15(ノンナ視点)
いつもお読みいただきありがとうございます!
ミュリエル様へのプレゼントに悩みながら歩いていると、見慣れない人物に目が留まった。
下働きなので、熱心な信者の顔と名前くらい普通に一致している。たまに訪れる信者も何となく見覚えはある。
しかし、その大荷物を抱えたがっちりした男性には見覚えがなかった。
「お困りですか?」
警戒も含めて声をかける。身ぎれいな格好であるから不審者ではないのかもしれない。ここは一般の人が入れるエリアだし……。
「ええっと、聖女ペトラ様に届けるよう花婿から頼まれたのですが。何分こちらの神殿に来るのが初めてで、どこに渡したらいいか分からなくて困っております」
先ほどまで迷いのない足取りで歩いていた割には、キョロキョロ落ち着きがない。この人、実は方向音痴なのに自信満々に進んでしまうタイプだな?
「聖女様への贈り物ですね。ではこちらへ……って花婿?」
「あ、はい。イライアス・ティザーから聖女ペトラ様への贈り物というか、結婚式のドレスでございます」
「かしこまりました。それでは担当の神官に渡しましょう」
結婚式のドレスとは、かなり重要なものだった。
神官のところに男性を案内して、ドレスは検査に回される。
聖女様への贈り物にはすべて検査がある。手紙には刃物が入っていないか、ドレスだったら針が仕込まれていないか、花束だったら媚薬などおかしなものが混じっていないか。あ、ドレスの贈り物はほぼないか。
そんなの必要ないだろとノンナは思っているが、歴代聖女様の中にはそんなことをされた方もいらっしゃるらしい。以前のノンナでもミュリエル様にそんな嫌がらせはしないが、聖女様にそういう嫌がらせとかする人もいるのかとドン引きした覚えがある。
ミュリエル様が結婚した後、信者がお菓子や花束をミュリエル様に直接渡していたのは特例だ。聖女が受け取って神官に渡され、すぐ検査に回されていたはずだ。というかあの週は神殿の入り口でも検査があった気がする。
「助かりました。イライアスが気合を入れて取り寄せた他国の生地を使っていますので、仕立ても他国でする必要があり式のギリギリになってしまいました」
「もしかして花婿様のご友人でいらっしゃいますか?」
「はい」
なるほど。商人さんかな。
体格からして威圧感があったから商人っぽくはないけど、小ぎれいにしているし、話してみると爽やかで愛嬌がある。
「お聞きしたいのですが。私、聖女様にプレゼントをしたいんです! 何かおすすめはありますか?」
「ペトラ様への結婚祝いでしょうか?」
「あ、えっと違って。聖女ミュリエル様にお世話になったので、お礼のプレゼントをしたいんです」
男性の目がちょっとばかり気の毒そうになる。
「ミュリエル様でしたら、スタイナー公爵家の方ですから……贈り物というとなかなか難しいですね」
あ、これは私が下働きだから予算の低さを疑われているのか!? お前の持っているはした金じゃ公爵家に嫁いだ聖女様への贈り物は買えませんよって?
イライアス様の勤めている商会って異国のものを中心に扱っているから他より高いんだっけ?
「私、慰謝料が入ったので懐は温かいんです! 刺繍は大の苦手ですし、お菓子だとミュリエル様はかなりの頻度でもらっておられるので何か他の特別なものにしたくて!」
男性は「慰謝料」に一瞬驚いた表情をしたが、懐から名刺を取り出してノンナにくれた。
「お悩みのようですね。こちらが王都の支店です。よければ商品を見ながらご相談しましょう」
やばい、本当に高いのかもしれない。名刺の住所はもちろん一等地である。
もう珍しい刺繍糸を買って刺繍を猛練習してやるしかないのかもしれない。いや、流行もよく知らないし行ってみるだけなら……。そもそも言い出したの私だし。みんなと相談してもいいアイディアは出なかったのだし。
「明日午後から休みなので伺います」
「お待ちしております」
男性は白い歯を見せてにかっと笑った。




