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聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第五章 あなたに会うために生まれてきた

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いつもお読みいただきありがとうございます!

 翌日の夕方、公爵とレックスは戻ってきた。

 領地の川の異臭問題や他の問題も解決したようだ。久しぶりに会うレックスと抱擁を交わしたが、ぎこちなくなってしまった。レックスに触れられても前のように嬉しくないしときめかない。


「まさか工場から廃棄物を川に流していたとは」

「専門家を連れて行って正解だったね、父さん」


 久しぶりに公爵とレックスを交えての晩餐だ。ずっと義母と二人きりだったので一気に賑やかになった。


「ミュリエル。体調はもう大丈夫なのか?」

「はい」

「聖女ペトラ様の結婚も済んだし、忙しさは落ち着きそうか?」

「そうですね、花祭りがありますのでなんとも。これから花が咲くので結婚式も増えてきます」


 公爵は義母には話しかけず、ミュリエルにばかり話しかける。


「旦那様」


 公爵の話を遮ったのは食事をしながら一言も口を開かなかった義母だった。


「重要な報告がありまして」

「では、晩餐後に聞こう」

「いえ、レックスが愛人を囲おうとしている話なので今ここで話します」

「愛人?」


 公爵は知らなかったようでレックスを見る。

 レックスはすぐに視線をそらした。ミュリエルは義母が切り出すことは分かっていたので口を挟まなかった。


「えぇ、その愛人候補の娘はわざわざ神殿までやってきてミュリエルに報告したそうですわ。借金を肩代わりしてもらう代わりに愛人になるからと挨拶に来たんだそうですの」

「借金だと? どういうことだ、レックス。金をそんなに動かす権限はお前にないだろう」


 公爵は本当に知らなかったようでレックスを詰問する。


「ミュリエル、それは本当なのか?」


 レックスが焦ってもごもごとしか答えないので、ミュリエルに矛先が変わる。


「本当です。ピータース男爵家の次女という方でした」

「ピータース男爵家? たかだか男爵家の娘だと?」

「あら、あなたの今の愛人だってもともと男爵家の者ではありませんか。一度結婚して出戻っていますけど」


 さらりと義母が口をはさみ、公爵は黙り込む。都合が悪くなると黙ったり、もごもごしたりするところは親子で一緒だ。


「レックス。黙ってないで何か言ったらどう?」

「いや……学園時代にちょっと一緒に出かけただけで。愛人というのは彼女の虚言です」

「あら、その娘が学園に通っていないことくらい調べてあるわ。借金のある家だもの。そんな家の次女が学園に通えるわけないでしょう」

「あ、間違えました。彼女の兄と学園で知り合いで……」

「彼女に兄はいないわ、いるのは姉だけ」


 義母の追及にレックスは青ざめていた。どうしてここまでバレているのに誤魔化そうとするのだろうか。知られていない自信でもあったのかしら。


「その……子供がいた方がいいと思って」

「それで?」

「愛人に子供だけ産んでもらえば、ミュリエルの負担も軽くなるだろうと」

「それで結婚してたった一年で愛人なの?」

「だって、ミュリエルは流産しました。これからもそうかもしれません」

「聖女は子供ができにくいことは話してあるだろう。愛人を囲わずとも親戚筋に優秀な子供はいる。養子を取ればいい。婚約の時にも話しただろう」


 レックスは気まずそうにミュリエルを一瞥する。


「負担を軽くしたいなら愛人ではなく、まずは彼女に仕事を押し付けるのはやめたらどう?」

「押し付けてなど」

「仕事を? レックス、どういうことだ?」


 義母の言葉にレックスは反論しかけ、公爵が問い詰める。公爵もレックスの味方はしないようだ。


 ミュリエルは呆れていた。その場しのぎの嘘も含めて、レックスが嘘をつき続けることに呆れたのだ。流産した後に仕事の話をするくらいだ。彼はミュリエルの負担を減らそうなどと思っていないはずだ。


 正直に言ってくれればいいのに。ミュリエルじゃダメな理由を。ミュリエルだけを愛してくれない理由を。他の女に行く理由を。

 ミュリエルはずっとレックスだけを見てきた。レックスだけを愛してきた。


「レックスはこれまで何度も浮気してきました。やめてほしいと言ってもやめてくれなかったので諦めていましたが。シシリー嬢の時もレネイ嬢のときも私は頑張ってフォローしました。そして今度は愛人です。それほど私に不満があるのでしょう」


 ミュリエルは静かにそう言った。


「そ、そんなはずはない、ミュリエル。レックスが君と結婚したいと言ったから婚約を打診したんだ」


 公爵が焦ったようにフォローする。


「どうして私だけを愛してくれないの、レックス」


 これをずっと聞いてはいけない気がしていた。重い女だと思われるのが嫌で、嫌われるのが怖くて聞けなかったのだ。

 もうミュリエルは疲れてしまった。どこまで頑張り続ければいいのだろうか。頑張れば頑張るほどレックスは離れていく気がする。そして現れたのはイザークだ。どうしてこんなに胸がざわめくのだろう。


「私はずっとあなただけを愛してきた。馬車の事故のあの時から。あなたの『ありがとう』が私は一番嬉しかった。でもどうして? どうして私だけを見て愛してくれないの?」


 レックスと視線が合う。レックスは悲しそうな目でミュリエルを見ていた。

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