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今日は二話更新します!
結局ノンナはミュリエルに与えられた部屋に泊まり、翌朝はお店で一緒に朝食を食べた。
ノンナと歩いていると、朝から働いている下働きの子たちがぎょっとした顔で二度見している。
普段ミュリエルに悪態をついているノンナの態度を見ているなら、仕方のないことだ。
「昨日のあなたよりも今日の方がウワサになりそうね」
「セージョ様、楽しんでません?」
「うふふ、表情に出やすい子たちは楽しいわね」
護衛の関係もあり、イザークも同じ店で朝食を摂った。
最近出張はペトラが行き続けていて、レックスとのデート以外は外食していなかったので新鮮だ。野菜がたくさん入っているスープはお腹に優しい。
「セージョ様、あの人かっこいいですよね」
「あら昨日の今日で切り替えが早いわね。いいことだわ」
「違いますよぅ! 前から思ってましたけど! セージョ様の護衛の方ですよっ!」
「あぁ、イザークね」
交代して帰っていくイザークを見てノンナが嬉しそうに声を潜めた。
「昨日はお菓子や軽食まで買ってくださって。いいですねぇ」
「次はああいう男性にしないとね」
「はい。セージョ様はあの人にときめかないんですか?」
「私は既婚者よ」
「う~ん、でもあの人セージョ様とお似合いだと思いますけど……優しいし、気が利くし頼りがいがあって、なによりセージョ様と同じ黒髪ですから! 並ぶと絵になります! あと、セージョ様を見る目が優しいです」
「あぁ……そういえばイザークも黒髪だったわね」
以前感じた視線が気になっていてすっかり失念していた。ホルフマン侯爵家は他家よりも灰色や藍色といった色素の濃い髪色が多いというのもある。どうして気付かなかったのかしら。ミュリエルは黒髪なのでいつも鏡で見ていて珍しいと思わないのもあるだろうが……。
「貴族だからって偉そうにしてないし。無口な人だと思ってましたけど、優しいんですねぇ。セージョ様を敬愛している感じがするし」
ノンナは一人でうんうん頷いている。
黒髪。確かにイザークは黒髪だ。たったそれだけなのに何かが胸に引っ掛かる。胸の引っ掛かりを無視するようにミュリエルは軽口をたたいた。
「元気になったみたいで良かったわ」
「いっぱい泣いて走ったんで! あとは親に話すのは気が重いですけど……今日帰ってから頑張ります」
「走ったの? ご両親ならきっと一緒に怒って乗り越えてくれるわよ」
「……はい。あとは、神殿で話し合いをしようと思ってます!」
「じゃあ神殿長にも話をしないとね」
「昨晩のうちにお話しました。内輪に知られたら恥だと思ってましたけど、彼のあの感じなら揉めそうなので……はぁ……気が重い」
「なら神殿長も出てくるかもしれないわね」
「え、それじゃ話し合いになりませんよぅ。神官さんくらいで……」
「私も立ち会うから日程が決まったら教えてね」
神殿に戻りながらノンナの頭を軽く撫でる。
「セージョ様。私、全部終わったらちゃんとこれまでの態度謝るんで。けじめつけるまで待っててください」
「いやだわ、そんなけじめなんて。ノンナって今までツンツンしていただけでしょ? これからはデレデレしだすんだから大丈夫よ」
「誰がツンデレですか!」
「あなたよ。私のことを毛嫌いしてたみたいだけど、嫌いは好きの裏返しだものね」
「そんなことないです!」
「まぁいいのよ。あなたは私のこと偽善者って言ってたけどその通りだと思う。ずっとみんなの望む聖女様でいるのって疲れるじゃない。人間をやめているみたいで。だからあなたが偽善者って言ってくれてちょっと安心してたし、気が楽になってたのよ」
ノンナは怪訝な顔でミュリエルを見ている。
「だから遠慮なく今まで通りでいいわよ」
「いや、さすがにここまでしてもらってそこまで性格悪くなれませんよ……これまでは嫉妬して偽善者のセージョ様なら大丈夫って甘えて八つ当たりしていたんですから……」
ノンナの話し合いは近日中に行われるだろう。
ミュリエルといることでさんざん憶測を呼んでいるノンナが、ミュリエルから離れるとすぐ下働きの子たちに囲まれていた。
「え!? 大丈夫なの!」
「ひどい! あの靴屋もう行かない!」
そんな声が下働きの子たちの集団から聞こえた。その騒ぎを背にミュリエルは立ち去った。




