表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第四章 私だけを愛して欲しい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/89

8

いつもお読みいただきありがとうございます!

義母回は大人気です笑

 ベッドの側のイスに腰掛けた義母は、一言もしゃべらないまま時間だけが過ぎていく。

 外には護衛がいるものの部屋には二人きりだ。非常に気まずい。それに昨日の疲れがあるので眠くてたまらない。


「あなたはこのままでは幸せになれないわ。逃げた方がいいわよ」


 うとうと眠りそうになっていたが、義母の発言で目が覚めた。まるで独り言のようだった。


「えっと、どういうことでしょうか?」

「あぁ、そうね……まずは……どこから説明したらいいかしら」


 さっきまで眠たかったからあまり考えないようにしていたけど、この人は本当に義母だろうか? 義母付きの侍女と一緒になってスタイナー公爵家にふさわしくないとミュリエルをいびっていたのに、今では見る影もなく、しおらしい。


 縁起でもないが死期でも近いのだろうか。病気だったら神殿に寄付さえすれば優先的に治癒魔法をかけてもらえるけれども。


「さっきの息子を見て、失望したの。あぁ、この子は結局父親と一緒なんだって。あの子は私の実子でないことは知っているでしょう?」


 義母に聞かれてミュリエルは小さく頷く。ラルス神殿長に書類を見せてもらって知っていた。


「息子があんな発言をする瞬間まではあの子は私の可愛い息子だった。私が産んでいなくとも。でも、あの子は父親と一緒だったわ。私が流産した時と同じことを言うなんて」


 義母は目に涙をためていた。ミュリエルはこの時初めて義母を美しいと思った。

 いつも顔を合わせていたが、義母はミュリエルのことを婚約した時からずっと敵と認識したような態度だったのだ。今初めてミュリエルも気付いたが、義母は年齢の割にはまだ若々しく美しい。


「結婚して三年、子供ができなかった。そして三年目にやっと授かったと思っても流産だった。その後も二回あったわ。とても辛かった。辛かったという言葉では言い表せないくらい。旦那様は言ったわ。『しょうがない』って。でも、旦那様の愛人には簡単に子供ができるのよ」


 以前ミュリエルが口にしたカーラ・ローゼンはレックスの生みの親であり、義父の愛人だったローゼン子爵家の三女だ。出産の際に出血が多く、神殿に遣いをやっている間に亡くなっている。


 義母はこのカーラ・ローゼンが妊娠している期間、社交界には「妊娠した」と出て来ていなかった。最初からレックスは義母が産んだ子供として公爵家に迎え入れられる予定だったのだろう。神殿への提出書類には嘘が書けないだけだ。


「流産した後の旦那様はレックスと一緒だったわ。あれをやっておいてくれ、これをやっておいてくれって。体よりも心が痛い私に寄り添いもしない。辛すぎてなかったことにしていたけど、今日のレックスを見て思い出したわ」


 義母の剣幕は思い返してみてもすごかった。息子には甘くなるのかと思っていたが、そんなことはなかった。むしろ、義母はレックスに過去の義父を重ね合わせたのかもしれない。


「では、さっきレックスに怒鳴った言葉は公爵に言いたかったことですか?」

「そうだけど、レックスにも言いたかったわ。父親と同じようになってしまうなんて……私なりに愛情を注いだつもりだったけど、あんなに思いやりがなく育ってしまうなんて。失敗だったし、血は争えないわね」


 ふぅと義母は息を吐く。さっきまで溺愛していた可愛いはずの息子がいきなり旦那と一緒になった、というところだろうか。


「このままレックスと結婚していてもあなたが不幸になるだけよ。逃げた方がいいわ。あなたには神殿というバックもあることだし」

「お義母様は私とレックスの結婚にずっと反対だったではないですか。逃げた方がいいと言われても……」


 むしろ、ミュリエルをいびるために作戦を変えたのか?と思わなくもない。今度は追い出す作戦に変わったのだろうか。レックスを叩いたのが演技ならすごすぎるが……。


「別に……誰でも反対だったでしょうね……」

「はい?」

「カーラ・ローゼンが亡くなって旦那様はすぐ新しい愛人に夢中になったわ。薄情な人よね。私の心の隙間を埋めてくれたのはレックスだった。旦那様は見てくれなくとも、あの子だけは私を見てくれた」


 あぁ、なるほど。別にレックスの婚約者・妻には誰でも反対だったと。


「まさか聖女様と結婚するなんて思っていなかったわ。余計うまくいかないと思った。だってあなたは聖女として、夫よりも他者を気にかけ続けている。昨日みたいに大規模な事故があればすべてを放り出して文字通り飛んでいく。レックスはそれを頭では理解できても、飲み込むのは無理でしょうね。だから反対だった。もちろん、今でもうまくいかないと思っているわ」

「ふふふ。お義母様も独占欲が大変お強い方ですね」


 義母は話し終えると立ち上がった。


「レックスが変わるのは難しいでしょう。旦那様も変わらなかった。きっとあなたの将来は私。私みたいになりたくなかったらお逃げなさい。ただ、あなたには聖女という肩書がある。それは私とは決定的に違うところね。長居をしてしまったわ。疲れているのにごめんなさいね」


 今までの義母とは別人のような態度で帰っていく。


 なんだ。義母も独占欲の塊ではないか。

 私だけを愛してほしい、見てほしいの塊だ。独占欲の強い人間が独占したい相手を独占できなかったら、行きつく先は諦めか、さらなる執着か。義母は夫を諦めて子供に執着したのだ。

 その結果がレックスだ。


 義母は案外、レックスのことを理解している。そして意外にも私のこともよく見ている。

 大恋愛の末に公爵と結婚したのに跡継ぎを生めず、公爵は愛人にかまけて愛人は簡単に妊娠した。何度も流産をしながら心無い言葉を投げかけられながら、愛人が生んだ子供を育てる。


 私はレックスが愛人を作るのも、その子供を育てるのも無理だ。他家からの養子なら普通に接することが出来そうなのに、愛人の子供は無理だと瞬時に拒否してしまう。


 いびられてきたから仕方がないかもしれないが、実はミュリエルの方が義母を見ていなかったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ