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聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第六章 聖女の呪い

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いつもお読みいただきありがとうございます!

「ミュリエル様がこの人を治したんですか? 大丈夫なんですかっ!?」

「とりあえず神殿長を!」


 ペトラが慌てて部屋を出ていき、ノンナはミュリエルに縋りついてきた。


「何が起きたか分からないんだけど……レックスは息もしているし大丈夫じゃないかしら」

「あ、この人のことじゃなくてっ! ミュリエル様が大丈夫かってことです! 三日も寝てたのに急に魔力を使ったら危ないですよぉ!」

「あ、私三日寝てたんだったわね。臭いからノンナは離れた方が」

「関係ありません!」


 臭いから離れてと言おうとしたのに、ノンナは縋りついたままだ。


「ねぇ、ノンナ。神殿長がこちらに来る前にイザークのところに行きたいんだけど」

「はっ! 分かりました! この人は……うん脈もあって息してますね! さ、二つ隣の向かいの部屋ですからすぐ行きましょう!」



 勢いでイザークに会いに行くと言ってしまったが、あの後でどんな顔をして会えばいいのだろうか。

 でもイザークはまだ眠っていると聞いているから取り繕うのはやめておこう。


 ノンナに肩を貸されてミュリエルはイザークのいる部屋へと足を踏み入れた。レックスの部屋ではしなかったが、こちらでは香が焚かれているようだ。爽やかな香りが鼻をくすぐる。


「じゃ、私は外にいるので!」


 イスをベッドの側まで運ぶとノンナはキラキラしたいい笑顔でさっさと扉を閉めてしまった。

 一人になった部屋には静寂が落ちる。ミュリエルはノンナが用意してくれたイスに座った。イザークの目は閉じられたままで、胸が規則正しく上下している。


 イザークの手を握ろうかと手を伸ばしたが「まだ、あなたに触れてもいないのにこんなに愛してる」というイザークのセリフと顔にかかる吐息を思い出し、顔が赤くなるのを感じて引っ込める。


「触れてくれないんですか?」

「え?」


 唐突な声にミュリエルは慌てた。パチッとグリーンの瞳と目が合う。


「起きていたの?」

「はい。誰かが入ってくる気配がしたのでとっさに寝たふりを」


 再び沈黙が落ちる。ミュリエルは何を言えばいいか分からず、落ち着かない気分になった。


「あなたが助かって良かった。それだけがあの時の俺の願いでした」


 イザークの言葉にミュリエルは視線を上げた。


「もし前世が存在するのなら。俺があんなことを言ってしまったからあなたを縛り付けているのかと。俺が呪っているからあなたは幸せになれないのかと……」

「それは、違うわ」

「あなたがレックス様と幸せになった方がいいのかとも考えました」


 グリーンの瞳がミュリエルを射抜く。

 あぁ、またこの視線だ。見つめられるだけでこんなに嬉しいなんて。押し込めて忘れてしまった記憶をこの視線が思い出させる。最初はこの視線が怖かった。


「それでも俺はあなたに触れたいと思ってしまった。俺が幸せにしたいと」


 涙が溢れそうになってミュリエルは一瞬うつむいた。


「何年待ってもいい。俺はあなたと一緒にいたい。今度こそ一緒に人生を歩んでいきたい」

「もう……あなたは待たなくていいわ。あなたは前の時からずっと、私を待っていてくれたんでしょう?」


 ミュリエルはイザークの手を今度こそ握った。もうためらいはしなかった。

 イザークは寝たままでミュリエルの指をそっと撫でる。


「今度こそ、指輪を贈ってもいいですか?」

「は……い」

「夢で見た時からずっと。今世で出会う前からずっと……あなたを愛してる」

「今度は……私より先に死なないで」

「それは努力が必要ですね……」


 涙声になってしまうミュリエル。イザークはミュリエルの指を自分の指と絡めた。


「キスがしたいんですが、まだ待ちます。あなたはまだスタイナー姓だから。待つのは慣れてます」

「……待たなくていいって言ったのに」


***


「えーっとですね、ちょっと今、とってもいいとこなんでまだ入らないでいただけると。すべての乙女的にはありがたいです。えぇ、すべての乙女を代弁します」

「はぁ? なによ、あんた。すべての乙女って」

「う、ペトラ様。怖いです。蹴らないでください。ああ! そこは壁です! 壁蹴らないで! 夜なのに安眠妨害! しかもここ怪我人いるのに! でもここはあと一分! あと一分は通しません! せめて三十秒! それにしても神殿長連れてくるの異様に早すぎませんかぁ!?」


 扉の外ではノンナが扉にへばりつき、そのノンナを引きはがそうとするペトラの攻防が起きていた。神殿長は後からやってくる。


「ノンナはこの扉を死守したと、誰か歴史書に書いてください~。殺される~!」

「何馬鹿なこと言ってんの。さっさとどきなさいよ!」

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