21(イザーク視点)
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聖女ペトラの結婚式の日。
大通りでは皆が浮足立っていた。仕事を休んで昼間から酒を飲んだり、聖女の結婚にかこつけて特別商品を売り出して商売に精を出したり。
変装したイザークは盛り上がっている大通りから静かな脇道に入る。
本来今日は休みなのだが、公爵夫人から頼まれたことも気になるのでレックスがよく利用する個室のあるカフェに向かっていた。こちらを歩いた方が人通りが少ない。
歩いていると、目の前にパッと人が立ちふさがった。体格からして男だ。
ゴロツキがこんなところで出るだろうかと身構えたが、よく見ると学園で同級生だった伯爵家の三男だった。イザークが気付くと相手はニっと笑う。
「よぉ、ホルフマン。ちょっとばかし一緒に来てくれないか?」
「悪いが用事がある」
「あーうん……そう言うよな。実はホルフマンの用事と関係があるんだ」
確かディーンという名前の男は近衛騎士のバッジをちらつかせる。そういえばこいつの所属は第三王子のところだったか。学園時代から腕が立っていたもんな。
「第三王子殿下か」
「あぁ。ついてきてくれるか」
「仕方がない、断ったところでまた尾行されても迷惑だ」
仕方なくディーンと並んで歩く。
「ホルフマンはてっきり城に勤めるのかと思ってた。結構誘いがあっただろう?」
お互い嫡男ではないので学園時代のノリで気安い言葉遣いだ。
「確かにあったな」
「なんで受けなかったんだ?」
「派閥争いが嫌いだからだ」
「あーそれはあるな。足の引っ張り合いがすごい。ハニートラップもある。まぁホルフマンのところは王家よりも神殿寄りだもんな」
「母と兄嫁が熱心に慈善事業をしているだけだ。別に王家に反感を持っているわけじゃない」
「あぁ、それは分かってる」
しばらく歩いて止まっていた馬車に乗るように促された。
「うちの王子、へこんでるんだよ。やらかしてさ」
「何を?」
「まぁ本人から聞いてくれや」
ディーンの言う通り、中にはしなびた第三王子が中にいた。イザークが乗り込むと馬車は走り出す。この中で話をするつもりだろうか。
しばらくたってもルーシャン王子は何も話さない。目の前でずっと暗い顔をされていると気が滅入る、というよりも時間を無駄にしている感覚がヒシヒシとする。
「用がないなら下りていいですか」
用事を切り上げてまで付き合ったイザークは、早々にディーンの顔を立てることすら放棄した。
「いやっ! それは困る」
「困るならさっさと話してください。コソコソ犬をつけられるのも迷惑です」
「気付いていたか」
「それでお話とは?」
ノンナを捕まえた日にコソコソとレックスをつけていたのは王家の犬だ。スタイナー公爵家を気にして調べるならまず第三王子だろう。
「レックスの女性関係の情報を渡すから、エティスに婚約解消を思いとどまるように口添えしてもらえないか!?」
「声が大きすぎます」
黙っていたかと思ったら今度は大声を上げる。
第一王子がすでに王太子として任命されている。第二王子は他国に婿入り。そして、このルーシャン第三王子に嫁いで王子妃となるのがエティス・ランバード侯爵令嬢だ。
それにしてもこの王子、王族ならもう少し駆け引きを覚えた方がいいのではないだろうか。イザークに遊ばれているようではこの先が不安である。




