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「はぁ、結婚式ってダルイ~。めんどくさい~。出張の方が数段マシ」
イスにだら~んと座り、こんな発言をする結婚を控えた花嫁はペトラくらいじゃないだろうか。
「こりゃあ、よほどのことがない限り離婚認められないわ。結婚式何度もするなんてめんどくさすぎる。よかった、これが一回で終わるのね。はぁやれやれ」
さすがに明け透けすぎる。ペトラの結婚が近いので、儀式のリハーサルや準備の合間に二人で話す。
「あ、でも結婚のお祝い金は欲しい。みんなくれるかな? ミュリエルの結婚の後は神殿への寄付が相当増えたんでしょ?」
「えぇ、みんな寄付してくれたみたい」
「アタシに直接くれないかな」
「さすがにそれはちょっと……」
「お菓子の箱と見せかけて底には紙幣とか。チョコを割ったら銀貨とか」
「賄賂だと思われたらまずいじゃない? 没収されるわよ」
「ちぇー、ケチ」
ペトラは唇を尖らせる。聖女や神官への寄付(賄賂)は認められていない。
神殿への寄付が増えてラルス神殿長は大変喜んでいた。集会所の修繕や孤児院建設がすすむのではないだろうか。
「ねぇねぇ。考えたんだけどさ。ミュリエルの旦那はきっとさぁ、『あいうえお』よ」
お金が手に入りづらいとわかると、ペトラは急に話を変えた。
「あいうえお?」
「『愛飢え男』ってやつ。誰かにチヤホヤされてないとダメなんじゃない? 愛がひたすら欲しいのよ~。だってあの公爵夫人にも相当溺愛されて育てられたんでしょ? だったら自分は愛されて当たり前って思ってるはずよ。どこまでミュリエルが愛してくれるか試してるのかも。だから浮気するとか?」
「……浮気って決まったわけじゃないわ」
急に変わった話にミュリエルは呆然とし、ペトラはうーんと呑気に伸びをする。
「そんなことする意味わかんないけどね。こんなに仕事もしてくれて一途に愛してくれる妻がいるのにさぁ。なんで他のアホ女のとこに行くんだか」
「だから、女性のいるお店に付き合いで飲みに行っただけかもしれないし……取引相手が女性なのかもしれないし、浮気って断定できないわ」
「うんうん。そだね。断定はできないけど怪しいと思った時点で大体クロじゃない? 女の勘ってかなりの確率で当たるもん」
ペトラは伸びをした後、ミュリエルの頭を慰めるにしてはやや乱暴にくしゃくしゃ撫でる。ミュリエルは少し俯いた。
「ミュリエルが完璧すぎて劣等感持っちゃってたりして? 僻んでんのかな?」
「そんなにやっていないつもりだけど……私はもともと落ちこぼれだったし。いろいろやりすぎなのかしら」
「尽くしてるようには見えるよ。なんにしろ、浮気なら旦那が悪いと思うけど」
この前、刺繍したハンカチをレックスに渡した。レックスは嬉しそうにお礼を言ってくれたが、その晩書類を渡すため執務室に入るとハンカチはその時と同じ位置にあった。
嬉しそうに受け取ってくれたと思ったのに要らなかったのかしら。うっかりその日の外出には持って行かなかったのかもしれないが、そんな些細なことでも心にささくれができてしまう。
「はぁ、男女って難しいわ~」
「ペトラだってもうすぐ結婚じゃない」
「あんなの男除けだよ~。だって結婚してない聖女ってアタシかイーディス様あたりじゃん。求婚者追い払うのも面倒なのよ。あ、そうそう、アタシたちは結婚しても一緒に住まないから」
「え!?」
「休みだけ一緒に過ごす感じ~。仕事して帰って他人に気遣って生活するなんて絶対ヤよ」
「そ、そうなの……すごいわね」
「アタシは男に尽くすなんて絶対にヤなの。尽くされるのがいいの。ミュリエルは旦那のこと好きだからめちゃくちゃ尽くしてるけどさ~。無償の愛ってレベルにどんどん近付いてるわよ」
「無償の愛って。神様じゃないんだから」
「でもアタシたち、聖女様よ」
「聖女らしい聖女なんていないじゃない」
「それは言えてる!」
ペトラ本人は結婚に全く浮かれずいつも通りだが、式の準備は粛々と進んでいた。
「あなた、子供はまだできないのかしら?」
そんな中、義父とレックス不在の晩餐で耳を疑うような発言をしたのは義母だった。




