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エピローグ-1

 エピローグは登場人物の後日談になります。

 1は、土方勇志少佐にとってのエピローグです。

 土方勇志少佐は、本当に何年ぶりかの故郷への帰省を満喫していた。

 あの慰労会の後、海兵師団に対して動員解除と帰国についての命令が正式に届いた。

 年の瀬も押し詰まる頃にはなったが、何とか年内に土方少佐は家に戻ることが出来た。

 更に、しばらくの休暇を土方少佐が海兵本部に申請したところ、海兵本部はそれも許可するという温情を示してくれた。


 その休暇を活用して、1905年の年末から1906年の年始を土方少佐は故郷である屯田兵村で過ごすことにした。

 当然、妻と子ども4人も伴っている。

 妻も同じ村の出身だった。

 妻も久しぶりの帰省に喜んだが、子どもたちは不平をこぼした。


 子どもたちは物心ついてから屯田兵村の冬の寒さを経験したことは無い。

 東京、横須賀、佐世保等、北海道の屯田兵村と比較すると暖かい土地でしか冬は過ごしていなかった。

 その子どもたちにとって、屯田兵村の寒さは余りにも身に染みた。


「少しは外で遊んだらどうだ。雪で遊べるぞ」

 土方少佐は子どもたちに声をかけたが、子どもたちは皆、頭を振った。

「お父さん、ここは寒い。東京に早く帰りたい」

 一番年上の長男が訴えた。

「全く、1月4日になったら帰るのに、早く帰りたいだと。少しはここで遊ぶことを考えろ」

 土方少佐は子どもたちを叱った。


「子ども達の気持ちは分かりますね。私もここの寒さになじむのには何年もかかりました」

「母さん」

 口を挟んできた母の琴の科白に、土方少佐は思わず母をたしなめるような口調になった。

「それにしても本当に良かった。額に向う傷の跡が残ったとはいえ、五体満足で帰れて」

 母の目はあらためて潤みかけている。


 それが目に入った瞬間、土方少佐は何も言えなくなった。

 長男の土方少佐に代わって、屯田兵村の田畑を受け継いでいる弟が横から言った。

「兄さん、お母さんは毎日、近くの神社にお祈りに行っていたんだ。無事に息子が家に帰ってきますようにと。今度はお父さんのように帰ってこないのではないか、と本当に心配していたんだ」

「そうだったのか」


 土方少佐はあらためて思った。

 あの父、歳三父さんでさえ、戦場で亡くなったのだ、母はどんなに心配していたことだろう。


「兄さん、年末年始はゆっくり寛いでくれ。そして、戦場の思い出話をしてくれないか」

「分かった。だが、勇ましい勲功話は無いぞ。本当の戦場ではそんな勲功話は滅多にない物だ」

「分かっていますよ。歳三さんの話す戦場での話は愚痴ばかりでしたからね」

 母は更に言った。

 土方少佐は苦笑いせざるを得なかった。


 父は戊辰戦争では基本的に負け戦しか経験していない。

 台湾出兵の際にはマラリアに罹って父は死線を彷徨う羽目になった。

 そして、本来なら栄光に包まれてこの父の第二の故郷に生きて凱旋するはずだった西南戦争のときは、父はここに生きては凱旋できなかった。


 父が帰ってきたときの、自分はぼんやりとしか覚えていない父の葬儀を土方少佐は思い起こした。

 自分は今のところは戦場から無事に帰還している、本当に幸運に恵まれたものだ。

 気が付くと自分の目頭が熱くなっていた。


「お父さん、急に涙をこぼしてどうしたの」

 長男が自分の涙に気づいて声をかけてきた。

「気にするな。目にごみが入ったようだ」

 土方少佐は誤魔化した。

 だが、溢れてくる涙を暫くの間、どうしても止めることが出来なかった。

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