表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第五章 あなたに会うために生まれてきた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/89

9

いつもお読みいただきありがとうございます!

 ミュリエルはいつもと違う夢を見ていた。いつもは、馬車の事故でアイザックが死んでしまう夢だ。

 でも、今回は……どこだろうか。


 まるで戦場にいるかのようにたくさんの怪我人が寝かされたテント。

 口を布で覆いながらせわしなく動き回っている人々。その中にミュリエルはいた。自分の顔は見えないから外見は分からない。


 ミュリエルが手をかざすと、怪我人の怪我がみるみるうちに塞がっていく。

 この夢の中でも聖女なのかしら。夢の中まで仕事をしているなんて仕事中毒者みたい。


 ミュリエルは夢の中でも聖女のようなことをしていて、しかも一度に一人しか治せないようだった。


「ねぇカーティスは? 無事なの?」


 治癒を終えると、一人の女性を捕まえて聞く。口からは思ったよりも低い声が出た。


「聖女様、治癒に集中してください! 被害が大きいのです!」

「でも、彼らはカーティスの隊の人たちだわ。カーティスはどこ? 怪我をしているなら治癒をしないと!」

「聖女様!」


 止めようとしてくる女性をすり抜けて、テントから走って出る。なぜかとても嫌な胸騒ぎがする。

 前から見知った姿が歩いてきたので、大きく手を振った。


「テオ! カーティスは? カーティスはどこなの!?」


夫の隊の腕章をつけた男性に駆け寄って両肩を掴む。


「た、隊長は……」


 テオという男性は唇を引き結んで目をそらす。


「隣国とのよくある小競り合いって言っていたはずなのに、どうしてこんなに被害が?」


 テオは肩を掴まれたままでぎゅっと目を瞑り、やがて決心したように目を開いた。


「カーティス隊長はっ、隣国に人質として捕らえられています!」

「嘘!?」

「本当です。ただ、辺境伯は聖女様には内緒にするようにと。カーティス隊長を人質に聖女様を渡せとあちらの国は主張しているのです」


 泣きそうなテオの言葉が終わる前に駆けだす。「聖女様!」と叫びながらテオも慌てて追いかけてきている。


 周辺国には聖女はいない。治癒魔法さえ存在しない。特に隣国はこの国に突然現れた聖女をものにしようと最近よく小競り合いを仕掛けて来ていた。


 前線まで到着した時にはカーティスとカーティスの隊員たちの亡骸にしか会えなかった。テオやテントに運ばれた隊員たち以外はカーティスとともに捕まっていたようだ。日没寸前までに聖女を引き渡せば彼らを解放するという条件を出されていたが、辺境伯は聖女を渡さず彼らを見殺しにすることを選択した。


「聖女様! 治癒を! 治癒をお願いします!」


 カーティスを亡くして悲しんでいるのに、部屋に押し入ってきた騎士たちはミュリエルの両腕を掴んで負傷者用のテントに連れて行く。


「聖女様!」


 急かすように言われる。

 カーティスはもう戻ってこない。昨日カーティスの亡骸に何度も治癒魔法をかけた。でも死者に治癒魔法はきかない。

 疫病に倒れたカーティスを救いたくて、私はあの時聖女になった。でも、私が聖女であるせいでカーティスは人質になって見捨てられて死んだ。


「聖女様、早く!」

「おい、やめろ」


 ぼんやりしているとまた無理矢理立たされて、テントの外に連れていかれる。


「聖女様、大丈夫ですか?」

「……テオ」


 昨日、意図的に伏せられていた情報を教えてくれたテオだった。


「隊長たちを見殺しにしたのに、聖女様にすぐ治癒を強要するなんて……ここから少し離れましょう。目立たないようにこれを被ってください」


 マントを上からかけられて、手を取られて進む。

 ミュリエルは詰めていた息を吐いた。夢にしては土埃の臭いも息苦しさもリアルだ。


 しばらく手を引かれて歩いて気付いた。テオは一体どこへ向かっているのだろうか。


「どこへ行くの?」


 どんどん人気のない方へ向かっていくテオに思わず聞く。

 そういえば、テオもカーティスの隊だ。他の隊員たちは重傷か捕まっていたが、テオだけは腕に軽傷を負っただけだった。

 テオはあるテントの前で立ち止まる。


「隊長もバカですよ。聖女様を向こうに引き渡せば自分だけは助かったかもしれないのに」

「え?」


 腕を引っ張られ、背中を押されてテントの中に入れられる。

 テントの中には五人ほどの騎士。


「聖女を連れてきたのか?」

「はい。彼女です」


 被っていたマントがばさっと取り上げられる。


「聞いていた外見とも合致する。ご苦労だったな」

「テオ?」


 どういうことか分からず、周囲を見回して声を上げる。テオは騎士たちに向かって跪いている。


「あとで武器庫に案内します。聖女と武器がなければこの国は簡単に落とせるでしょう」


 テオの淡々とした声に気付く。テオは裏切ったのだ。


「武器庫の位置は把握している。聖女が手に入ったならその必要はない」

「え、それでは……ぐあっ」


 テオが顔を上げたと同時に騎士の一人がテオに斬りかかった。赤い血がミュリエルにもかかる。


「本当の聖女なら治してみせろ」


 肩から腹にかけて斬られたテオは呻きながら傷口を押さえている。


「外見が聖女と一致している女を連れてきただけかもしれんからな」


 笑いながらおそらく隣国の騎士がミュリエルに視線を合わせた。


「早く治癒しろ。できないならお前もここで殺す」



 ミュリエルは汗びっしょりで目を覚ました。


「何、今の夢」


 ミュリエルが夢の中で最後に見た光景は一面焼け野原だった。隣国の偉そうな騎士に命令されて、ミュリエルはテオに震えながら手を伸ばした。いつものように治癒が発動せず、なぜか周囲に真っ黒な炎が燃え広がった。


「カーティスって……初代聖女様の夫の名前よね?」


 初代聖女について残っているのは口頭での伝承のみ。

 ミュリエルは訳も分からず自分の体を抱きしめるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ