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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
9章 海と無人島の大冒険
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紺碧の結晶

 深い青のなかに小宇宙を閉じ込めたような結晶体。それが<ゼノクリスタル>である。類まれなる量のマナを含有しており、その可能性は無限大。言うまでもなく調合素材としても優秀で、一キログラムもあれば家が買えるとさえ言われるほど高値で取引されている。


 そんな希少な素材がいま、ニーナたちの目の前でそびえ、輝きを放っていた。


「えっと……」


 あまりに予想外の状況に戸惑いながらも、とりあえず陸に上がってみることにする。ちょっと待っててね、とチョコたちに言い残して、両手に力を込めて体を陸に引き上げる。空気に触れたパレオがまた形を変えて、ただの腰に巻かれる布に戻った。


「これだけあればいくらで売れるかな?」


「さあ、予想すらつかないけど、全部お金に換えたらこの島ぐらい余裕で買えちゃうんじゃない? でもこれ、ほんとに<ゼノクリスタル>なの?」


 近づいて、手で触れてみる。するとそれだけで魔力の波動とでもいうのだろうか、たしかなマナの存在を感じた。鉱石の専門家では無いので自信はないけれど、これだけのマナを秘めた鉱石は間違いなく希少なもののはずだ。


「……やっぱりこれ<ゼノクリスタル>だよ。写真でしか見たことないから絶対とは言えないけれどさ、でも間違いないと思う」


「そうなんだ。でも、だとしたらなんでアンネリーネはこれを<紺碧の結晶>なんて呼んでたのよ?」


「それは……たぶんだけどアンネリーネさんが読んでいた本にそう書いてあったからじゃないかな? ほら、<ギザギザフィッシュ>のことを<ペッギョ>と呼んでたし」


「そう言えばそうだったわね。……そっか、同じ素材でも地域や時代によって呼び方が異なる可能性があるのか」


 アンネリーネの家にある書物はどれも古いものばかりだった。しかも、ここよりずっと東にある国で書かれたものである。きっと著者が暮らしていた地域では<ゼノクリスタル>のことを<紺碧の結晶>と呼んでいたのだろう。そして長いあいだ島に閉じ込められていたアンネリーネにとって、本の知識が全てだ。他に呼び方があるなんて知る由もない。だからこれが<ゼノクリスタル>であることを知らなかったはずだ。


 とにかく、これを採取して帰らなくては。

 アンネリーネの話によると、この結晶を使って作った指輪をはめて、満月の夜に祈りをささげることで呪いを解くことができる。そのために必要な量はそれほど多くない。指先ほどの大きさもあればでじゅうぶんらしいのだ。ニーナは斜めがけのかばんから採取用の瓶とハンマーを取り出す。


「シャンテちゃんも持って帰るよね?」


「……そうね。ここで見つけたのは本当に偶然だけど、兄さんのためにも持ち帰らないとね」


「あれ、もしかしてあんまり嬉しくない?」


「そんなことないわよ。ただちょっと驚きすぎて言葉がでないだけ」


「たしかに、不思議な光景だよね」


 ニーナは手を止めて頭上を見上げた。僅かな隙間から差し込む光。いつ、なにかの拍子に遮られてもおかしくないほどか細い光に照らされた紺碧色のクリスタルが作り出す景色は幻想的で、見とれてしまうほどの美しさがある。圧倒されて言葉が出ない気持ちも、すごく理解できる。


「ここって島のどの辺りに位置してるんだろう?」


「さあね。まったく見当もつかないけど、いまにして思えばこの島って狭いわりに坂が多かったし、案外こういった洞窟が至る所にあるのかもね」


 そして、そのなかでも<ゼノクリスタル>が存在する洞窟がたまたま海底からしか行くことのできない場所だった、ということなのかもしれない。


「ねえ、シャンテちゃん。私、必要な分だけ取らせてもらって、あとはこのままにしておこうと思うんだ。ダメかな?」


「ううん、アタシも同じ意見。ほんとは往復してでも全部持って帰って売っちゃえばいいんだろうけど、なんだかそんな気分になれないわ」


 この光景は、できるだけこのまま残しておきたい。そして自分たちのように偶然訪れた人たちが感動して、同じようにほんの少しだけ持ち帰って。そうしていつまでもこの素敵な空間が、本当に<ゼノクリスタル>を必要とする人たちのあいだでひっそりと受け継がれていけばいいと思うのだ。


「──よしっ、採取完了! それじゃあ帰ろっか」


「ええっ!」


 そうしてニーナたちは青く輝く結晶の洞窟をあとにする。帰る前に<しゅわしゅわエアドロップ>をもう一つ口に含んでから、イルカたちに導いてもらう。洞窟地帯を抜けるまで、イルカの姿を見失わないようにずっと気を張り巡らせていた。


 やっと広々としたところに出て、ニーナは安堵の息をつく。緊張状態から解放されて、自然と頬が緩んだ。隣では、同じように人魚の姿をしたシャンテが、やはり同じように大きく息を吐きだしていた。


 あとは水面を目指すだけ。光が差す方へ、コバルトブルーの世界を進んでいく。イルカたちも楽しそうに螺旋を描きながら泳いでいる。ほら真似してごらん、とでも言いたげなチョコの表情。そんなの楽勝だよ、とイルカたちのあとに続く。ニーナは心からこのひと時を楽しんでいた。


 そして──


「ぷはぁ……!」


「おー、お帰り。心配したぜ」


 迎えてくれたのはロブである。フラウもアンネリーネもここでずっと待っていてくれたようだ。


「お待たせしました。それからアンネリーネさんにはこれを」


 ニーナはかばんから瓶を取り出し<紺碧の結晶>を彼女に見せる。アンネリーネは本当に嬉しそうに、子供のような満面の笑みを見せた。


「あと、ロブさんのぶんもあるよ」


「俺にも? これ、実は食べると美味しいのか?」


 もう、ロブさんったら、とニーナは頬を膨らませる。


「これ、たぶんですけど<ゼノクリスタル>だと思うんです。解呪薬に必要な二つ目の素材、ゲットですよ!」


「えっ……えっ、マジで?」


「はい、大マジです!」


 ニーナはロブの目の前に結晶が入った瓶を持っていく。


「すげえ、鉱石のことなんかよくわかんないけど、これが物凄い力を秘めていることはわかんぜ。いやマジですげーよ!」


「ふふっ、よかった、喜んでもらえて」


 二人の笑顔を見ていると、頑張ってよかったなと心から思う。

 できることはやった。あとは満月の夜を待つだけ。そして偶然にも今夜がその満月だ。本当にこれでアンネリーネの呪いを解くことができるのか。その行く末を最後まで見届けたいと思う。

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