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第2章ー32

 一刻も早く旅順要塞を落とす必要がある。

 大本営、満州軍総司令部、第3軍の意志は完全に統一されていた。


 9月1日から行われた旅順要塞第一次総攻撃により第3軍は大損害を受けたが、要塞攻撃に損害はつきものである。

 死傷した人員の補充を受け取り、射耗した弾薬の補充を受け、坑道作業を続行して、と第3軍は旅順要塞攻撃を、まるで大規模な土木工事を計画通りに遂行するかのように不屈の意志で遂行していった。

 満州軍からは独立工兵大隊の更なる第3軍への増援を大本営に要請が行われ、大本営はその要請を裁可して、独立工兵大隊が第3軍に送り込まれた。

 このような状況から、第3軍の旅順要塞第二次総攻撃は10月1日を期して行われることになった。

 問題はどこにどのような規模で旅順要塞第二次総攻撃を行うかであった。


「鈴木中佐は、やはり10月1日からの海兵隊の203高地総攻撃には反対か」

 海兵師団長の林忠崇中将の問いかけに鈴木貫太郎中佐は明確に反対論を述べた。

「職を賭してでも反対します」

「うむ」

 林中将は渋い顔をしながら、203高地をみやった。

 203高地に対する坑道攻撃の準備は順調には進んでいる。

 だが、203高地にはまだ充分には近接していない。


「火力支援が不充分でも中村少将率いる第1海兵旅団の203高地への突入自体は成功しました。あの時は坑道すら無かったのにです。海兵師団全体で203高地を強襲すれば、今度こそ203高地は落とせるのではと愚考しますが」

 岸三郎中佐が積極論を述べるが、賛同者はいない。


「しかし、あれは露軍の不手際が大きかったからな」

 黒井悌次郎中佐が口を挟んだ。

「203高地の地形をよく見ろ。203高地は制高点なのは確かだが、周囲からの陣地からの火力支援が容易に行える地形でもある。下手に203高地に対して攻撃を行った部隊は十字砲火を浴びて文字通り殲滅させられるぞ」

 海兵師団参謀長の内山小次郎少将も反対意見を述べた。


 実際、203高地の地勢は土方勇志少佐の目から見ても極めて攻めにくい地勢だった。

 周囲の露軍陣地から支援するのが容易なのだ。

 制高点ということは周囲からの視界も開けているということである。

 露軍陣地を潰さないと203高地を制圧することはできない。


「こういうのはどうでしょうか。203高地に対する短時間の砲撃だけ行い、海兵の突撃は行いません。砲撃を加えることで助攻を203高地に加えるのではと露軍に警戒させるのです。203高地に対する予備部隊を露軍は引き抜けなくなります。これによって、第9師団と第11師団の攻撃を間接的に支援するのです」

 土方少佐は代案を提示した。


「ふむ」

 林中将は悩んだ。

 203高地に対する攻撃が可能になるのには後1月は掛かるだろう。

 そんなに長く旅順要塞に対する攻撃を行わないわけにはいかない。


「右では殴る素振りだけして、左で全力で殴るというわけか」

 内山少将は土方少佐の提案を要約した。

「はい」

 土方少佐は肯定した。

「それしかないか。乃木第3軍司令官にその旨を上申する」

 林中将は決断した。

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