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聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第四章 私だけを愛して欲しい

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いつもお読みいただきありがとうございます!

 今日はペトラの結婚式だ。

 快晴まではいかないまでも程よく晴れている。眩しすぎず、いい天気だ。


 ペトラは面倒だという表情を一切隠さず、聖女の儀式用の動きにくい格好で祈りの儀式に向かっていった。こればかりは変わってあげられない。


 一時間に及ぶ祈りの儀式が終了してから、ペトラは湯あみをして婚礼衣装の着替えに入る。神官や下働きの子たちもバタバタと慌ただしい。


 そしてやっと結婚式だ。

 ペトラとお相手を前にラルス神殿長がこれまた長い祈りを捧げ、誓いの言葉を口にする。

 ペトラのお相手であるイライアス様には何回か会っていたが、婚礼衣装を着ているといつもよりもさらに爽やかな好青年に見える。


 神殿に通いつめてペトラをずっと口説き続けた彼はうっとりした顔でペトラを見ているが、ペトラはいつも通りだ。むしろすでに疲れているのか不機嫌で仏頂面である。笑顔を振りまく余裕はないようだ。


 イライアス様の表情はペトラが愛おしい、というよりも崇拝に近い。商人として各国を飛び回っていて、結婚式の二日後から買い付けで国外に行くそうなのだが……。


 二人とも誓ったところで、聖女の祝福だ。


 ミュリエルは普段よりも緊張しながら水晶に手を置く。

 この水晶は治癒魔法にのみ反応して光り、治癒魔法を他の魔法に変換する。それが祝福だ。

 どんな魔法に変換されるかは祝福を行う聖女の心の世界が反映されるという、なんともロマンチックな仕様である。聖女の結婚式なので、いつもより多く魔力を水晶に注ぎ込む。


 ミュリエルの結婚式でペトラが祝福を行った際は、空から虹色に光る金貨が雨のように降りそそぎひと騒動あったようだ。金貨はもちろん時間が経つと消えてしまった。

 普段のペトラの祝福は、彼女が広範囲に治癒魔法をかける時と同じく光の粒が落ちてくるだけなのに、と笑ったものだ。


 カーンと鐘が鳴る。そして人々の歓声が外から聞こえた。


 祝福で結婚式は終了だ。実は結婚式の後は、感謝を捧げる儀式がある。ミュリエルはその儀式を終えた後、パーティーに出たのだ。我ながらあの時はよくこなしたなと思う。


 神官たちと一緒に建物の外に出ると、空から虹色の花が舞っていた。いつも通りのミュリエルの祝福だ。ただ、いつもより花の量が多い。


「あんたはロマンチックだね」


 そんなことを言うイーディスの祝福は、虹が幾本も空にかかる幻想的な光景が見られると評判だ。


「ペトラおめでとう」

「うん」


 出てきたペトラに声をかけると、彼女は疲れた表情で唇を尖らせていた。



 久しぶりにミュリエルは達成感と幸福感でベッドに入る。結婚式の祝福は何度やっても緊張するが、胸になんともいえない温かな感情が宿るのだ。


 その日も夢を見た。ミュリエルは馬車に轢かれた男性の手を取っている。


「同じ顔で生まれてくるから、君は来世で必ず見つけて」


 彼は懇願してミュリエルの手を握る。


「アイザック!」


 口からこぼれた名前で、ミュリエルはやっとその男性の名前を知った。

 そしていつも靄がかかってぼやけた男性の顔が初めて見えた。見覚えがある顔だ。

 緑色の瞳がゆっくりと閉じていく。あぁ、治癒魔法をかけないと彼は死んでしまう。でも、夢の中のミュリエルは治癒魔法が使えない。


 男性の目が完全に閉じ、力の抜けた手がだらりとミュリエルの手からこぼれる。夢の中のミュリエルは「アイザック!」と叫びながら男性に縋りついた。


 どうしてずっと忘れていたのだろう。

 夢から覚めたミュリエルの頬を涙が伝う。アイザックという男性はイザークにそっくりだった。


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