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エピローグー3

 満鉄日米共同経営が実動を始めます。

 周囲にその波紋が及びます。

 1907年1月、小倉処平は大連駅のホームに来賓の1人としていた。

 日米共同経営となった満鉄はようやく突貫工事の末、ハルピンから大連の間の鉄道について標準軌への改軌を終えて、今日から運行を開始することになったのだった。

 運行開始を祝う式典等の合間を縫って、満鉄運行のために導入された米国製機関車等を小倉は見学したのだが、その性能等には目を見張らざるを得なかった。

 早く、これに追いついた機関車等を自国生産できるようにならねば、小倉は内心で固く決意した。


 満鉄の正式運行開始の情報を漢城にいた金弘集宰相は当然、把握していた。

 ハリマンは朝鮮国内の鉄道経営も希望している。

 釜山から漢城を経由して義州へ、更に漢城から仁川をつなぐ鉄道敷設をハリマンは希望している。

 いずれは満鉄とこの鉄道を接続したいのだろう。

 金宰相は、満鉄と似たような形式でそれを認めるつもりだった。


 朝鮮国が経営権の過半数を握るのが大前提だ。

 技術支援等を得られる上に、米国資本が入ってくることで、我が国が日本単独支援に頼る危険性も減らせるはずだった。

 日本がもし無理難題を言って来ても、いざという時には断れるようにしなければならない。

 我が国は独立国なのだ。


 自分も60歳を過ぎ、いつ死んでもおかしくない。

 日本のように憲法を制定し、欧米諸国からもれっきとした国家として認められるようにならねば、もうそんなに時間は無い。

 欧米諸国から1人前の国家として認められると共に、米国との経済的結びつきと日本の軍事支援で朝鮮の独立を維持する。

 自分の死後の朝鮮について、金宰相はそのように将来を構想していた。


 満鉄の正式運行開始の情報をホワイトハウスにいたルーズベルト大統領は複雑な感情を抱きながら聞いていた。

 確かに日本が米国からの清国の門戸開放の要求に明確に応じて、満鉄共同経営に乗り出したのは米国経済にとってうれしいことだった。

 だが、このことによって、米国も日英と同じではないか、と清国の国民の間に反米感情が巻き起こっているというのだ。


 清国の国民にとって、日清戦争の敗北以来、反日の主張は絶対の正義ともいえる主張と化している。

 やはり、ハリマンの行動は出来る限り阻止すべきだったか、満鉄に対してはモルガン財閥の財政支援にだけ止めるべきだったかもしれん。

 幾ら大統領とはいえども、民間の行動を規制することはできないので、ルーズベルト大統領はある意味で二股を掛けざるを得なかった。

 そして、日本はハリマンを選んだのだった。


 ハリマンは朝鮮国内の鉄道利権にも色目を使っており、国務省からの情報によると朝鮮政府は日本に対する牽制の意味からも、ある程度の条件を付加した上でハリマンの朝鮮国内の鉄道敷設を認めるつもりらしかった。

 このまま行くと、米国は東アジアにかなりコミットしていく必要が生じそうだった。

 フロンティアラインから太平洋へ進出する政策の帰結とはいえ、このことは米国にとって本当に良かったのだろうか。

 むしろ、満鉄を日本に任せ、日清間の対立の漁夫の利を図る方が米国の真の国益につながったのではないか、ルーズベルト大統領の脳裏にはそんな思いさえよぎった。

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