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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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敵襲、故に再臨

「つっかれたー…!!」


 ベットへと飛び込みながらオーゼンはそう声にしており、同時に飛び込んだ体を受け止める柔らかい感触に瞬く間に体の力が抜けていく。


 メロウ達との出掛けを済ませた現在。気分が舞い上がっていたのかウキウキでカラクリア内を歩き回ったオーゼンは、あれやこれやと耐えることのない興味を辺りへと撒き散らしていた。


 初めはその様子に困惑していたメロウ達も、陽が沈む頃にはすっかり慣れており、同時にその腹は満腹と呼ぶにふさわしいほどに満足感に溢れていた。


 愚痴、談笑、或いはなんてことのない雑談。


 初めはあくまでメイドとしての佇まいを崩さなかったメロウも、オーゼン達の楽しそうな雰囲気に流されるようにその口調は解けていき、解散することにはわずかにだが文句の一つを漏らすようになっていた。


 どれほどの期間王城に住っているのか、それは不明だが、聞こえたの愚痴はどれもがごく普通の文句のようであった。


 主にニア達の前に支えていた者に対しての愚痴。だがそんななんてことのない愚痴の中で、ニアは一つだけ記憶していることがあった。


それは———


「何か考え事か?一応軽く見て見たけど誰かに侵入された形跡はなかったぞ」


 瞬間、かけられた声によりニアの意識は現実へと引き戻される。


 見ると、ベットに横たわったオーゼンはどこか不思議そうにニアへと目をやっており、同時にその時にしてようやくニアはその場に立ち呆けていたことを理解する。


 余程疲れたのだろう。オーゼン程ではないにしろ出掛けた先でニアもまたさまざまなものに興味を示しており、その手足は既にクタクタになっていた。


 王城へと住ってから1週間。ニア達はバレないように周囲へと意識を張り巡らせながらも、ラノア達の言う通りガルデンと呼ばれる者とは関わらないように心掛けていた。


 未だ遭遇したことはないがその外見はあらかじめヨスナから聞いていた。


 小太りのちょび髭を生やした男。


 だからこそニアはガルデンらしき男が視界に入るや否やその進路を変更し、ガルデンの視界にも入らないようにとそそくさとその場を去っていた。だが、


「アガルダって人、ほんとにいるのか?」


「さぁ…でも会ってないだけって可能性もあり得るからな」


 ラノア達が注意人物として名を上げていたもう1人の人物、アガルダ。


 執事らしくさまざまな役割をこなしており、ニア達はガルデンと同じく知り合ったとしても適切な距離を取るようにとあらかじめ話し合っていた。


 だが見ていないのだ。王城へと住ってから1週間経った現在も、その姿どころか名前の一つすら聞いていない。


 ラノア達がカラクリアを追い出されたのは数年前。


 もしニア達に伝えられた情報がその当時のものなのであれば、もしかすればアガルダという執事は既にこの城にはいないのかもしれない。


 だが考えていても仕方はない。否、疲れのせいか普段よりもその思考は冴えることなく、むしろ、


「…疲れた」


「わかるー」


 流れるようにベットの上へと倒れ込んだニアは顔をうずくめながらそう言葉にし、同じくオーゼンはニアの真似をするように顔をうずくめながらそう反応を示して見せる。


 初めから長期戦であることは理解していた。


 だからこそニアは倒れ込んだまま目を瞑り、そしていつの間にか浅い夢の中へと落ちていくのだった。








 それは突然だった。


 いつもと変わらない朝日に照らされながらニアは目を覚まし、だが意識が現実へと浮上すると同時その事態の異常性を理解する。


 騒々しいのだ。例えそれが定期的に行われている何かなのだとしてもニア達にとっては初めての現象である。


 そうして何事かと体を起こすニアは続けて隣で未だ寝続けているオーゼンを起こし、


「…ん、朝か…?」


「朝は朝だが異常事態だ。何が何だかわからないが、急いで支度を済ませるぞ」


 目を覚ましたオーゼンは寝ぼけ眼でニアへと声をかけ、だが返事と同時に外の騒がしい声が聞こえてきたことにより、次の瞬間には跳ねるようにしてその場から飛び起きる。


 疑いようもないほどに起きた“何か”。


 それが例え行事だとしてもニア達はここにきてからまだ日が浅い。故にまもなくメロウ達…例え違うとしても、誰かがが何が起きたのかを伝えに部屋へと訪れるだろうと考えたのだ。


 そしてそれは正解であった。


『コンコン』


 瞬間、扉を叩く音が部屋の中を駆け巡った。


 軽いノック音はニア達の反応を伺うかのようにわずかな間を空け、だが反応がないことを理解すると再び扉を叩いてみせる。


「はーい、ちょっとま——」


 無視して申し訳ないと、扉を開けようとオーゼンが一歩を踏み出した瞬間、何かがその動きを止めるように肩へと手を置いた。


 そうして背後へと振り向いた先にはニアが立っており、だがその態度は何かを警戒しているそれであった。何故なら、


「メロウ達は部屋を訪れる際は名前を名乗る。…ライラットさんや、他の人も同様に。それが王家としての決まりであるかのように」


 それはこの王城へと住み、誰かが部屋を訪れる際に必ず行われていた行為であった。


 おそらく相手に自身が誰なのかを伝えることで警戒心を解くという意味合いが込められているのだろう。


 だが今回はそれがなかった。


 それが何を意味するのか、それは語るまでもなく、


「…敵襲だ」


 騒がしい部屋の外に、狙ったように訪れた来訪者。


 瞬間、ニアは焦ったように扉とは真逆の方向へとその足を運び、同時に何かを探すように鞄の中を漁り始める。


 対するオーゼンは目覚めていきなりのその事象に何をすればいいのかわからず右往左往しており、だからこそニアは目をやることなくオーゼンへと声をかけると、


「オーゼン…いえ、カラリナ。あなたはそのままメロウ達が来るのを待ってください。外にいるのは間違いなく敵。なんの策もなく外へ出た時点で相手の術中にハマると言って間違いないです。ですから——」







 焦る人々の足跡を背に、男は待ち構えていた。


 場所はカラリナ、そしてレヴィーナの部屋の前。


 慌ただしい足音は男の背後を次々と通り過ぎていき、同時に1人が叫んだことによりその焦りの正体は露わになる。


「王からの呼び出しだ、全員広間へ移動しろ!!」


 長らくなかった号令。突然の号令。それは即ち何者かが失態を犯したと言う何よりの証拠であり、同時に男はその機会を利用したのだ。


 幸運だった。タイミングよく誰かが無礼を働いてくれたおかげで男は非難を伝えるということを口実にカラリナ達の部屋へと訪れることができた。


 あとは扉が開いたその瞬間、人目につかないように部屋の中へと押し入れば——、


「た、大変だ…!!『白き王』が…!!白き王が現れた!!!」


 瞬間、焦る人々は気を取られたようにその足を止め、そしてその場所へと目をやる。


 廊下に備えられた窓の外。城の庭と呼ぶにふさわしいその場所には——、


「し、『白き王』…!!あれが…!!!」


 そうして男を含めた全員が恐怖のあまり廊下をかけていく。


 そこに先ほどまでの計画性など何処にもなく、ただ命を無駄にしないために逃げ出す人間だけがいた。


 庭には、黒い髪に黒い目をした、腰に刀を携えた少年が立っていた。

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