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聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第四章 私だけを愛して欲しい

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いつもお読みいただきありがとうございます!

 話し合いの日。

 靴屋の息子で、ノンナの元?婚約者であるジョゼフは両親に引っ立てられてやってきた。ノンナが神殿関係者だったため、そしてミュリエルが目撃してしまったために彼は神殿に召喚された。神殿以外の場所で話し合いをしていればジョゼフ側に有利に事が進んだだろう。


「あの……うちの息子が何か粗相でも……?」


 ジョゼフの両親は一人掛けのソファに座るミュリエルと、後ろで腕を組んで突っ立っている神殿長を交互に見る。

 スキンヘッドのガタイのいい神殿長が立っていたら個室でなくとも怖い。個室ならさらに怖い。


「あら、ご子息から聞いていないのかしら?」


 ノンナの両親は怒りで震えているので、ミュリエルはおっとり問い返した。そもそもミュリエルと神殿長に聞いてくるところがなんだか卑しい。ノンナに聞けばいいのに。


「神殿で声高に叫んでいらっしゃったの。他の女性を妊娠させたから結婚はやめにしてくれと」

「は?」


 あら、ジョゼフから聞いていないのかしら。


「お前、急に別れたいって言われたから結婚式はやめるって……」

「まぁ、それは嘘ですわ。私が聞いています。あまりに見苦しかったので話し合いは後日にさせていただきました」


 ミュリエルは自分が出しゃばるのはここまでと、ノンナに視線を向ける。

 ジョゼフの両親はすでに倒れそうな顔色だ。


「嘆かわしいことじゃ。神の教えでは結婚が尊ばれておる。じゃが、結婚前じゃからと浮気していいとはどこにも書かれておらん。そもそも『隣人を慈しみ愛せ』と語られておる。さらに、こうじゃ。『愛が分からぬなら、まずは他人にしてもらいたくないことを他人にすべきではない。そこから始めよ。それが義務である』とな」


 ラルス神殿長が筋トレ以外のことを真面目に喋っているのは珍しい。


「私は真摯な謝罪と慰謝料を求めます。先日は『可愛げがあれば浮気しなかった』と言われましたから」


 ノンナが背筋を伸ばしてハキハキ喋る。目に涙など見当たらない。ノンナの両親は怒りを耐えてノンナの様子を見守っている。


「その……浮気したのは息子の虚言かもしれませんし……」

「息子が浮気して、しかも相手が妊娠なんて……」

「相手は元彼女だとジョゼフが言ってました」


 ノンナの両親が差し出した慰謝料の額が書かれた紙を見て、ジョゼフの父親は額の汗をぬぐっている。相場の値段に少し上乗せしたくらいだけれど、結婚資金を貯めていなかったのかしら。結婚式の費用を充てれば払えそうなものだけど。あ、キャンセル料がかかるのよね。


「証拠ならスタイナー公爵家で調べました」


 言い逃れできないように、イザークが一日で調べてくれた証拠をさらっと差し出す。浮気相手というか、相手の女性がノンナを知っているのかどうか分からないが……花屋の娘だった。


「間違いなくお相手は妊娠しています」


 ジョゼフという男性はどう誤魔化す気だったのかしら。


「ジョゼフ、本当なの!?」

「慰謝料は分割でも……いいでしょうか……」


 父親は現実を見ており、母親は息子を信じようとしていた。ジョゼフは視線を合わせず俯いて何も言わない。


「支払わなかったり、支払いが滞ったりした場合どうなりますか? 私は同僚を傷つけ、教えをわざと破るような不誠実な彼の結婚式で祝福を行いたくありません」


 ミュリエルは神殿長に敢えて確認した。聖女の発言権はこんな場でも小さくはない。


「そうじゃのぅ。治癒魔法を受けられなくするのはもちろん、礼拝禁止かのぅ。聖女がこう言っている以上、祝福は受けられん。毎日鍛えなおすのに走らせてもいいが」


 神殿長、最後が本音ですね……。


 今のところジョゼフはノンナにきちんと謝罪していないので、話がある程度まとまると神官と護衛を残し、神殿長と共に部屋を出た。神殿長や私がいると脅して謝らせた形になってしまうから。


「彼はちゃんと反省しているでしょうか?」

「まだまだ若いからのぅ。若い者は自分のやっていることが間違っていると分かっていてもなかなか認められん。視野も狭くなっとるしのぅ。プライドもあって意固地になってしまうこともあるのぉ」


 コツコツと歩く音が建物にこだまする。


「特に愛は難しい。愛はいいものだと思いがちじゃ。自分の愛が実は愛ではなかったと認めるのはとても勇気がいる。あの者もノンナとの愛に疑問を感じて他に走ったのだとしても、誠実な対応はすべきであった」


 ラルス神殿長の言葉に悲しみが混じる。


「戦時中は求婚も命懸けじゃったがの。結婚の約束は『必ず生きてあなたのもとに帰ってくる』という意味合いじゃった。時代の変化はあるが最近はずいぶんと簡単に結婚するものじゃ。じゃが、いつの時代も愛は難しい」


 ミュリエルだって愛については自信がない。「この人が運命の相手で結婚相手です」と映す鏡でもあったらいいのに。運命の相手に印がついていたらいいのに。そうしたら迷わなくていい、なんて思ってしまう。

 でも、そんな風に決められた相手で本当にいいのだろうか。愛に自信がないからこんなことでも迷ってしまう。

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