12(ペトラ視点)
いつもお読みいただきありがとうございます!
聖女の結婚の前にはさまざまな儀式がある。
「これって前倒しして祈っちゃダメなの? たとえば今日とか」
「ペトラ様、手順ですので」
当日の祈りを前日にすればいいじゃない、と提案したペトラに神官は渋い顔だ。
「ペトラ様はパーティーなどなさらないので大丈夫でしょう?」
「パーティーしなくっても当日は疲れるからなんとか短縮したいんだけど」
「ミュリエル様もこのスケジュールでしたし……」
「はぁ」
さすがにごねてもどうにもならないので、ペトラは諦めた。
聖女が儀式の手順でごねるとかありえないんだろう。当日に祈っても前日に祈ってもペトラの信仰心は微塵も変わらないのに。もともとゼロだから。
神官の渋い顔を見ながらペトラは心の中で舌を出した。
明後日の結婚式は憂鬱でしかない。
爆発事故の後は数日寝込んでおり、結婚式という気分でもない。それに、聖女という肩書を妻に求める求婚者がとんでもなくうるさいので結婚するだけなのだ。
聖女の結婚は自由とされているけど、求婚者は本当にうざかった。これならアタシは政略結婚でよかった。聖女が政略結婚していた時代はそれはそれで問題があったんだろうけど。
だから結婚相手は仕事でほとんど帰ってこない、アタシの邪魔をせず足を引っ張らず、契約書の項目に全部OKと言ってくれた人にした。
ペトラが不満げに歩いていると、落ちこぼれとされる聖女候補の女の子たちが床を拭いていた。聖女候補でも期待されていないと下働きみたいな扱いだ。こういうのはやめろって言ってるのに。
落ちこぼれを作って他の子に優越感持たせたって、いつ治癒魔法使えなくなるか分かんないんだから。
「あんたたち、何で床掃除してんの?」
「ペトラ様」
少女たちが過去のペトラとミュリエルに重なって見えて、思わず声をかけた。
「私たちは床掃除をしていろと言われてるんです。治癒魔法も大したことがないので……」
「アタシだって覚醒する前は大したことなかったわよ。指導係は誰?」
少女たちは告げ口するようで気が引けているのか、二人で顔を見合わせている。
「いつ何が原因で覚醒が起きるか分からないんだから、落ちこぼれでも聖女候補の訓練をしないといけないはずよ。アタシとミュリエルがそうだったからね。だからあんたたちがこんなことやってるのは、指導係の怠慢。で、指導係の名前は?」
「ベサニーさんです」
「あぁ、あのベサニーか」
他人にほとんど興味がないペトラがなぜ覚えているのかというと、名前が出た指導係はペトラとミュリエルの同期だからだ。
「相変わらずあの女。聖女候補から指導係になっても陰険だね。アタシから言っとく。あんたたちはいつも指導されてないんでしょ。結婚式と出張が終わって落ち着いたらアタシが見てあげる」
ペトラは指導係に文句を言いに行くことに決めた。
必要ならば殴って蹴る。治癒魔法かけたら歯が抜けたって証拠なんてないし。いや、ダメか。最近、あのいけ好かないむかつく第三王子が帝国から持って帰った道具で治癒魔法かけたら痕跡でバレるんだった。あいつ、本当にどうでもいいことしかしないわよね。
別に聖女なんて興味がなかった。お給料もらえたら下働きでもなんでも良かった。
でも、ペトラが覚醒しなかったらミュリエルと一緒にいられなかっただろう。ミュリエルはあのクソ野郎に尽くしまくってボロボロになっているけれど。
ペトラから見たらミュリエルの行為は愛ではない。あんな次元の低いものが愛ならば、尽くして尽くして相手に吸い取られるだけのものを愛と呼ぶならば、ペトラは愛なんて信じないし要らない。




