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近所の人々が走り回って怪我人の家族に知らせてくれた甲斐もあり、なんとか事態は収束した。
神殿を出たのは昼すぎくらいだったが、怪我人の処置がすべて終わった今は日が沈もうとしている。
久しぶりに限界まで魔力を使ったせいで、ミュリエルもペトラもふらふらしていた。
「目が回るぅ~」
「こんなに疲れたのは久しぶり」
「あの馬車事故以来かも」
「大規模な事故も最近なかったものね」
帰りの馬車の中で二人そろって寝そべっている。座っていられないほどの疲労感と吐き気だ。
「おえー、吐きそう」
「袋いる?」
「いや、よく考えたら胃の中に吐くもんなかったわ」
「そういえばお昼を食べてないわね」
儀式が終わった後食べる予定だったので、聖女も聖女候補たちも食事をしていない。水分を摂る気にもなれず二人でぐったりする。
「それにしても。公爵家の護衛ってあの一人以外は使えないわね」
「あぁ、イザークのこと?」
「そうそう。あの人、めっちゃテキパキ動いてたじゃん。神官もびっくりしてた」
「私は全然見る余裕なかったわ」
「そりゃあミュリエルは重体の怪我人に治癒かけてたんだから。残りの護衛は突っ立ってアワアワしてただけなのに、あの人すぐに動き出してたわー。神官手伝ったり、怪我人落ち着かせたり。それを見て他の護衛達も見様見真似でなんとか動き始めてたし」
事故現場でも残念ながら聖女に護衛は必要だ。
パニックになった人が聖女に襲い掛かったり、こっちに早く治癒魔法をかけてくれと聖女に詰め寄ったりする事態が起きる。現場では神官がぴったり聖女に張り付いているが、護衛もしっかり張り付いてくれているのだ。
公爵家の護衛は神殿で待機していてもよかったのだが、人手が必要だと神殿長に同行するように言われたのだ。
「あんな現場、なかなか遭遇しないから仕方ないわよ」
「まぁね~。アタシたちは残念ながら慣れちゃったけど」
現場が初めての聖女候補の中には、血の臭いや怪我を見て倒れてしまう子もいる。今日も倒れるか気分が悪くなった子たちがいたはずだ。中には「できない!」と泣き出してしまう子もいる。
「聖女様、お疲れさまでした!」
神殿に到着して馬車の扉が開く。ペトラとミュリエルはしばらく座席に体を投げ出していたかったが、ゆっくり起き上がった。
ペトラが最初に馬車から降りる。
次にミュリエルが降りようとしたところで側に手が差し出された。
「あぁ、イザーク。お疲れ様」
「お疲れ様です」
差し出されたイザークの手を取って馬車から降りる。
イザークも現場で駆け回ったせいだろう、服にあちこち汚れがついていた。
「食事と湯あみの用意がされているようです。公爵家には神殿に泊まると使いを出しています」
「あら、ありがっ痛っ!」
下腹部に急に痛みが走った。
魔力切れのせいだろうか。めまいもしているのでバランスが取れない。
「聖女様!」
「ミュリエル?」
イザークが焦ったように体を支えてくれるが、ミュリエルは痛みでどうにかなりそうだった。
先に歩き出していたペトラもミュリエルの異変に気づいたらしく、こちらへ走ってくる。
ペトラが近づいてくる様子を見ながら、ミュリエルはあまりの痛みに意識を手放した。
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