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聖女は夫を呪いたい  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第三章 愛は簡単に捨てられない

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いつもお読みいただきありがとうございます!

 今、ミュリエルは最も聖女らしくない自信がある。

 行儀は悪いが、テーブルの上に肘をついて指を組んだ。あとはデザートだけだからもういいでしょう。


 使用人たちの反応をちろりと観察する。


 先ほどの騒ぎを聞きつけてやってきていた家令は若干瞬きの回数が増えたものの表情は変えない。

 この家令は長く勤めているのだから知っているわよね。他の給仕している使用人たちは知らないみたい。あの事実は一部しか知らないのよね、やっぱり。


「もう一度言いましょうか?」

「な、何のことかしら」


 義母って表情で大体何を考えているのか分かるが、これで社交は本当にできているのだろうか。家だから気を抜いているのかしら。公爵夫人として大丈夫なのかしらと心配になってしまう。


「私、神殿で、働いておりますから」


 にこやかに義母に話す。わざと区切りを作りながら。


「親切に教えに来てくださる方はたくさんいらっしゃいます」


 「たくさん」なんて言っているが、ラルス神殿長がレックスの出生書類を見せてくれただけだ。義母はこれで疑心暗鬼になるだろう。


 一体、誰が知っているのか。誰がバラしたのか。侍女がバラしたのではないかと疑えばあの生意気な侍女たちをクビにするかもしれないので、それはそれでちょうどいい。


 「うまく使え」とラルス神殿長は言ったのだから、義母と義母周辺を黙らせるのに使ってもいいだろう。ネチネチ嫌味を言われるのもそろそろ疲れた。


 これがたまに聞く、いい嫁キャンペーン終了という奴だろうか。あ、私そんなにいい嫁でもないわね。まだ婚約者だった頃に義母にむかついていた時は黙って治癒魔法をかけ続けて、回復力を落としてやろうかと密かに考えていたくらいだもの。


「まさかレックスが」

「やめてちょうだい!」


 おおげさに神に祈るポーズでミュリエルが言葉を続けようとした時、義母が甲高い声で叫んで遮った。

家令が察したようで、給仕の使用人たちを追い出し始めている。


「まぁ、お義母様。そんなに叫んでどうされたのですか。私はただお義母様とレックスの話をしようとしただけなのに」


 全員退室していないので、わざとらしく悲壮感を出す。ミュリエルはまだ全貌を話していない。「義母だって務めを果たしていない」と言ったのと「カーラ・ローゼン」の名前を出しただけだ。

 何も知らない使用人たちは考えを巡らせ始めるだろう。


 義母は小刻みにカタカタ震えている。

 今日はこの辺りでやめておこうかしら。こんなにこの話題の威力があるなら、義母がまた調子に乗り始めたらまた口にすればいい。


「それで、後継ぎはまだできないのかというお話でしたでしょうか。レックスも仕事が忙しいようですし……ねぇ、お義母様。そんなに焦らなくってもいいのではないでしょうか。それともお急ぎなら他の聖女にも頼んで祈りを捧げてもらいますわ! いかがでしょう?」


 義母は答えない。まだ使用人が完全に退室していないので、ミュリエルはそのまま続ける。


「それとも、お義母様はご自分の時のように他のおん」

「違うわ!」


 もったいぶったように区切ろうとしたが、その手前で義母にまた叫ばれた。義母は立ち上がり、血走った目でミュリエルを睨んでいる。


「さようでございますか。お義母様のお考えはよく分かりました」


 別に血走った目で睨まれようと怖くはない。聖女としてもっとひどい場面にはたくさん立ち会ってきた。


「私、お義母様とは仲良くしていきたいのです。でも、お喋りな使用人がいたら公爵家も困りますね?」


 使用人の退室が完了したのを確認してから、笑顔で言い放った。


 義母は笑顔を作ることもなく、化け物でも見るような目でミュリエルを見て席を立ってしまい、ミュリエルは一人でデザートを楽しんだ。嫌味のない晩餐はデザートしか残っていないといえど最高だ。晩餐で味を感じるのは久しぶりだ。


 視界の端に長く仕える家令を捉えた。この家令はミュリエルを聖女として、次期公爵夫人として敬っている大変出来た人間だ。


「あなたも知っていたのよね」

「何のことでしょうか」


 ミュリエルの分かりきった問いかけに家令はすっとぼける。義母よりもよほど訓練されていて表情からは何も読み取れない。


「誰から聞いたのか気にならないの?」

「おや、教えていただけるのですか?」


 真顔の家令の質問返しにミュリエルは笑った。


「神殿に今まで足を運んだ人をすべて調べてみたらいいんじゃないかしら。相当数いらっしゃるけれど」


 意地悪を言っている自覚はあるが、仕方がない。義母にやられたことを義母に今やり返そうにも退席してしまったのだから。

 秘密裡に神殿を訪れる貴族も多い。調べるのは至難の業だ。


「私は聖女様を尊敬しております」


 家令はそう言って目を伏せた。ミュリエルから聞き出すことを諦めたようだ。


「ありがとう。光栄だわ」


 尊敬なんて欲しくない。

 私は愛するレックスと一緒に生きていきたいだけなのに。レックスだけいてくれれば私はそれでいいのに。

 たったそれだけなのに、義父母や公爵家が絡むとどうしてこんなに面倒なことになるんだろう。

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