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聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第三章 愛は簡単に捨てられない

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12(ペトラ視点)

いつもお読みいただきありがとうございます!

「まさか……聖女様のお母様かな?」

「え、でもここって聖女様が育った孤児院から離れてるぞ?」

「いや今回この地区に行くのをペトラ様が切望されたらしいぞ」

「じゃあ感動の再会か?」

「雰囲気的に違うんじゃないか」


 騎士たちが何やら推測して小声で盛り上がっているが、ペトラとしては「んなわけねーだろ」である。どんだけ夢見てんだ。


 ペトラは両親の顔も名前も、この世に存在しているのかも知らない。赤ん坊の時に孤児院の前に捨てられていたそうだ。だから、ペトラの出生届は孤児院の職員が書いた。誕生日は適当。両親の名前は「不明」となっている。事実だからウソでもなんでもない。


 聖女候補になった途端、五組ほどペトラの親だと名乗る夫婦が現れた。ラルス神殿長が対応したからどうなったかは知らないが、彼らはペトラの前に姿を現すことはなかったのでお察しである。

 ラルス神殿長はペトラが傷つくだろうと内密にしていたが、他の聖女候補たちが目撃して嫌味ったらしく話しかけてきたから判明した。


「あんたって両親いなかったんだ? 知らなかったー。だから見た目も力も貧相なのね」

「こんな落ちこぼれ聖女候補の親だって名乗り出たところで旨味なんてないのにね」

「やだ、落ちこぼれの聖女候補でもいいのよ~。神殿からの給料出るじゃない」


 クスクス笑いながらマウントを取る、力のある聖女候補たち。


「両親が揃ってたって、あんたらみたいに性格ねじ曲がるならむしろいなくてラッキーだよ」


 相変わらずギャーギャー言ってきたから、普通に殴って蹴って分からせた。平民でも女の子はあまりケンカしないらしい。欠伸が出そうなくらい弱い。これ、聖女が襲われることがあったらまずいんじゃないの?


「ご自慢の治癒魔法が自動でかかるから大丈夫っしょ?」


 髪の毛抜いてあげた方が良かったかな。腕の骨折るだけで済ませたんだからペトラにすれば大人しい方だ。髪の毛も自動で生えてくんのかな? そこは興味ある。


 罰としてご飯抜きの謹慎になったが、ペトラは何も間違ったことはしていない。あっちが口で攻撃してきたから、こっちは手足で攻撃して受けて立っただけだ。孤児院育ちを舐めいてはいけない。あそこに世間の常識などない。


 夜、ベッドに寝転がっているとミュリエルが部屋に来た。余ったパンとスープを持って。


「あったかいと香ってバレるからスープは冷たいんだけど……」


 冷や飯なんていくらでも食べられる。ペトラはもらえるものはもらう主義だ。ありがたくパンとスープをもらった。


「あんた、真面目なのに謹慎中のアタシのとこ来たら怒られるよ?」

「すでに落ちこぼれなんだから怒られたところでただそれだけよ。それにご飯抜きでペトラが反省することはないだろうし」


 そりゃあそうだ。ご飯抜きなんて罰じゃなくても何度もあった。

 あのパンとスープの味、覚えてる。今まで食べたどんなものよりもおいしかった。

 聖女として稼げるようになった今でも、ペトラはあの時のパンとスープが一番おいしいと考えている。



 回想をやめて、ペトラは女性に近付くと水の入った桶を蹴っ飛ばした。水をまき散らして桶が転がる。

 後ろでペトラのこんな行動に慣れていない騎士たちが「ひぃぃ!?」なんて叫ぶが無視する。

 慣れてる騎士が諫めるでしょ。ペトラと一緒に葉巻吸ったことのある騎士もいるくらいだし。今日はまだ吸ってないけどさ。


「せ、聖女様」


 女性はペトラの服装を見ると、慌ててお辞儀をした。


「あんた、聖女敬ってないんだからそんな自分にウソつかなくていいわ。ミュリエルに腐ったミルク出して飲ますくらいだもん」


 後ろで騎士たちが納得した雰囲気を醸し出している。


「それにアタシ、みんなが考えてる聖女っぽくないから。気に入らない奴には文句言うし、手や足も出るから」


 足の頻度が高い気はしている。


「あんたの自業自得なのに疲れた顔して掃除すんじゃないよ。アタシなら、今回お咎めなかったあんたの家族に危害加えられるんだからね」

「それだけは!」


 このセリフを言いながらまた思い出す。

 アタシのやってることって孤児院で意地の悪い職員にやられたことと一緒だね。気に食わなかったら暴力、ご飯抜き。


 でも、アタシはこの生き方しか知らない。いくら聖女になって猫被ったってお綺麗な生き方ができるわけじゃない。物語みたいに純真無垢な女の子じゃないんだから。飢えも盗みも暴力の味も知ってるんだから。

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