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ミュリエルにどんな悩みがあっても、無情にも太陽は昇って朝はやってくる。
「聖女なんてやめさせろ!」
神殿の前で高齢の人々が信者や神官たちと揉めていた。
「聖女のせいで俺の父親は死んだんだ!」
「そうよ! 私の父だってあんなに早死にしなかったわ!」
「何言ってんだい! あんなに聖女様に治癒してもらっといて!」
「そうだ! 聖女様がいなかったらみんな戦争で死んでたんだ! 医者がどうやって吹き飛んだ足を元通り治せるんだよ!」
「聖女が治癒魔法さえかけなけりゃあなぁ! 俺の親父は風邪でころっと死ななかったんだよ!」
「うるさいねぇ、あんた。聖女様がいなかったらあんたの親父さんは孫の顔も見れずに死んでたよ」
「大体、あんたの親父が聖女様に文句言ってたのかよ」
「治癒魔法になんて頼るからいけねぇんだよ!」
「戦争で亡くなったなら覚悟が出来てたわよ!」
「そもそも戦争を起こしたのは聖女様じゃない! 国だろう!」
主に信者たちが戦争を経験した高齢の人々と揉めているようだ。暴動が起きないように神官が間に立って防御しているのだろう。
馬車の中にいるミュリエルにも罵声や怒声が聞こえてくる。こういうことはたまに起きる。
この国では聖女は皆に愛されて必要とされているわけではない。もちろん、大部分の人が敬愛してくれているのは知っている。でも、今叫んでいるような人もいるのだ。
馬車は速度を緩めて一瞬止まったが、すぐに動き始めた。
「到着しました。今日は裏に回りました」
扉が開いて御者がそう伝えてくれる。
「ありがとう」
ミュリエルは先ほどの罵声など気にしていない素振りで馬車から降りた。すぐに騎士たちが集まってくる。
聖女の話を少ししよう。
聖女はこのオブライエン王国と海の向こうの遠い国、アンフェリペ帝国にしかいない。
同じ聖女と言っても二国で性質が異なる。
ミュリエルを始めとするオブライエン王国の聖女たちは治癒魔法を使えるだけだ。治癒魔法の程度は聖女個人の力に左右される。骨折を治すのがやっとの聖女もいれば、失明を治す聖女もいる。
また、オブライエン王国では魔法は治癒魔法しか存在しない。
一方のアンフェリペ帝国は別名魔法大国で、大聖女を筆頭に多くの聖女たち、魔法使いたちがいる。
大聖女は結界を張り、攻撃魔法を駆使し、浄化もして、そして治癒魔法も扱える。聖女は大聖女よりも下位の存在で、4つのうちどれかに特化した能力を有している。
先ほどのような騒動が起きるのは、治癒魔法がかけられた人の回復力を著しく低下させる諸刃の刃だと分かったからだ。
戦時中は要請を受けて毎日大勢に何度も聖女は治癒魔法を使ったという。
でも失った目や腕や足が元通りになった人たちはその後、流行病やただの風邪であっさりと亡くなった。その後の研究で治癒魔法のデメリットが分かったというわけだ。
だからオブライエン王国では現在、聖女による治癒魔法の使用に緊急時以外は事前の同意書がいる。
たった一回治癒魔法をかけられただけで回復力が大きく低下することはないが、戦時中の兵士のように何度もかけられるとただの風邪でも回復能力が正常に働かず、亡くなってしまう可能性があるのだ。




