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本当に陳さんは寝たきりなのか?

「動くな! NHKだ!」

 屋上へとつながるドアを、お菊が大声とともにけ破った。

 それは突然の出来事!

 まるで屋上でエロ本を読みふけっていた学生たちの元に、風紀指導の先生がいきなり「なんばしヨッとか! この馬鹿チンが!」などと怒鳴り込んできたようなもの。

 タカトと立花はすでに気が動転し、ズボンの中の陳さんともども、なすすべもなく立ち尽くすばかり。

 そんな彼らを一斉になだれ込んできた5人の女が取り囲んでいた。


「貴様! その手に持っているものはなんだ!」

 短鞭で立花の持つ本を指したお菊の声は怒鳴り声!

 その獄卒にも近しいプレッシャーは立花を畏怖させるにはあまりある。

 だからなのか、立花はとっさに手に持っているムフフな本を背後へと隠したのだ。

 だが……

 もう遅い!

 その本を隠そうとも、床の上にはムフフな本が大量に詰められた段ボールがあったのだ。

「こ……これは……その……保険体育の教科書であります!」

 もう苦し紛れの下手な言い訳wwwだが、立花にはこう言うほかに選択肢などなかったのだ。

 というのも、立花は知っていた! そう! NHKの恐ろしさを! いや、おぞましさを……

 逃げても逃げても追ってくる。

 断っても断っても呼び鈴を押し続けられるのだ。

 最近は丸くなって、訪問をやめたと聞いていた。

 だが、それは表面上の話であって、裏では、なにやらおぞましい事を計画しているのである。

 例えば、スマホ単独所持者からもブツを徴収するとか……

 マジで気が狂っているとしか思えない。

 ――NHKだけは嫌だ……

 立花の本能が拒絶する。

 ――ワンワンだけは絶対嫌だ……

 だが、いかに拒絶しようとも、NHKの絶対権力の前では一個人の力など無力に等しい!

 そう、奴らは公共というなの国家権力!

 アルダイン直属の秘密警察なのである!


 そんな秘密警察に睨まれた立花は、蛇に睨まれたカエルそのもの。

 逃げ場などどこにもない。

 おそらく、今、一歩でも動けば食われてしまう。

 まさに絶体絶命!

 だが、生き物の生存本能とは素晴らしい!

 追い込まれれば追い込まれるほど頭がさえわたるのだ。

 そう!今まさにボケていた立花の頭がフル回転していた!

 そして導き出される解決策!


 それは!


 責任転嫁!


 ということで、立花はタカトを指さしながら涙を流して訴えたのだ。

「あいつです! コレは全部! アイツのモノなんです!」

 タカトに全責任をなすりつけ!

 汚ねぇ! マジで汚ねぇ!

 まあ当然、それを聞くタカトは驚きを隠せなかった。

「なんでやねん!」 

 一緒に戦ってきた同士だと思っていたのに、いきなり背中からロケット砲を撃たれたようなものだ。

 あの立花のいやらしい笑みを見てみろ……おそらく、してやったりと思っているに違いない。

 だが!しかし!これで終わったわけではなかった。

 どうやら、奴の攻撃はまだ続くようである。

「このヨボヨボなカラダを見てください……」

 立花はしわくちゃな手をわざとらしく震わせながら自分の股間を指さした。

「もう……もう……陳さんなんて何年も寝たきりで……被った布団の中から顔すら見せたことすらないんです……」

 ――そうか……陳さん……布団から出られないほど重病なのか……それは大変だな……

 などと、お菊が思ったのかどうか知らないが、先ほどから神妙な面持ちでタカトをにらみつけていた。

 その様子を見た立花は確信した。

 ――これは逃げ切れる!

 ならば、最後のダメ押しを!

「そんな私がどうして、こんなロリロリエロ本など必要としますでしょうか! 否! 今!必要とするのはロウロウ(老老)介護本!」

 確かに! 年老いた立花にとって老老介護は重要な問題!

 エロ本を見ながらウハウハ言うよりも、介護本をみながらウトウトしている方が似合っているといえば似あっている。

「それじゃ……あっしは失礼しますんで……あとはどうぞ、若い者同士、煮るなり焼くなり腰を振りまくるなり、お好きなようになさってくだせぇwww」

 笑顔を振りまきながら階下に降りる階段に向かってそそくさと歩き出す立花。


 であったが……


 そうは簡単に問屋が卸さない!


 立花がお菊の脇をとおりすぎようとした時、横からサッと手が伸びてきて、その行く手を遮ったのだ。

 それは先ほどまでタカトをにらみつけていたお菊の手。

 冷たい視線をタカトから立花にゆっくりとスライドしてくると、

「貴様! 嘘をつくな! なにが老老介護だ! 独り身の貴様がいったい誰の介護をするというのだ! 言ってみろ!」

 そう、立花は齢70にして生涯独身! 一度も結婚をしたことがない戸籍ホワイト男だったのである。

 そんな立花が老老介護?

 老老介護とは老人が老人を介護することだ。

 ならば、立花はいったい誰を介護するというのだろうか?

「え……っと……陳さんとか?」

 立花はお菊から目をそらしながら懸命に作り笑いを浮かべる。

 ――そういえば、陳さんは寝たきりと言っていたな……もしかしたら、かなりの歳を召しているのだろう……

 だれしも、そう思ったかもしれない。

 だが! お菊は騙されない!

「本当に陳さんは寝たきりなのか?」

 疑いを向けたお菊の目がギラリと立花をにらみつける。

 ひっぃぃぃ!

 人殺しのような冷たい言葉、いや、威圧感は立花の肝っ玉を縮こまらせるには十分だった。

 もう、生きた心地がしない……

 金玉がヒュンと小さくなるのがマジで分かった……って、女の人にはこの感覚は分からないだろうなwwww

 もうね、この状態でエロ本なんか見たところで反応なんか……

 …………


 反応なんか……

 …………


 …………したよ……


 そう、立花のズボンに隠れていた陳さんが直立不動で起立していたのである。

「起立! 気を付け! 胸を反れ!」

 その頭なんて布団をかぶるどころか完全抜き身状態!

 それはまるで上半身裸のバリバリ硬派な応援団が後ろで手を組み胸を反っているかのように逞しい!

 いつでもいけます! 我が青春! 

 もうwww若いなぁwwww立花のおやっさんwww

 って、なんでやねん!

 だって、仕方ないだろう……

 立花の目の前には、お菊がつきだした一冊のエロ本……まるで女が股を開くが如く一番おいしいページを開いていたのである。

 M字開脚をしながら恍惚な表情を浮かべる熟女!

 背面へと両手を回したことによって突き出された巨乳がより一層強調されたポーズである。

 その張りといったら……もう、ほどまでのロリ本とはレベル、いや次元が違う!

 しかも!

 しかも!(大事なので二度言いました! by立花どん兵衛!)

 このエロ本! ご禁制の無修正だったのだ!

 こんなブツを見せられた、寝たきりの陳さんだってすぐに飛び起きてしまうわ。


 だが、お菊は恥ずかしがる様子もなく、

「陳さんは、お元気のようだが……」

 立花のズボンに視線を落としていた。


 ――しまったぁぁぁぁぁぁぁ!

 立花は血の気が引いていくのが分かった。

 だが、陳さんは布団に戻そうとしても静まらない。いや、収まる気配すらないのだ。

 ――マズイ!

 この状況、どう見ても、エロ本大好きのジジイに見えてしまう……というか、それ以外に見えやしない。

 ――もはや言い訳など不要! 逃げて逃げて逃げ切るだけだ!

 「タカト! 逃げるぞ!」

 立花はとっさに声をあげると階段に向かって一目散に走り出した。

 だが、そんな立花の行く手にお菊の部下たちが立ちふさがるのだ。

 

 逃げ場がない!

 しかし、ここでつかまれば、ワンワンの着ぐるみを着てカツドンを作り続けなければならないのだ……

 ――それだけはいやだ!

 女たちの手に掴まれた立花は抗った。

 相手は女と言えども秘密警察。それ相応に腕は立つ!

 しかも、そんな女が四人がかりで立花を押さえつけようとしているのだ。

 これではどうにも逃げられない!

 万事休す!


「エロ本!大量製造および大量所持の現行犯で逮捕する!」

 4人の女は立花の四肢をつかんでいた。

「濡れ衣だ! 俺はエロ本なんか作ってない! はなせぇぇぇぇ!」

 だが、老人とは思えぬほどの力で抵抗されるめ必死に食らいつくのがやっとのようである。

 そんな女たちの顔面に!

 ペシャ! ペシャ! ペシャ! ペシャ!

 どこからともなく飛んできたエロ本がまるで股を開いた女のようにページを開けて、その美しいご尊顔にいきなり覆いかぶさったのだ!

 うーん……想像しやすいように卑猥な言い方で表現すれば、それはまるで女の顔にまたがって無理やりしゃぶらせるプレイのようにもみえる……

「これでも飲めやwww」

「いやぁぁ! そんな汚いもの嫌ぁぁぁぁ!」

 などと、脳内でイメージしたところで、所詮はミーニャたんのロリロリ本。だから、こんな表現をしたとしても多分問題ないはずなのだww

 だが!ちょっと待て!

 なにやら音が少々おかしいではないか!

 そう、エロ本がぶつかったのであればべしっ!べしっ!べしっ!といった乾いた音のはず。

 それが、ペシャ!ペシャ!ペシャ!という湿った音だったのだ。

 例えていうなれば、それは濡れ雑巾が顔面に当たった時のようなもの。

 

「何コレ! まずぅぅぅ! ぺっ! ペッ!」

 とっさに女たちは立花の腕からてを離すと顔面に覆いかぶさったエロ本を投げ捨てて、口に入った違和感を吐きだした。

 地面にたたきつけられるエロ本。

 当然、その音はバシっ!などといったものではなくてビシャ!

 本の周りには黄色い液体が飛び散っていた。

 もしかして、この本には何かの液体がかけられていたのであろうか?

 というか、だれがこの本を投げたというのであろう?

 女たちは、本が投げられたと思しき方向を一斉に睨みつけた。

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