海で遊ぶといえば?②
「なに作ってんの?」
「ふふん、それはできてからのお楽しみだよ!」
ニーナはぐるぐると釜の中身をかき混ぜる。すでに<テクタイト><サンゴ礁の欠片><三つ目ネコのヒゲ><プリズムリーフ>を投入し、あとはじっくりコトコト混ぜるだけ。その様子をシャンテたち三人はのんびり気長に見守っていた。特にフラウは初めてニーナが調合する様子を目にするということもあって興味津々のご様子である。これは失敗できないな、なんてニーナは秘かに思う。
「……よしっ、それじゃあよーく見ててよ」
<神秘のしずく>が入った小瓶を手に取り、フラウに向けて微笑みかける。<青空マーケット>にて路上ライブを行っている気分だった。
──ぼふんっ!
立ち上る煙の色は白。それは煙突をくぐることなく、そのまま青空に向かって伸びていく。
そんな煙を目で追いながら、フラウが訊ねる。
「おぉー、もしやこの色は完成したのですか?」
「うん。ほら、完成品の<見通し眼鏡>だよ」
それは淡いピンクの縁が特徴的な眼鏡だった。<サンゴ礁の欠片>を使った軽いフレームに、レンズには<テクタイト>と<プリズムリーフ>を使用。そして<三つ目ネコ>が持つ<本来であれば見えないものを見通す>という特性を眼鏡に盛り込んだ。
これにはどんな効果があるのですか、と興味を示すフラウに、ニーナは得意げに説明する。
「これはね、海面から海の底まで見通すことができる眼鏡なんだ。ここの海って透明度が高いから結構遠くまで見通すことができるけれど、上からだと海面が光を反射してしまって、海のなかを見ることができないでしょ? でもこれがあれば顔を水につけなくても、海底の様子を確認することができるようになるはずなんだ」
そうなれば息継ぎの心配をすることなく、丘からゆっくりと海の幸を探すことができるはずなのだ。
「なるほどなるほど。この眼鏡をかければ、箒に乗りながらでも海の底を確認できるということですね?」
「うん。あんまり深いところは無理だと思うけれど、五メートルぐらい先までなら問題なく見えるんじゃないかな」
「これ、ひとっ飛びして試してきても?」
「もちろん。三つまとめて作ったので、それはプレゼントしますよ」
「おぉ、それでは遠慮なく」
フラウはピンクの眼鏡を受け取ると、箒を片手にすぅいーっと飛んで、海の上をぐるぐる回ったあと戻ってくる。
「どうだったかな?」
「いやあ、いいですね。ばっちりです。黄色いお魚や、イソギンチャクの姿なんかも見ることができましたよ」
望んだとおりの効果が現れたと聞いて、ニーナは表情をほころばせた。いつものように「すごいものを作ろう!」と意気込むことはなく、ただ閃きに任せて錬成しただけだったけれど、今回はかえってそれが成功につながったのかもしれない。
これに気をよくしたニーナは次の調合に移ることにする。
用意したものは<立派な骨>と<小刻みに震える石の欠片>と<鋼鉄ガニの甲羅>の三つ。いずれも浜辺で拾ったものばかりだ。これらをまた溶液のなかに投入し、ドロドロになるまで溶かし、煮詰めて、最後に<神秘のしずく>を投入する。
<骨伝導ソード>の完成だ。
「なにこれ、骨が骨になっただけじゃない」
シャンテの言う通り、見た目にはいくつかの骨をひとまとまりにしただけ。杖のように長くて硬い、丈夫な骨になっただけである。ソードと名付けた割には形状も杖やこん棒に近い。
でももちろんこれはただの骨じゃない。
ニーナはふふんと鼻を鳴らし、それをシャンテの腕にこつんと当ててみる。
「振動が、じんわりと広がってく?」
不思議な感覚にシャンテは目をぱちくりとさせた。
「どう、すごいでしょ? いまはこつんと優しく当てただけだけど、勢いをつけて思いっきり叩けばもっと強い振動を与えられるはずなんだ」
「たしかにすごそうではある。でもこれ、なにに対して使うつもりなの?」
「さあ? 閃いたものを形にしただけだし」
ニーナはあっけらかんと答えた。
シャンテは呆れたが、けれどニーナが楽しそうに調合しているのでいいことにした。魔女との一件以来、失敗続きだったことを考えれば、形になるだけ上出来なのである。
さらにニーナは付与術にも挑戦しようとする。港のお土産屋さんで見たものをヒントに、砂浜で拾った巻貝をもとにして作ってみようと思うのだ。
付与術といっても、調合の手順は錬金術とほとんど同じだ。錬金釜のなかに<マナ溶液>を注ぎ、巻貝に付与したい特性を考えながら素材を投入する。今回は<セオドア島の海水>と、持参した<風の結晶体>を選んでみた。緑色をした半透明のクリスタルである。
これらを<マナ溶液>と一緒に煮詰めたあと、最後に巻貝を錬金スープに投入するのだが、ここが一番のポイントで、巻貝を浸したあと間を置かずに<神秘のしずく>を入れて完成させる。巻貝が溶けて形が変わる前に強制的に錬成を終わらせることで、錬金スープの成分が巻貝にぎゅっと凝縮されるイメージだ。
そうしてできあがった巻貝は、一見するとなんら変化はない。見た目に変化がないことが付与術の良いところなので、代り映えがしないのは当たり前なのだが。
しかし、これを耳元に当てると……
「あっ、波の音だ」
シャンテの言葉に、ニーナはにっこりと頷いた。
「そうなの。波の音が聞こえる気がするんじゃなくて、本当に聞こえるようにしたんだ。あとここじゃ海が近すぎてイマイチわからないかもしれないけれど、潮の香りもするはずだよ。思い出の品としてはいいかなと思って」
「へー、たしかにね。お土産にも良さそうじゃない。ニーナってこういうのも作れたのね」
こういうの、とはどういう意味だろうか。
首を傾げてみせると、シャンテは補足するように言葉を足した。
「いい品物だと思うけれど、ニーナの発明品にしては地味だなと思ったのよ。普段はもっとこう、ぶっ飛んだものを作ろうとするじゃない」
「あはは……たしかに港のお土産屋さんに立ち寄ってなかったら、私も挑戦しなかったと思う。でも付与術ってこういうものなんだよ。錬金術よりは簡単だけれど、その代わりちょっとした効果を付け足すだけで、どうしても地味になっちゃうんだ。だから私は錬金術のほうが好きなの」
「なるほどね。それにしても今日は新しいレシピを立て続けに成功してるし、ここ最近のなかじゃ一番調子いいんじゃない?」
「うーん、どうだろう? 自分ではわかんないけど、いつもと違って気楽に調合してるからかな。売れるものを作ろうと思ってないし、効果をたくさん盛り込もうともしてないから。それに私もこの前本で読んで知ったんだけど、同じ場所で採れた素材って相性がいいらしくって、調合の結果も良いものになりやすいんだって。今回はこの島で採れたものを中心に錬成したからうまく成功できたのかも」
「ふーん、いろいろとあんのね」
「あっ、でもでも、みんなに見てもらいながら調合できたことが成功の一番の理由かも。注目してもらえたことが嬉しくて、絶対成功させよう、って思いながら調合してたんだ。いい意味で集中できたし、それになにより楽しかった。気分転換にもなったし」
「それはなによりだわ」
「うん。だからね、海に行こうって誘ってくれてありがと」
なんとなくだけれど、今回の旅行が自分のために計画されたものだとニーナは気付いていた。それはきっと魔女との一件のあと明らかに調子を崩したことをシャンテとロブはわかっていて、だからこそ遊びに行こうと誘ってくれたのだ。シャンテはお金に余裕ができたと言っていたが、それも恐らく嘘なのだろう。少なくともロブが人間に戻るその日まで、無駄遣いしていいお金なんてあるはず無いのだ。
──また、家に帰ったら頑張らないとね!




