17(ノンナ視点)
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眠れないノンナは礼拝堂にある初代聖女の像を見上げていた。
ミュリエル様の部屋に泊めてもらえるのはありがたいが、婚約者であるジョゼフとあんなことになってグースカ眠れる神経は持っていない。あ、もう婚約者じゃないか。
ソファで眠らせてもらっていたが、ミュリエル様が寝息を立て始めたのでそっと音をたてないように出てきたのだ。
昼の礼拝堂よりも夜の礼拝堂の方がノンナは好きだ。
とても静かで頭がクリアになる。
ジョゼフの態度がおかしいことに薄々気付いていた。
最初は些細なことだった。
ノンナの話を聞いていない上の空な態度に始まり、連絡が途絶えることもしばしば、結婚式の準備も「忙しい」とノンナだけにやらせる。デートのキャンセルもあったっけ。
何で私ばっかり。何で私ばっかり頑張らないといけないの?
モヤモヤ悩みながらもジョゼフに聞くのは怖かった。
そもそも、ちゃんと聞けない時点で私たちの関係は思っていたほど良くなかったんだろう。
私はジョゼフに聞けない分、神殿で八つ当たりして甘えてしまっていた。
完全に黒歴史である。
セージョ様が羨ましくて八つ当たりするとか……どれだけ幼稚だったんだ、私。神殿の前で抗議してる人達と一緒じゃん。人に八つ当たりしたり、文句言ったりする前に自分でなんかしろよ、努力しろよって感じ。
「明日からどんな顔すれば……」
現実逃避したくて、初代聖女の像を見上げる。
そういえば、初代聖女様は誰と結婚したんだっけ?
疫病が流行った時に現れたのが初代聖女様で、この方は好きな人と結ばれたんだよね。確か、好きな人を助けるために聖女の力が覚醒したんだっけ。あれ? 流行り病にかかった両親を助けようとしたんだっけ? この辺り、諸説あるから分からなくなっちゃった。
でも聖女様がどんどん出てくるようになったら、聖女様の力に目をつけた王家に嫁ぐ人も現れて。そこから聖女様の歴史はドロドロしたものになっていく。
聖女様は子供ができにくい。
王族に嫁ぐ聖女様が出てきた頃はそのことが判明していなかった。今でも原因はよく分かっていないけれど。
跡継ぎを生めず、周囲から精神的に追い詰められた聖女様は精神を病んだ、と表向きはなっている。
現実はもっと悪い。
聖女様は病人や怪我人の治癒をして魔力を無理矢理使い切った後、自殺したのだ。いくら聖女様でも魔力が残っていなければ自身に自動で治癒はかからない。
これは神官長が話しているのをノンナが聞いてしまったから知っているのだが……下働き歴が長いとこんなこともある。
そこから王家と神殿の仲はこれまでにないほど悪くなった。
徐々に改善はされたものの、それ以降よほど聖女様が望まない限り王家に聖女様が嫁ぐことはない。
「なんじゃ。ここにおったのか」
「うひゃあ!」
思考に囚われていたら、急に後ろから声をかけられてノンナは驚いた。
汗を拭いているラルス神殿長が立っている。相変わらず筋トレだろうか。
「お主も走るか。すっきりするぞ。よく眠れる」
走ってたのかこんな時間まで……神殿長。元気だな。
「祈ってもいいが、動くのもいいぞ。筋肉と努力はいい。異性と違って裏切らんからな」
慰めなのか、そうではないのか。
ラルス神殿長はポンポンとノンナの頭を軽くたたくと礼拝堂から出て行った。
「うわ! そういえば私……結婚して落ち着いたら神殿の下働き辞めるって言ってあったからそれ取り消さないと!」
結婚が決まってルンルンしていた時にそんなことを言ってしまって、その場で書類を書いた気がする。あの時は靴屋をジョゼフと二人で頑張っていくつもりだったから。
結局、ノンナは早足のラルス神殿長を追いかけるために走る羽目になった。




