18(ノンナ視点)
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「ここは魚が絶品なんですよ」
支店の近くのお店は天井の高いゆったりした造りだった。席数もそれほど多くない。昼時から時間が経っているが、六割ほど席が埋まっていた。
「ここの家具やテーブルはうちに注文してもらったんです」
テーブルには正方形のタイルが何個も敷き詰められており、タイルには一つ一つ手の込んだ模様が描かれている。
「これはレモンですね」
ノンナたちが座ったテーブルにメインで描かれているのはレモンと魚だった。
「えぇ、一つとして同じ模様はないんです」
そう聞くと他のテーブルも見てみたくなる。
揚げた魚を挟んだサンドイッチも気になったが、ノンナはムニエルを注文した。クラークさんはサンドイッチだ。
注文して他のテーブルをキョロキョロ観察する。
あ、あの人が食べている魚介のピザも美味しそうだなぁなんて思いながら、あるテーブルを見てギョッとした。
落ち着くためにお水を飲んで、再度盗み見る。間違いない。だってこの前至近距離で見たもの。
あれは、ミュリエル様の夫であるレックス・スタイナー様だ。
ノンナはこの前初めてレックス・スタイナーを近くで見たが、神殿によく来る王子様よりも王子様っぽい方だった。でも言動は最悪だ。流産したばかりでベッドに身を横たえているミュリエル様に対して仕事の話をしたのだ。
あの時はびっくりしてトレイを落としてしまった。さらに驚いたのは公爵夫人という方が平手打ちしたことだ。
クラークさんと話しながらも気になるのでレックス・スタイナーを観察する。彼の前にはどう見ても貴族っぽい女の人が座って楽しそうに会話している。どこで分かるかと言えば所作だ。ミュリエル様の方が綺麗だが、明らかに庶民の所作ではない。いや、もしかしたらお金持ちのお嬢様かもしれないが。
あれってどういうこと? 仕事?
仕事のお昼休みで同僚と来ました? いやいやいや、あのご令嬢の服は明らかにデート仕様だ。あんなお上品なワンピースドレスで何の仕事をするというのだ。しかもあの手は絶対仕事をする手ではない。
ノンナの様子がおかしいことに気付き、クラークも辺りを見回す。
「もしやあれは、スタイナー公爵家の……」
見る人が見ればすぐ分かってしまうのだ。
「一緒に座っていらっしゃるのは、伯爵家のご令嬢ですね。確かこの前、婚約祝いの品を頼まれてお届けしたはずですが……」
ムニエルが運ばれてきたが、ノンナは料理を見て喜ぶ気分ではなかった。フォークを持つ手が震える。
あぁ、これは怒りだ。怒りで私は震えているのか。
ジョゼフに結婚できないと言われた時は悔しくて泣きたくなくて震えていたかもしれない。でも、怒りからではなかった。今は明らかに怒りで震えている。
ミュリエル様は最近やっと回復してきているが、まだ神殿にとどまっている。公爵邸にはペトラ様の結婚式の翌日に戻る予定だ。
妻がそんななのに、どうしてあの人は他の令嬢と食事をしているのだろうか。
公爵夫人の平手打ちを思い出す。他のご令嬢とチンタラ食事する時間があるなら、仕事はお前がやれよ、とあのテーブルに行って問い詰めたい。
「食べ終わったら尾行しましょう。ここでは会話が聞こえません。もしかしたら仕事の関係かもしれませんから……」
クラークさんの手が伸びてきて、震えているノンナの手に重なった。
ノンナは唇を強くかみしめて頷いた。クラークの手は振り払えなかった。だってこの手がないと立ち上がってあのテーブルに近付いてしまいそうだから。
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