第4章ー11
「幕末のペリー来航以来、我が国は対外関係で苦労してきました。それには同意していただけると思いますが」
本多幸七郎海兵本部長は反問した。
山県有朋参謀総長は黙って肯くことで同意した。
「実際問題として、欧米諸国の要求はヤクザ同様の代物です。日本に僅かでも落ち度があれば、そこを即座に衝いてきました。馬関戦争とかでは散々えらい目に我々、幕臣は遭わされました。勝手に賠償金の約束を欧米諸国にされた方までおられましたな。それを欧米諸国に盾に取られて、本当に我々は困りました」
本多海兵本部長は皮肉めいた口調で話した。
山県参謀総長は苦笑いした。
勝手に欧米諸国に賠償金の支払いを約束したのは、山県参謀総長が尊敬する松下村塾の大先輩、高杉晋作である。
その際には今は元老になっている伊藤博文や井上馨も高杉晋作に加担している。
ちなみに山県参謀総長はその時、奇兵隊の一員として英仏蘭米の四国連合艦隊と戦っている。
40年程前の青春の日々を思わず山県参謀総長は思い起こした。
「ちなみにその時、米国は南北戦争という国を二分した内戦の真っ最中でした。それにも関わらず、米国は軍艦を派遣してきっちりと我々に報復しています。米国はそういったところがあります。先日も「リメンバーメイン」でしたかな、そう叫んだ末にスペインとの間の紛争を武力で解決しています。ヤクザが顔を潰されると怒るように、米国も自国の面子が潰されるとそれを今まで決して許していません」
本多海兵本部長はそこで一息入れて更に続けた。
「ポーツマスで日露間の講和を米国が斡旋しているのは、それによって米国が利益を得たいからです。日露講和の後で、米国に利益が得られなかったら、米国世論は日露間の講和を仲介したのに米国に利益が無い。米国の面子が潰されたと騒ぎ出しますよ」
「それは考え過ぎだろう。それに米国の民間資本から南満州鉄道の経営に関して借款申し入れ等があったら、それは受け入れるつもりだ。小村外相らも既に賛成している。それによって、日本が満州の独占をはかろうとしているという誤解を米国世論から受けることは避けられるはずだ」
山県参謀総長は口を挟んだ。
「考えが甘すぎますな。借款はどこの国に対しても行えます。清国は日本を敵視しています。清国が南満州鉄道に並行した鉄道を敷設したいと言いだしたら、米国の民間資本は喜んで借款を行うでしょう。借款を返してもらえて自分がもうかるならば、米国の民間資本は気にしません。日本はそれを容認できますか」
「容認できるわけがない。そんなことをされたら日本の鉄道経営のもうけが減ってしまう」
山県参謀総長は本多海兵本部長の質問に答えた。
「だからこそ、南満州鉄道を日米共同経営にする必要があるのです。南満州鉄道の経営に米国の民間資本が参加して日本と共同経営する。米国世論からしてみたら、日本が積極的に米国の門戸開放に味方したように見えるでしょうし、実際に米国の利益になっている。世論の後押しを受けて、米国政府は日本に味方するようになります。清国が南満州鉄道に並行した鉄道を敷こうとしたら、それに米国政府は反対するでしょう」
「ふむ」
山県参謀総長には、本多海兵本部長の主張は一理あると思えだした。
「しかし、そんなことをしたら、朝鮮の鉄道まで米国に握られないか」
山県参謀総長は心配した。
「朝鮮は日本の生命線だ。その鉄道を米国に握られるのは困る」
「確かに困りますが、どちらが困るかと言う問題があります」
山県参謀総長の問いかけに本多海兵本部長は答えた。
すみません。
次で本当に終わらせます。
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