だって、これ……ただのパンつだし
すかさずタカトは四つん這いになって床を這いずり回りだしていた。
その姿はまるでゴキブリそのもの。
素早い動きで割れたビンの破片を避けながら素早く錠剤を拾っていくのだ。
青い錠剤、もしかして!
――バイアグラGET!
このオレンジの錠剤は!
――レビトラもゲッチュー!
やけにED治療薬に詳しいタカト君wwww
そんな彼の指先に一つの玉がつままれていた。
「なんだこれ?」
それはプニプニとした白き玉。その表面に黒い大きな●が一つ描かれていた。
しかも、右に左に動かしてまじまじと観察していると、その丸い黒丸がドーナツ形にビローンと伸びたではないか。
――げっ! 気持ちわる!
この白き玉、タカトに見られてなにやら恥ずかしがっているようにも見える……
だが所詮は玉は玉。玉が恥ずかしがるわけもない。
ということで、きっと見間違いか何かだろうと自分を納得させたタカトは、自分の持っているインポ薬知識の中に該当するものはないかとイロイロ観察したのだが……どうにもそれらしき錠剤は一つもなかった。
ということで、
「こんなのwwwwいらねwwww」
まるで鼻くそでも弾くかのようにタカトが指先に掴んだ玉を投げ捨てようとしたときの事!
「ちょっと待ったぁぁぁあぁぁぁ! クソ野郎ぉぉぉぉぉぉお!」
と、ルリ子の叫び声がタカトの動きを制止したのだ。
そう! それこそカエルの目玉!
ルリ子が探し求めていた死んだ体を動かすもとである。
ルリ子はタカトからカエルの目玉をサッと奪い取ると、嬉しそうにそれを見つめていた。
「きっと、これでお父さんは生きカエル」
何はともあれ、無事に死体安置室に戻ってきた4人の面々。
って誰やねんwww
普通分かるやん!
タカトとビン子とルリ子とコウエンね!
死体安置室はロープでぐるぐる巻きにされた首なし死体が壁にもたれて座っていた。
どうやら、NHKの面々は、お菊が戻ってくると死体安置室を後にしたようである。
で、暴れるゾンビをそのままにしておくわけにはいかず……ロープで拘束、ほり倒す。
そのゾンビはというと、先ほどからぐったりとして動かない。
もしかして死んだのだろうか?
いや、そもそも最初から死んでいるのだから死んだとは言わないのだろう。
という事は電池が切れただけ?
ならばこういう時こそ!
「ア●パンマン! 新しい顔よ!」
と、バタコさんならぬルリ子さんが、研究室から持ってきたヒロシの顔をポンとゾンビの体にくっつけた。
そして、次に瞬間!すかさず、その白く干からびた口の中にカエルの目玉を突っ込む!
ぼこっ!ぐえ!
その瞬間!ヒロシの口からカエルがつぶれるような音と共に唾液が飛び散った。
いや、もしかしたら唾液ではなくて残っていたホルマリン液かもしれない。
だが、それよりも驚くべきことは!
なんと!
死んだはずのヒロシの目玉がぎょろりと動いたのだ。
「元気一杯! パ●パンマン!」
そして、ピクリとも動かなかったゾンビが勢いよく立ち上がったのである。
まるで、背後で赤と黄色の旭日旗がくるくると回っているようだwwww
だが……
首がポトリ……胴体から外れて床に転がった。
というのも、ヒロシの頭は体としっかりと結合されていなかったのだ。
だが、心配なさるな!
こんなこともあろうかと、デスラーは融合加工をしていたのだ!
そう!食パンマン子さんから採取された蝦夷アワビではなく食パン!
これで首と頭とを両脇からパン!と挟み込めばあら不思議!
またもや……首が落ちてころがった……
どうやら、首と胴体をつなぐ食パンが古くなっていたようだった。
確かに言われてみればパンの表面のいたるところに青カビ……どころか、溶けて穴が開いていた。
まぁ、10年も放置しておけばパンだって腐って溶けだしてしまう。
だが、ルリ子は諦めない。
何度も何度も食パンで挟んではパン!ぱん!パン!
しかし、やっぱり食パンは粘着力の失ったシールのようにビローンと垂れてくるばかり。
――クソ! せっかくお父さんの頭を見つけたというのに!
そんなルリ子の目に涙がうっすらと浮かぶ。
――何年探したと思っているんだよ! クソ!
強くかみしめた唇にしわが深く刻まれる。
――やっと、お父さんにごめんなさいっていえると思ったのに……やっぱり……ダメなのかよ……
「くそったれぇ!」
パン!
ひときわパンを叩く大きな音が響いた。
最後の希望。
一縷の希望を抱いてルリ子は、そっとパンの表面から手を放した。
――これでダメだったら……
だが、腐ったパンは腐ったパン!
気合でどうにかなるものではない。
ルリ子が手を放した途端、当然のようにビローンとその垂れ落ちた。
ゾンビ、いや、今はヒロシか……ヒロシは落ちそうになる頭を自らの手で支える。
そして、ルリ子に微笑みかけるのだ。
「もういいよ。ルリ子……」
それを聞いた瞬間、ルリ子の涙腺が崩壊した。
「お父さん!」
ヒロシの体に飛びつくルリ子。
それが腐った死体であるというのに、そんなことなど気にすることなく胸に顔を押し付け泣きじゃくっていた。
「お父さん! ごめんなさい! ごめんなさい! ずっと、私、謝りたかったの!」
ヒロシはそっとルリ子の頭に手をのせ
「ただいま……ルリ子……」
「お父さん……」
そんな二人の様子を見ていたビン子とコウエンは、いつしか涙ぐんでいた。
――ウンウン……親子っていいよね……私も権蔵じいちゃんに一杯、孝行しなきゃ。
――親子の情愛は死をも超えるものなのか……アーメン ソーメン ワンタンメン……
だが、そんな感動と無縁の生き物がココにいた……
そう、それは我らのタカト君wwww
タカトは無神経にも抱き合う二人にズカズカと近づくと、かろうじてちょびっと引っ付いているパンを無理やり引っぺがしたのだ。
びりっ!
その様子に驚くビン子とコウエン。
そして、当のヒロシとルリ子も目を点にして呆然とタカトを見ていた。
どうやらもう、固まって声も出せない様子。
タカトは引っぺがしたパンをマジマジと見つめる。
「これ腐ってるな……」
当然である。だって、ゾンビの首をつないでいたのだからwww
だが、そんなことは分かっていても、その行為は許せない。
「何しやがるんだ! このクソ野郎が!」
涙目のルリ子が勢いよく立ち上がると、タカトのビリビリになった襟元をつかみ上げた。
びりっ!
当然、破れるタカトのティシャツ。
かろうじてティシャツに残っていたアイナちゃんの頭のプリントも真っ二つ。
読者の皆さんの事だ、しっかりとイメージできているとは思うがアイナちゃんは縦に真っ二つだからね。
ちなみに、パンを引っぺがされたゾンビのヒロシは横に真っ二つ。
またもや、首が地面に落ちて転がっておりましたとさwww
「あああ! 何しやがる! 俺のアイナちゃんが!」
その惨状を見たタカトの目は涙目。
だが、ルリ子はそんなことはお構いなしで、握るティシャツに力を込めて突き上げていた。
「何が!何しやがるだ! このクソ野郎が! せっかくの首をつなぐ融合加工が台無しじゃないか!」
それを聞いたタカトはきょとん。
そして、一息ついて吹き出した。
ぷっ!
「え? 融合加工? もしかして、このパンの事?」
タカトは腐ったパンをフラフラ揺らしながらルリ子をおちょくった。
おそらくその様子がさらにルリ子の怒りに油を注いだのだろう。ルリ子の声がさらに大きくなった。
「それ以外に何があるっていうんだ! このクソが!」
もう、クソの後ろに野郎もつかないwww
かなり怒髪天のご様子だwwwと、思ったのだが、次の瞬間、タカトの胸に頭を押し付けて嗚咽をこぼしだしたのだ。
「せっかく……お父さんの頭を見つけたというのに……もう、くっつかないんだぞ……もう……」
それを聞くタカトの顔が真顔に戻る。
そして、一瞬、ルリ子の力が弱まったのを見計らい腕を振り払うと、手に持っていたパンをぐちゃぐちゃに丸めてズボンのポケットの中に無理やり押し込んだ。
「ちっ!……あぁあ……もう!」
そして、一度舌打ちをすると、フリーになった両手で惜しむかのように真っ二つに割れたアイナちゃんを引っ付け始めたのだ。
「俺のアイナちゃんが……真っ二つ……まぁ、引っ付けておけば、まだ着れるか……」
いやいや、無理だと思います……byビン子
だって、それはボロボロ……もう、服としての体裁が残っていない……
こんな状況で、アイナちゃんの表情が残っていただけでも奇跡だったというものである……
だがしかし! タカトはそんなことお構いなしにポケットからビニールテープを取り出すと真っ二つに引き裂かれたアイナちゃんをくっつけ始めたのだ。
「これでよし!」
ティシャツの継ぎ目にビニールテープ……何がいいのか分からない。こんなテープ、洗濯すれば一発で剥がれ落ちることは目に見えていた。
だが、タカトは気にしない。
いや、洗濯をしない。
だからこそ、日々の洗濯はビン子の仕事になっていたのだ。
これは別に男尊女卑とか女性の役割を決めつけるなどと言ったものではない。
タカトは洗濯する必要性を全く感じていないのである。
汚くても着れたらOK!
臭くても服は服なのだ!
そんなタカトに洗濯時にテープがはがれると全力で説いたところで無駄な事。
だから、本人はそれで修正できたと完璧に思っているのだ。
「次はと……」
タカトはそういい終わると、床に転がるヒロシの髪の毛をつかみ上げ、両手でつかんでゾンビの首の上に勢いよくのせた。
だが、勢いよくのせたところで首は体に引っ付くわけはない。そんなこと、ルリ子がすでに何度も試している。
だからこそ、頭が落ちないようにパンで両脇から止めようとしていたのだ。
しかし、そんなパンも、すでにない。
タカトのポケットの中でぐちゃぐちゃに丸められて固まっているのだから。
だが、次の瞬間、タカトの取った行動に皆が驚いた。
そう! ヒロシの頭と体がしっかりとくっついたのである。
「これでよし!」
額に浮かぶ汗をぬぐうタカト。
そんな手には先ほど使っていたビニールテープがしっかりと握られていた。
そう! 何を隠そう! タカトはこのビニールテープでヒロシの首をぐるぐる巻きにすることで頭とつないだのである。
「なっ!完璧だろ!」
「って、何が完璧やねん! これ!ただのビニールテープやないかい!」
さすがにビン子は突っ込んだ!
というか、ルリ子とコウエンはタカトの行動にぽかん!
だって、仕方ないだろ。頭と首をつなぐためにデスラー副院長は融合加工までしたパンをわざわざ使っていたのだ。
「それが、ただのビニールテープで止まるものなのか……」
疑問に思ったコウエンが言葉を漏らす。
それを聞くタカトはプッと噴き出しながら、ズボンから固まったパンを取り出し、指につまんで皆に見せるのだ。
「えwwwこれ融合加工なんてしてないしwwww」
「「なんですと!」」
当然、ビン子とコウエンは驚いた。だが、ルリ子は納得できない様子。
「嘘つくな! そのパンで今まで体と首を止めていたんだぞ! そのために、あの糞デスラーが融合加工したと言っていたんだぞ!」
「だって、しょうがないじゃんwwwこれただのパン、というか蝦夷アワビを包んでいるパンつだしwwww」
「ただのパン……つ……」
「だったら、ただのビニールテープで引っ付けられるのも当たり前でしょうがwwwこれだったら、ルリ子さんも取り換えできるでしょwwww」
確かにそうだ……
今まで融合加工されたパンがないと引っ付かないと思っていた。
それが、ただのどこにでもあるビニールテープで引っ付けられるのであれば、いつでもテープを交換することができる。
そう、水にぬれてはがれても……
ならば、また、あの子供の時のように一緒にお風呂に入ることだってできるじゃないか。
そう思った瞬間、ルリ子の涙腺が崩壊した。
そして、タカトを強く抱きしめルリ子は何度も何度も感謝の言葉を述べるのだ。
「ありがとぅ……ありがとぅ……」
だが、こんなとき……空気を読めないのがタカト君……
「感謝するなら飯をくれ!」
グぅ……タカトの腹がなっていた。
そういえば、今はもう夜の7時ごろ……朝から何も食べていなかった。




