第13話 抜け駆け?
ゴールデンウイーク明けすぐは中間テスト準備のため、部活動は一旦休憩となる。
一応進学校のうちの高校は、試験前10日間は部活を差し控えることになっているのだ。
そんなこんなで、俺は放課後、高橋と一緒にマクドナルドでダラ〜ッと過ごすのだった。…勉強しろよと自分でも思うが。
2年生は一番ダレやすい学年…じゃないかな。1年生は入学以来始めての定期テストで気合が入っているし、3年生は目前に受験の影がチラついてきていて勉強せざるを得ない。
「だるいな〜、2年は試験無かったらいいのに」
思わず口にしたら、高橋が笑って同意した。
「やる気全く出ないしな〜…あッ!」
突然高橋が立ち上り、身を乗り出すようにして窓の外を見た。
「どうした?」
「あれ、あれ…」
高橋が指差す先…。
「わあッ!!!」
俺の方が、もっとずっと大きな声を出してしまった。
なんでだなんでだなんでだ!?
大通りの向こう、由紀ちゃんが歩いている…佐々木先輩と。
「しまった〜!!!」
俺は恥も外聞も無く大声で叫んでしまった。そのまま机に突っ伏した。
「や、やられた〜…」
思いっきり凹んでいると、高橋が俺の肩を叩いた。
「いや、まだ負けと決まったワケじゃなさそうだぜ。手を繋いでいるわけでもないし、たまたま出会って駅まで歩いているだけかも知れない」
そ、そ、そうだよな…。
俺は恐る恐る顔を上げて2人の様子を見た。
うーん、そう言われればそんなふうにも見えるし…いや、付き合い始めの、ちょいヨソヨソしい感じにも見える。
しかしとにかく、わざわざ稽古の無い日に一緒に歩いているっていうのは、ちょっと気にかかる。
由浅の件に気を取られるあまり、肝心の由紀ちゃんのチェックを忘れていた…。
クソ、佐々木の奴…受験生の癖に…。
いや、その前に彼女いるんじゃないのか?
「たかはし〜!」
思わず泣きつくと
「どうした、お前らしくもない。まだまだこれからだろ?」
と、高橋は俺の肩を叩いて励ました。
か、かっこいいぞ、高橋!
っていうかなんていうか、頑張れ、俺!
店から飛び出して、後をつけたいのはやまやまだったが、高橋にやめとけと言われた。
「それって超恥ずかしい」
とのこと。
「阪中ってさ〜、実は恋愛慣れしてないよな…」
とまで言われた。
しかし、そうなのだ。実際には。
軽口で女子と話しているし、それで誤解を招きよく告られたりするわけだが、実のところ、自分が誰か好きになって、振り向かせようと努力して…ということがこれまで無かったかもしれない。
それも、あんなに「相手にされない」のは初めてで…。
く〜ッ!どうしたらいいんだ!
勉強どころじゃない。
いや、そもそも勉強してなかったんだけどさ…。
高橋の助言では「オマエの情報網を存分に使え!」、つまり、とりあえず由浅に探りを入れろ、ということだった。
それはそれで気が引けるのだが、ここは仕方が無い…。
俺は思い切って由浅に電話してみることにした。
携帯の発信ボタンを押す時、初めて好きな子に電話した時みたいに緊張した。
…あれは中学の時。
あの頃は携帯なんて持たされてなくて、相手の子も持ってなくて、家に電話した。
おばちゃんが出て、それはそれでドキドキしたりして…。
なんて、思い出している場合では無い。
そもそも、由浅に電話するのに緊張などする必要はないのだが、やっぱり同じ顔だけに、思い出すとちょっとドキドキしてしまう…気がするのだ。
『はい、先輩?』
素直で良く通る、由浅の声が聞こえてきた。
「ごめん、すごくくだらない電話なんだけど」
『もしかして、由紀のことですか?』
即答。相変わらず察しが良い、と思ったら
『今日、佐々木先輩と駅前歩いてた件でしょ?先輩で3人目ですよ、確認の電話』
なんて言う。何ッ!
「3人!?」
『ええ、あ、剣道部員じゃありませんよ、同級生からですけど』
…やっぱ、人気あるよな、仕方ない。掃き溜めにツルのような可愛らしさだ。
『それがね、先輩には嫌な情報ですけど、実はまだ帰ってきてないんですよ』
ちらりと時計を見る。まだ5時だ。
『まだ夕方ですし、心配することないんですけど、なんか分かったらメールか電話しますよ』
「ああ、すまん」
ちょっと凹んでいると、由浅が言った。
『佐々木先輩とは付き合ったりしないと思いますよ、由紀』
「…なんで?」
『ああいうゴツい系の人、タイプじゃないと思います』
ぷっ!
あまりにズバリな言い様に、つい笑ってしまった。
「ありがと。その言葉信じるよ」
俺はそう言って電話を切った。
やっぱ由浅と喋ると元気出るよな〜って思う。
頭が良いんだろうな、言葉がポンポン飛び出すし、ストレートに話すし、なのに悪意を感じなくて、正直羨ましいくらいだ。
どうやったらあんなふうに育つんだろう、由紀ちゃんとももっと喋ってみたい…なんて、思ってしまうのだった。
そして俺はちょっとふっきれて、でも少しドキドキしながら、由浅の次の連絡を待つのだった。




