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「出産後に体が回復してから来てくれたら大丈夫よ。もちろん、治癒魔法をかけてほしいならその時にかけるわ。どうせその時に真実か分かるもの」
「それは、どういう……」
「出生書類は神殿の管轄です。虚偽の内容は書けないようになっています」
「え……?」
「あら? 知らなかったの?」
途中で神官が説明してくれる。このくらいの年齢だったら知らないのかしら。
「どうやって分かるんですか……?」
「神に嘘をついてはなりませんので」
神官が自信満々に答えるが、答えになっていない気がするのはミュリエルだけだろうか。
「仕組みは言えないけれど、出生書類に嘘を書いたらすぐバレて罰せられるの。嘘は書けない仕組みよ」
「そんな……」
「そんな」って言われても。そもそも偽るのは犯罪よ。
だから、レックスの出生書類だって嘘が書いてなかったわけで。
部屋のドアがノックされてイザークが入ってきた。走ったのか息が乱れている。こんな状況だからこの部屋に聖職者と神殿の騎士以外が入る許可がすんなり出たのね。
「こちらのご令嬢がレックスの子供を身ごもっているようなの」
「は!?」
イザークのこんなに驚いた顔は初めて見た。普段はクールなので貴重である。
「彼女に見覚えはあるかしら?」
目を見開いてこちらを見ていたイザークだが、ミュリエルが冷静なのですぐに表情を戻した。
「レネイ子爵家のご令嬢ですね。学園では後輩になります。ただ、それだけです。護衛に回されるまでお二人で会っている様子などありませんでした」
「だそうよ? 私は書類を書いて見せてくれたらいいわ。ただ、嘘だった場合はあなたのここでの発言をすでに神官たちが聞いてしまっているし……聖女相手にこんなことをして何もお咎めなしというわけにはいかないわ」
レネイ嬢は何も知らなかったのだろう。顔色が青を通り越して白い。
「今、この場で発言を撤回するなら聞かなかったことにしてあげるわ」
神官をちらりと見る。神官は考える素振りをしたが、頷いた。寄付を子爵家からさらにもらう算段でもしたのかしら。この部屋が使えるということはレネイ家からの寄付は少なくないのだろう。
「本当のことを話してくれる? 話してくれれば何とかできるかもしれないわ」
「聖女様?」
「いいじゃない。助けを必要としている信仰心のある者には手を差し伸べなければ」
神官にいぶかし気にされるが知ったことではない。
「……助けてください」
レネイ嬢は震える声でうつむいたまま微かに言った。
「本当のことを話してくれない? あ、彼女のために温かい飲み物を持ってきてくれる?」
前半はレネイ嬢に、後半は神官にお願いする。神官は他の誰かに頼むために出て行った。
***
「なぜ彼女にあのようなことまで……」
レネイ嬢の話を聞き終わった後、イザークは眉間に皴を寄せていた。
「彼女のしたことは聖女様と公爵家に対する侮辱です」
「そうね。でもレックスが彼女と二人でカフェに行ったのも確かよね。疑わしいことをしているのはレックスも一緒。カフェに行っていないのなら全く何もなかった、で終われたのに。それに昨日のカフェでのレックスの対応も憶測を呼びそうだわ」
「……はい、そのようです」
ミュリエルが歩き始めると、イザークは無言でついてくる。
「あなたはなぜ……レックス様をそれほど信じられるのですか?」
「今回はレックスを信じていたというよりも、レネイ嬢がレックスのことを好きではないと分かったというのが大きいわね」
イザークはしばし沈黙した。
「公爵家であのような扱いを受けているのになぜ……」
本人よりもイザークの方がミュリエルの待遇に怒っているようだ。
「人って弱い生き物なのよ。そう簡単に愛は捨てられない。だってレックスを愛さなくなるのは私のこれまでの人生を否定するようなものだもの」
だって、私はレックスを愛しているのだ。
他のご令嬢とお茶していても、遊んでいても。レックスはミュリエルを選んで結婚した。
レックスの妻は私なのだ。




