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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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ライラットの天啓 

 眠りから目覚めた現在。


 目覚めと同時に開いた瞼には薄暗い天井が映り込んでおり、その暗さを以ってニアは自身が相当な時間眠り込んでしまっていたのだと理解する。


 起きあがろうと体を起こした時、ふと隣から小さな寝息が聞こえてきた。


 可憐な女性。だがその正体は他でもないオーゼンであり、疲れたのかぐっすりと眠りへと落ちているオーゼンにニアは小さく笑みを浮かべると、ゆっくりとその場から立ち上がる。


 見れば時刻は午前3時。


 半日近く眠りかけてしまっていた事に驚きながらも、目覚めてしまったのだから二度寝することは容易ではないと、快眠してしまった自身に短くため息をこぼす。


 鏡に映った姿は幸いな事に王城へ来た頃と遜色はなく、メイクを落とさないまま寝てしまっていたという事実に静かに反省しながらも、ちょうど良いとゆっくりと扉を開け、外へとその歩みを寄せていく。


 廊下一面に張り巡らされた巨大なガラスには空から降り落ちる月の光が満遍なく反射しており、その光景につい見惚れてしまっていた時、


「眠れないのですか?レヴィーナ様」


「…!!」


 予想していなかったその声にニアは咄嗟に声のした方へと振り向き、同時に振り向いた事によってその主が誰なのかを理解する。


 白い髪に白い瞳。だが月の光の合間ってかその容姿は昼間に見た時よりもさらに凛々しく見えた。


 だが今はそんなこと気にしている場合ではない。


「いえ、むしろ疲れが溜まっていたのか部屋に案内していただいた後すぐに眠ってしまって…つい先ほど目を覚ましたんです」


「なるほど、これは失敬しました」


「ライラット様は何故ここに?」


「私は稽古の帰りです。月の光に照らされながら剣術を研鑽する。私の日課なんです」


 月を見つめながらそう答えるライラットは何処か誇らしげであり、同時にこの時間まで稽古をしていたという事実にニアはひどく驚愕を覚えてしまう。


 言われてみればたしかにその額には薄い汗が滲んでおり、ライラットのその言葉が嘘ではないのだとその汗が証明していた。だが、


「剣術…?剣は持ち合わせていないのですか?」


「いえ、ありますよ。今もここに」


 その装いに刀は何処にも見当たらず、だが疑問をぶつけたニアへライラットは手首に巻かれた銀色のブレスレットを指さしながらそう答えて見せる。


 だがそれは何処からどう見ても剣などではなくただのブレスレットであり、何か裏があるのではないかとライラットのその言葉に首を傾げた瞬間、


「ここで会ったのも何かの縁です。せっかくですから、一つあっと驚かせて見せましょう。レヴィーナ様、2秒ほどでいいです。目を瞑っていただけますか?」


「…?わかりました」


 意味深に伝えられたその言葉に疑問を抱きながらもニアは言われた通りに目を瞑り、そして2秒を数えたのちにその瞼開いて見せる。


 2秒目を瞑ったところで何も変わらない。そう思っていた。だが開いたその先には、


「じゃーん、どうでしょうか。驚いていただけましたか?」


「…!!すごい…」


 自信満々に声をかけるライラットの手のひらには、先ほどまでなかったはずの剣が握られていた。


 その剣は長く時間を共にしたのだとわかるほどに所々に傷が入っており、だが老いの一つも感じさせないほどに圧倒的なオーラを放っていた。


 そうして同時に、ニアはライラットの装いの一つの変化に気づく。


「あれ、ブレスレット…」


「もうバレてしまいましたか。流石です。実は、私の天啓…とは言っても大したものではないのですが、このように身につけた装飾品の形状を自在に変えられるのです」


 そう言いながらライラットは手に持った剣を自身の手首へと近づけていき、すると次の瞬間には剣はブラックホールに吸い込まれるかのように曲がり唸り、小さな形状へと変化していく。


 そうして手首へと完全に到達する頃には先ほど見たのと同一のブレスレットへと変形し、元の剣は完全にその姿を消滅させる。


「まぁ、このような機会にお披露目する芸の一つとでも思っていただければ幸いです」

謙遜か、あるいは本心なのか。笑いながらそう伝えるライラットであったが、その天啓にニアはひどく驚愕していた。


 ものの大きさを自在に変えられる。それは言ってしまえば何処からでも武器を取り出せるという事であり、汎用性の塊のような天啓であったからだ。


 だからこそニアはその目をライラットへと移すと、


「すごい便利な力ですね…!」


「そんな大それたものじゃないですよ。それに、この力にもデメリットはあります。っと、すみません。長く話し過ぎてしまいましたね。そろそろ私は自室に戻ろうかと思います」


「ありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。あなたに出会えたのなら、私も日課が功をなしたというものです」


 頭を下げて礼を伝えるニアへライラットはまたしても謙遜のような言葉を返してみせる。


 そうして短い会話を終えたライラットは再び歩き出し、そしてやがて完全にその姿を暗闇の中へと溶け込ませ、その気配は足音と共に消滅する。


ーー天啓…そういえば今まで疑問にすら思わなかったが、天啓ってのは一体なんだ…?


 この世界へと落ちてきたから幾度となく目にした天啓。だがその実情をニアは何一つとして知らず、だからその脳内には今更なその疑問が渦巻いていた。


 だがわからないことを1人で考えていても解決はしない。だからこそニアはその場で大きく伸びをすると、


ーー…寝ようか


 目覚めてからしばらく経ったため先ほどよりも少しは眠気が訪れており、だからこそニアは再び部屋の中へとその歩みを進ませると、ベッドの上へと横たわるのだった。

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