーナは不思議に思いながらもその音に耳を傾けていたのだが。


 続いて響くのは海賊たちの陽気な歌声。四方を囲むように、島の至る所から野太い声が聞こえてくる。

 そして──


 ぽつぽつと、島に赤々とした明かりが灯る。それは松明に宿る炎の光。それらがまた一つ、また一つと灯される。その光は留まることなく増えていき、百を超え、さらに二百を超えてもまだ増え続ける。


「いったいなにが始まるの?」


 ニーナの呟きも歌声にかき消されて二人には届かない。


 やがて歌は終わった。そして続けざまに海賊たちが雄たけびを上げた。殺せ、殺せ、という大合唱も聞こえてくる。その声は大気を揺らしただけでなく、ニーナたちの心をも震わせる。海賊たちの咆哮は、正しくニーナたちに恐怖と絶望を与えていた。


 あの汽笛が奏でる音は号令か。遊びの時間は終わったのだと、これからが本当の狩りの始まりなんだということをニーナたちは思い知らされた。松明が見せる赤い光が一斉にこちらへ向かって動き出したが、竦んだ足は根を張ったように動かない。


 命がけの鬼ごっこは、まだ、始まったばかりだった。

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