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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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おうじょうたんさく

「起きろー、ニア」


「ん…オーゼン」


「はいはい、オーゼンさんだぞ。朝だから早く起きようなー」


 重い瞼を開き、ニアは目の前に映ったその者の名を呼ぶ。


 どうやら予想に反してぐっすりと眠りへとつけたらしい。辺りは反射した明るい太陽の光に照らされていた。


 そうしてニアが起きたことを確認したオーゼンは近くの椅子へと腰掛け、中断していたメイクの続きへと取り掛かる。


「…!!朝!?」


「そう。誰か来るかわからないけど、いつでも出られるように準備はしておかないとな」


 朝が来た。それは新しい1日が始まったということであり、同時に与えられた任務が本格的に始まるということだった。


 だからこそニアは無理矢理に意識を覚醒させるとその場から飛び起き、そして急いで崩れたメイクを落とすと、再びメイク道具を持ってオーゼンの隣へと腰掛ける。


 夜に誰かが来るかもしれないからこそメイクを落とすタイミングはこの瞬間以外に無いに等しく、そうしてニアは急いで再びメイクを始めるのだった。


 流れること十数分後、


「うん、違和感はなし」


「そっちもオッケー」


 お互いの顔に違和感がないことを確認した2人は安堵のためか小さく息をこぼし、そして改めて何をするべきかとその思考を回転させる。


 二日目…厳密には1日目なためかこの王家のルールのようなものも知らず、だからこそとりあえずニアはその扉を開くと、


「…まぁ、交友は広めておいて損はないか」


 オーゼンと共に、外へとその歩みを進ませるのだった。







 窓から見えた広場には昨日にはいなかった人々が数多くいた。


 それは昨日のタイミングで何処かへ出掛けていたためか、あるいは国王に何かを命じられて部屋の中へと籠っていたのか。


 どちらにせよ、昨日とは違う日常に改めて王家に迎え入れられたのだとようやくわずかな実感を覚えた時、


「レヴィーナ様、オーゼン様。ただいまお時間よろしいでしょうか」


「…?」


 黒い服の上から身につけた白い装い。長くを語らずともメイドであるのだと理解できるその者達はニア達のそばへとたっていた。


 手に持った箒から掃除の途中だったのだと察することができ、だからこそニアはメイド達へとその目を向けると、


「掃除ですか?」


「はい。それと、ご報告をしにまいりました」


「報告…ですか?」


「はい。申し遅れました。私はメロウと申します。そして隣に立つのはタルナローテ。ご報告というのは単刀直入に、今日よりあなた様型の専属メイドとして働かせていただくというものです」


 身近な茶色の髪をした女性はメロウと。そして続けて隣に立つ、黒い凛々しい顔をしながら何も喋ることなく目を瞑り続けている者をタルナローテと、その者達は自己紹介をしてみせる。


 どちらも歳としては二十歳を超えたばかりのように見え、その若さにニアは静かに驚いてしまう。


 だが正直な話メイドが必要なほど部屋は散らかっておらず、むしろニアは趣味として部屋を片付けることを好んでいるため掃除も行き届いている。


「必要ないという顔ですね。ですが私たちも王からの命でここへと遣わされています。大変申し訳ございませんが、優先順位的には王の方が上にございます」


 何処か敬語として曖昧な言葉遣いでメロウはニア達はそう伝え、だが王の命令だという言葉を聞いた事によりニアは静かに納得する。


 要するに嫌がらせである。何もメロウ達がダメというわけではない。ただ、おそらく昨日の一件を完全に許しきれていない王が嫌がらせのためにメイドとして不完全なこの者たちを自らの元へと送らせたのだろう。


 やはり見た目通りのくだらない王。だがそれを口に出すことはたとえメイドの前だとしても許されることではなく、だからこそニアはこの者たちをどうしようかと反応に困っていた。


 だがその時、隣に立っていたオーゼンはちょうどいいとメロウ達の前へと立つと、


「なら、この城を案内していただけませんか?!」


「…それは命令ですか?」


「いいえ、提案です。嫌なら無理強いはしないし、その場合はあなた達のいう通り部屋の掃除を頼みます。でも、私はあなた達と少しでも早く打ち解けたいです。だから、どうですか?一緒に見て回ってくれないですか?」


 予想外だったのか、伝えられた言葉に困惑した表情でオーゼンを見つめ返すメロウは、命令ではないのなら、と絶壁と表情で返して見せる。


 だがオーゼンはただ単純に、この者達と打ち解けることを望んでいた。そこに他意はなく、命令も存在しない。


 だからこそ、その気持ちをメロウ達も理解したのか、根負けしたように小さくため息をつくと、


「わかりました。ですが一つご注意を。この城には立ち入ってはいけない区間が存在します。そこに何があるのか誰も知らず、ですが立ち入ってしまえばその事実だけを何者かによって王へと伝えられたしまうそうです」


「バレたらどうなるんですか?」


「死罪です。そこに同情の余地は存在せず、罪人となった者は遺言すら残せずこの世を去ります」


 淡々と、だがそれが真実であることを突きつけるかのように放たれたその言葉にニア達は息を呑むことを余儀なくされてしまう。


 前例があったからこそのその発言。だからこそメロウ達もまた小さく一呼吸空けると、


「ですが、立ち入らなければ良いだけのこと。簡単な話で、そこまで重要に考える必要もまたありません」


 近づくことが危険なら近づかなければいいだけのこと。当たり前といえば当たり前のその言葉を伝えたメロウは続けてその歩みを進ませると、


「では参りましょう。案内は私どもにお任せを」


 箒を片手にメロウはそう伝え、王城の中を案内するのだった。

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