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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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対するは帝都の英雄

「レヴィーナ様…、無事に号令に対応できたでしょうか…」


 向かいから人混みを掻き分けながら、ライラットはニア…もといレヴィーナ達の部屋へと足を運んでいた。


 本来であれば他の者達と同じく広間へと向かわなければいけない。


 だがライラットはレヴィーナ達がこの王城へと住ってから間も無いことを知る数少ない人物であり、だからこそこの状況に対応できていないのではと考えたのだ。


 既に部屋は視界の先に見えており、そうして急ぐべく更に足を踏み出した瞬間、


「『白き王』が…白き王が現れた…!!」


 聞こえてきたその声にライラットはわずかに脳を停止させる。


 カラクリアに古くから伝わる伝説。


 だがそれは今や畏怖の対象であり、ライラットもまた例外ではない。


 そうして足を止めた人々と同様に備えられた窓の方へと足を運んだライラットは、その先の景色へと目を向け、


「っ…」


 瞬間、ライラットは焦ったようにその進路を変更し、同時に凄まじい速度で階段を駆け降りていく。


 ライラットとてただの人間。殺せば死ぬし死ねば息の根は止まる。だが、だとしてもライラットは英雄である。


 だからこそその足は止まることなく大地をかけ、


「…」


 ただ1人の少年がそこにはいた。


 黒い髪は軽く目にかかるほどに長く、携えた刀は漆黒と見紛うほどに黒く染まっていた。


 身に纏った黒い羽織りがその存在感を一層際立たせており、その予言通り、全体的に白よりも黒のイメージが近しい姿だった。


 だがその時、視界の端に立つライラットに気づいたニアはその目を向け、同時にライラットは警戒体制を取る。


 いつ襲い掛かられてもおかしくはない。


 そうして2人は互いに言葉も交わさないまま、小さな沈黙を貫くのであった。









—————————————————————————


「は?ニアとして外に出るって…、ダメだ危険すぎる」


「いいかオーゼン。今のこの状況は言って仕舞えばほとんど詰みなんだ。外にいる相手がわからない以上無闇に抵抗もできず、かと言って残っていても避難誘導って名目で半ば強制的に扉を開けさせられて仕舞えばその時点で終いだ」


 そう口にするのは急ぎ足で服を着替えるニアであり、レヴィーナとして潜入するための一切を脱ぎ捨てると、鞄の中から取り出した刀を腰へとかける。


 伝えられた作戦は当たってシンプル。否、作戦とも呼べるものではない。何故なら、


「俺たちが第一に避けなければいけないのはその正体がバレること。もしこのまま部屋の前に張られて仕舞えばなぜ出てこなかったのかと他の人たちにも疑問を抱かれる。だからまずは今俺たちの部屋の前にいるやつを退かせる必要がある。そのために最も有用なのが『白き王』なんだ」


 ニアらしい考え方だった。


 いくらオーゼンが急ぎカラリナとしてのメイクをしているからと言って、その姿が完全にカラリナとなるまでにはまだ数分を要するだろう。


 その間一切の問答がなければ疑問を生んでしまうし、返答があって尚部屋から出てこないとなれば、それもまた同じく疑問を生んでしまう。


 だからこそ今できるその正体がバレないようにする唯一にして最善の策が、ニアが『白き王』としてその場の注目を攫っていくことだった。


「幸いなことに、初めてカラクリアに来た時のあの門兵達の恐怖の表情から『白き王』がこの街においてそれ程までに恐ろしいものってことは理解してる。だから多分、俺を理解した瞬間この扉の前に立ってるやつ諸共逃げ出すことを余儀なくされる。いや、多分じゃないな…。なにしろ伝説なんだ。絶対だ」


「もしそうだとしてもこの部屋にあの扉以外の出口なんて…」


「あるだろ、ここに。こんなに巨大な扉が」


 語られた作戦に意を唱えることができなかったオーゼンはその作戦にいち早く協力できるようにと止めてしまっていたメイク途中のその手を再び動かしていく。


 やるべきことは決まった。やらなければラノアから任された任務諸共この作戦は無に帰してしまう。


 だがあと一つ、何よりも気にしなければいけないことがあった。それは、


「ライラットさんがどうするかだな。来ないならそれに越したことはないが、もし来た場合は——」









ーー全力で逃げる!!


 瞬間、構えるライラットを横目にニアは突如として反対方向へと身を翻し、そして大地を駆けていく。


 戦いが始まると身を引き締めていたライラットはわずかに間の抜けたような表情を浮かべ、去っていくニアの背中を見つめていた。


ーーこのまま人のいない場所まで逃げて、その後にオーゼン達と合流——


「逃しません」


 そんな声が聞こえると同時に、ニアの体は壁に叩きつけられていた。


 駆けていたはず。ライラットとの距離も1秒や2秒で詰められるほどの小さなものではなかったはず。だが、


「…っ」


「初めまして、『白き王』。予言であれば幼子を連れていたはずですが…何処かに預けていらっしゃるのですか?」


 急ぎ体勢を立て直したニアの元へその影は重なり、同時にその存在を改めてニアへと理解させる。


 ライラット。最注意人物として名を挙げられており、戦うなと何よりもの重要事項として伝えられた人物。


 そしてその忠告を聞いても尚少しは過大評価しているのだと舐めてしまっていたニアが何処かにいた。


 いくら英雄といえど、“出会い、逃げる。”ただそれだけの行為であれば何ら問題はないのだと。


 だがその考えは今破綻する。


 軋む体を起こし、ニアは自らを見下ろす男へとその目を向ける。


 英雄ライラット。見下ろすその瞳には、微塵の容赦も残されていなかった。

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