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第4章ー12

 念のために書きますが、この世界では朝鮮はれっきとした独立国です。

 ただ軍事的には日本に保護されています。

 1950年代の自衛隊創設前、保安隊はあるものの米国に保護されている日本と似たような状態に朝鮮はあると思ってください。

「どちらが困るか」

 山県有朋参謀総長は本多幸七郎海兵本部長に問い返した。

「ええ、まだ誰も手にしていない朝鮮国内の鉄道利権を日本が独占的に手に入れたために米国が露清密約に加担して日本の敵に回るかもしれない可能性を引き起こすのと、いっそのこと南満州から朝鮮国内まで米国の民間資本に鉄道利権に参入することを認める代わりに米国に日本の味方になってもらうのと、どちらが日本にとって困ることでしょうか」


「当たり前のことを聞くな。前者の方が日本は困るに決まっておる。バルチック艦隊が太平洋艦隊として展開している状況で、米海軍が露海軍の味方になる。そんなことになったら、日本は両面作戦を展開するしかなくなり破滅だ」

 山県参謀総長は喝破した。


「ええ、独が露仏同盟に挟まれているのと同じ状況になりますな」

 本多海兵本部長はわざと独贔屓の陸軍を煽るような言い方をした。

 山県参謀総長は思わず本多海兵本部長を睨んだ。


「朝鮮はれっきとした独立国です。そこの手に入れもしていない鉄道利権なんて無いと割り切って、その金を日本国内に投資した方が有利ではないでしょうか。すぐに利益も上がりますよ。朝鮮に鉄道を敷いて産業を起こして鉄道を黒字化する?何年先になるか分かりませんな。何しろ、日清戦争までまともな道路がろくになかった貧乏国です。そんな国の鉄道利権は端から無かったと割り切りましょう」

 本多海兵本部長は平然と言った。


 山県参謀総長は、本多海兵本部長の口ぶりに鼻を鳴らして答えた。

「お前の言いたいことは分かった。要するに大陸利権は日米で分割して、露清に対抗すべきだということだな」

 山県参謀総長は本多海兵本部長に問いかけた。


「ええ、露の今回のバルチック艦隊回航のやり口を見ても、露と同盟なり協商なりを一時は組んでもすぐに反故にされるのが、目に見えています。清国と日本の関係は日清戦争以来最悪で、手を組むことは無理でしょう。そして、露と清は接近しています。更に米国は清国の門戸開放を叫んで、清国市場への参入を企んでいます。門戸開放宣言のおかげで、米国は清国内の権益を望まないと見られており、清国内には親米の雰囲気が高まっているとか。下手をすると清国を仲介にして、日本を清国から追い出すために、米露が手を組みかねません。それを分断するために、日本は米国と積極的に手を組むべきです」

「確かに南満州鉄道が日米共同経営になったら、清国内の民族主義者は米国も日本と同じ穴のムジナのように見えて、米国を敵視するようになるな」


「ええ、この目に見えるというのが大事です。見えないところが本当は重要なのに、見えるところにばかり注目する馬鹿が多いですから。それにああいう人たちは義和団事件を起こす等、単純ですしね」

「全く本多正信の生まれ変わりがよく言うわ。本多正信の方が遥かに善人だ」

 山県参謀総長は更に鼻を鳴らして言った。


「お前の言いたいことは分かったが、そんなに物事がうまく運ぶか」

 山県参謀総長は本多海兵本部長に尋ねかけた。

「米国の民間資本が南満州鉄道の共同経営を持ちかけなかったら、お前の言うことは実現できんぞ」

「ご心配なく、強欲はキリスト教では大罪のはずですが、欧米諸国には強欲が揃っています。年内には誰かが必ず言ってきますよ。その中で、日本に最もいい条件を提示した米国人を選びましょう」


「お前の言うとおりになればいいがな」

 山県参謀総長は懐疑的な口ぶりを示した。

 だが、内心では本多海兵本部長の言うとおりになると思わざるを得なかった。

 山県参謀総長は本多海兵本部長の言う方向で動くことを決めた。

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