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聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第四章 私だけを愛して欲しい

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いつもお読みいただきありがとうございます!

今日は二話アップしています。

 ペトラの結婚式の準備で忘れられかけていたが、神殿の恒例行事である炎の祭りが行われた。

 神殿前の広場に木が組まれ、聖女と聖女候補たちで信者から集めた物品を燃え盛る炎の中に入れ祈りを捧げる。


 燃やされているのは持ち主の嫌な記憶がしみついた物だ。

 信者が持ち寄り、炎によって嫌な記憶を浄化してこれからの花咲く季節に備えるための儀式である。


 燃えるものに限定されるので、衣類や日記が多い。本は閉じた状態では燃え残ってしまうので、聖女候補の手でビリビリ破られている。あれって地味に手が痛くなるのよね。

 ノンナも婚約者と初デートで着た服などを持ってきていた。


 燃やすので当然煙がでる。浄化されているので煙は浴びた方がいいとされているのだ。

 聖女と聖女候補たちは目が煙で沁みないよう時間で交代するが、この日一日は多くの人々の髪や服に焦げ臭いにおいが残る。


 物品がほとんど燃えて儀式がそろそろ終わろうかというタイミングだった。


「郊外の工場で爆発が起きました! 至急準備してください!」


 儀式を見に来ていた信者たちの間に動揺が走る。

 ラルス神殿長は残る者と向かう者をすぐに選別し、ミュリエルとペトラは儀式用の装飾がついた重く動きづらい服を着替えるべく走り出した。

 残る者たちは包帯などを馬車に積み始める。



「爆発なんて……被害は大きいのかしら」

「ガラスが飛び散ってたら工場関係者だけじゃすまないんじゃない?」


 ミュリエルとペトラは包帯や消毒液などがぎゅうぎゅうに詰まれた馬車内に二人で何とか座っていた。急な事件・事故現場に向かう時はいつもこんな感じだ。近場なら走る。

 聖女だからと優雅にゆったり馬車に乗っていられるわけではない。


 現場に到着すると消火活動が始まっていた。

 ペトラと一緒に馬車から降りると、先に馬で到着していた神官たちがすでに怪我人の選別を始めていた。


「ペトラ様は軽傷から中程度の怪我をしている者たちに治癒魔法をお願いします。ミュリエル様は重体の者たちのところへ」


 それほど重傷でない怪我人が一か所に集められていれば、ペトラの範囲を限定して施す治癒魔法が有効だ。ミュリエルもできるのだが、ペトラはコントロールがうまく無駄な魔力の消費がない。怪我人が多い現場では魔力の消費は最小限におさえたい。


 重体の怪我人が寝かされているところに神官と一緒に走る。

 緊急事態の際は治癒魔法行使に家族の同意は必要なく、本人の同意のみで可能だ。しかし、本人に意識がない場合は家族の同意あるいは――


「聖女様、こちらに神殿のシンボルを身に着けている怪我人を集めています!」


 肉体労働者や騎士など危険のある仕事に従事している者たちは、緊急時に自分の意識がなくても治癒魔法を施してほしいという意思表示をしている。

 それが神殿のシンボルである13個の星のカードだ。神殿で無料で配っているもので、カードを身に着けている人には緊急時の同意なく治癒魔法を使える。


 爆発に巻き込まれて皮膚が焼けただれ、ガラスの破片が体に刺さっている人が多い。

 近辺の医者も駆けつけて応急処置にあたってくれている。止血など医者による処置がされていると、治癒魔法行使の際に魔力が少なくて済むのだ。


「この人は……」


 シンボルをつけていない怪我人の中に、よく神殿に来る人の姿があった。

 妻と娘に別居されてしまい「死にたい」と嘆いていたあの男性だ。彼はこの工場で働いていたわけではなく、近くにいて巻き込まれたようだ。工場の作業服を着ていない。


「あ……」


 近くにいた神官も気付いたようで声を上げる。顔の半分がガラスの破片でひどいことになっていた。


「彼はあの女性たちを庇おうとしたようです」


 別の神官の言葉に振り返ると、小さな子供と一緒にペトラの治癒魔法を受けている女性がいた。

 きらきらと光の粒が広範囲に煌めいて地面に落ちる。怪我で泣き叫んだり、パニックになったりしていた怪我人たちもその光景の美しさに静かになっていた。


「彼はよく神殿に来ていたのに、シンボルは身に着けていないの?」

「……はい」


 同意なしで治癒魔法をかけてはいけない。

 しかし、ミュリエルは男が何かを掴んでいるのに気付いた。神官が男の手を開く。

 それはどう見ても子供が作った拙い栞だった。タンポポか何かの黄色い花が13個ぎゅうぎゅうに押し花にされている。お世辞にも綺麗とは言えない栞を彼は強くつかんでいた。


 娘の代わりにあの子供を守ろうとしたのかしら。


「治癒魔法をかけるわ。多分、他の人にかけても魔力量はギリギリ足りると思う」


 死んでしまったら治癒魔法は意味がない。シンボルをつけていない人の中で彼が最も重体だった。

 神官が頷くのを見て、ミュリエルは彼の顔に手をかざす。白い光が視界いっぱいに広がった。

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