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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
9章 海と無人島の大冒険
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コバルトブルーの世界

「あっ、イルカだ!」


 笛の音に呼ばれてやってきたのは三頭のイルカだった。水面からひょっこりと顔を出し、なにか期待するような目でこちらを見ている。くりくりとした瞳。流線型の美しいフォルム。手を伸ばせば触れられそうな距離でイルカを目にすることができて、ニーナはとても興奮していた。


「その笛すごいですね! それも調合品ですか?」


「ええ、そうなの。初めて調合に成功した品物で、この子たちは私の大切な友達なの」


 そうか、アンネリーネにも友達がいたのか。決して一人で寂しくしていたわけではないと知ったニーナは嬉しくなる。

 その場にしゃがみ込み、イルカに手をかざしてみる。するとイルカのほうからニーナの手に鼻先で触れてきた。アンネリーネとの関係が良好だからか、とても人懐っこい奴だ。


 ふと、イルカを撫でながら思う。


「あれ? もしかして君、私の夢に出てきたイルカじゃない?」


 ニーナが訊ねると、イルカは首を傾げてみせた。

 ──さあ、どうでしょう? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね。

 まるでからかうように、イルカはどっちつかずの態度を見せる。


「夢って、海のなかをパレオを巻いて泳いだって言う、あれ?」


「うん。今朝話した夢に出てきたイルカとそっくりなんだ」


「アタシには三頭とも一緒に見えるんだけど、違いなんてわかるの?」


「そう言われるとちょっと困るんだけど、でも間違いなくこの子は私の夢に出てきたイルカだと思うんだ」


 ふーん、とシャンテは半信半疑のご様子。

 するとアンネリーネは、よく見ると三頭とも全然違うのよ、と言う。ヒレの形や体の大きさ、傷があったり。それに性格や泳ぎ方にも特徴があるのだとか。


 アンネリーネはそれぞれに名前を付けていて、奥の二頭はミルクとココアで、性別はメス。そして手前の人懐っこいオスのイルカがチョコというらしい。


「チョコ君ていうんだ」


 ケッケッケッ、とチョコが嬉しそうに鳴く。


「ねえ、私たちを<紺碧の結晶>のある場所まで連れて行ってよ」


 ケッケッケッ、とまたチョコが鳴く。

 任せな、と言ってくれた気がした。


 さあ、出発の時である。アンネリーネが用意してくれた<暗視のポーション>を喉へ流し込み、<お目目ぱっちり潜水目薬>を両目に。そして<しゅわしゅわエアドロップ>を口に含むと、シャンテと共にゆっくりと水の中へ。すると腰に巻いたパレオが形を変えて、人魚のような尾ヒレとなった。


 さらにアンネリーネから小さなかばんを渡される。防水機能付きのかばんで、なかには採掘道具と<拡縮自在の魔法瓶>が入っている。それをニーナは斜めがけした。


「それじゃあ申し訳ないけれど、二人にお願いするわね」


「はい、お任せください!」


 ロブとフラウも頑張れと言ってくれる。ニーナはそれに笑顔で応えると、イルカたちと共にコバルトブルーの世界に飛び込んだ。







 夢みたいだけど、夢じゃない。

 いま私はイルカたちと並んで泳いでいる。

 青くて、広くて、静かだけれどにぎやかな世界。

 力強く泳ぐ魚たちが真横を通り過ぎていく。


 すごい。これが海の世界なんだ。

 当たり前だけど夢なんかよりも圧倒的にリアルで、迫力があって、胸は高鳴りっぱなしだった。そんな海の世界に負けじと、ニーナも尾ヒレに力を込める。


 深く深く、海底を目指す。

 やがて、光に満ちた世界から、だんだんと暗くて寂しい光景が広がるようになった。聞こえるのはゴポゴポと自らの呼吸する音と、心臓の鼓動だけ。ここが同じ海とは思えないけれど、神秘性は少しも失われていない。冷たい水に包まれるのが心地よくて、空の旅とはまた違うワクワクとドキドキを感じていた。


 ──湖の底がこんなにも深いところにあるなんて、思いもしなかったよ。


 少しして、岩の裂け目のようなものが見えてきた。あれが海底洞窟の入り口だろうか。近づいてみると裂け目は思ったよりも大きく、通り抜けるのにじゅうぶんな広さだった。チョコが一度だけこちらを振り返って洞窟のなかへと入っていく。怖くないからついておいでよ、と言われた気がした。


 ──うわ、真っ暗だ。チョコたちはよくこんなところを通り抜けられるなぁ。


 ニーナたちは<暗視のポーション>のおかげでなんとか周囲の状況を把握できているが、イルカたちはそうでもない。それでも狭い洞窟内をぶつかることなく進める理由は<超音波>にある。イルカたちは超音波を出すことで、その反射音から障害との距離を測っているのだ。


 洞窟内はアンネリーネの言った通り非常に入り組んでいた。たとえ地図があっても迷ってしまいそうなほど複雑で、まさに天然の迷路と言う表現がピッタリだ。チョコたちがいなければまず間違いなく迷って進めなかった。


 右へ左へ。

 上へ下へ。

 ときおり広い空間に行き当たり、そこで何度か息継ぎをしながら、イルカたちは迷うことなく進んでいく。そんなイルカたちに置いていかれないように泳いでいく。もしもこんなところに一人取り残されてしまったらと思うとゾッとする。だからニーナは意識して考えないように努めた。


 あとどれくらいこうして潜り続けることになるだろうか。

 口のなかの<しゅわしゅわエアドロップ>が小さくなるにしたがって、胸のうちに不安が広がっていく。


 しかし、水中探索の終わりは唐突にやってきた。

 イルカたちが海面に顔を出したまま動きを止める。ここが目的地なんだろうか。ニーナとシャンテも水面から顔を出してみる。


「えっ、これって……?」


 ニーナたちは言葉を失った。

 視界一面に広がる青い結晶の世界。陸に上がった先にある、わずかに差し込む光に照らされたクリスタルは<紺碧の結晶>で間違いない。

 しかし驚くのはその量。岩肌が見えなくなるぐらい辺り一帯が結晶で埋め尽くされている。山のようにそびえる結晶が作り出す幻想的な光景に二人は息を呑んだ。


 しかもこの光の輝きようは、まさか……


「もしかしてこれ<ゼノクリスタル>じゃない?」


 それはシャンテとロブが探し求める、六つの素材のうちの一つと非常に酷似していた。

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