いざ王城へ!
注意するべき人物。そして自身が赴き、気にかけるべき物の正体。必要最低限といえど、伝えられたその情報はニアとオーゼン2人の脳内に埋め尽くすには容易に事足りる物であった。
だが何よりもニアの脳内を埋め尽くしたのは、注意するべき人物。その中でも最近注意人物として語られたライラットという者の話であり、だが仕方のないことだった。
何故ならニアはこれからその最注意人物であるライラットの元を訪ね、更には王城の中へと足を踏み入れようとしていたからだ。
ーーどうする。ライラット…あの人が本当に注意するべき人…?いや、問題はそこじゃない。これから俺があの人を訪ねるとして、何よりも正体がバレないように上手く誤魔化すしかないってことだ。バレれば終わり。重役は俺が担ってるってことだ。
慣れない女装。目的のものを探しながら、3人の注意人物の目を掻い潜り、更には新たな王族として違和感のない立ち振る舞いを求められる。
いつかぶりの無理難題にどうしようもないため息を実感しながら、ニアはこれからするべきことを改めて一から整理し直していた。
時刻は既に朝よりも昼に近しいほどになっており、待ち合わせの時間まで残り2時間とない。
だからこそラノアは出会ったばかりの2人へと、可能な限りの信頼を寄せ、代わりに、
「言い忘れていたわ。夢のかけら…その力は三度まで発動できる。すまないけれど、うち二つは私が使わせてもらうわ。これは絶対に譲れない。ただし、もしあなた達が見つけてくれたのなら、その例として最後の一つはあなた達の願うままにしていいわ」
「…いいのか?」
「…文句言わないのね。正直、私はここで待ってるしかできることがないし、それなりの文句を言われる覚悟はしていたのだけれど…」
三度まで願いを叶えられる代物。その言葉だけでその代物の価値は想像していたよりもはるかに高まり、だからこそうち二つも使用するということを、ラノアは文句を言われることも承知の上で打ち明けていた。
だが対するニア達の反応はそんな予想とは程遠く、むしろ一つも使わせてもらっていいのかという反応であり、予想外のその反応にラノアはわずかに驚いた表情を浮かべて見せる。
だがそれは当然のことであった。何故なら、
「俺たちは、ラノア、君の力になりたくて今こうしてここにいるんだ。そこに対価は必要ないし、譲歩も必要ない。あくまで善意での行動だと思ってくれていい。けど、そんな行動に褒美まで付いてくるって言われてるんだ。喜ぶ以外の方が不自然じゃないか?」
「…それは…確かに??」
キッパリと伝えられるその言葉はニアの性格を端的に表したものであり、褒美はあれど対価は要らず。
そんな言葉に隣に立つオーゼンは笑ってみせ、同時に予想すらしていなかった2人のその反応にラノアはわずかばかりに困惑してしまう。そして、
「なら改めて、俺たちのするべきことは決まった。信頼された以上、その信頼に応えられるよう全力を尽くすつもりだが、もし万が一失敗しても文句言うなよ?俺だって女装して乗り込むなんか初めてなんだから」
「前も言ったけれど、これは元はと言えば私個人の私情。協力してくれるだけで感謝の言葉が尽きないのに、そこに文句の言葉を垂れ流すなんて次期国王として私が許さないわ」
改めて万が一のことを伝えるニアへ、ラノアは前回と同じく一貫した態度を貫いてみせ、その態度に安心したのかニアは小さく笑って見せると、
「それじゃあ行ってくる。ヨスナさん、ウミをよろしくお願いします」
「かしこまりました。何一つ不自由をさせないと誓いましょう」
未だ眠りこけて目覚めてこないウミのことをヨスナへと任せ、対するヨスナもまたお任せあれと信頼の言葉で返してみせる。
そうして短くその瞳を閉じたニアは、小さな笑みと共に自身の横に立つオーゼンへとその目を向けてみせる。
再び緊張しているのではないか。だが目を向けた先のオーゼンは緊張どころか何処か楽しげに笑ってみせ、だからこそ、
「よし、行くか!オーゼン!」
「おうよ!」
2人は何処か楽しげに、その一歩を踏み出すのだった。
三度目のカラクリア。その壁の内側は変わらず綺麗に装飾されており、だが王家選抜が終わったためか昨日よりもわずかばかりに落ち着きを取り戻していた。
だがそれでも人の数は先の人々の覆い隠すほどに多く、前回同様その人混みを掻き分けながらニアとオーゼンは前へと進んでいく。
「——!!何度でも言おう!だからこそ、我々は—-!!」
聞こえてきたその演説は前回ニア達が追い出された地点へと戻ってきたことを伝え、前回のこともあってか再び追い出されないかとニアのその心境にはわずかな不安が生じる。
ウミはおらず、腰に携えた桜月も今は背負った鞄の中に姿を隠している。
だがそれでも消えない。一度体験してしまったそれは平然を装おうともその心の中を本人ですら自覚しないうちに蝕み、その一歩を踏み出すことを躊躇わせる。
だがその時、そんなニアの気を理解したのかオーゼンは先の一歩を踏み出すことに躊躇うニアのその手を掴むと、
「大丈夫。私がついてます」
いつかニアが伝えた言葉と同じ言葉を伝えるオーゼンは続けて安心させるように薄い笑みを浮かべ、そしてその手を離すことなくさらに先へと進んでいく。
そうしていつの間にか聞こえていたその演説の声は小さな声となり、聞こえなくなり、それを以て以前よりも先に進んだのだと理解した時、
「ね?言ったでしょ?」
優しく笑いかけるその顔は元が男だと知っていなければ惚れてしまう程に素敵であり、だからこそニアもまた小さく笑うと、
「えぇ、助かりました!流石です!」
大袈裟なほどの反応で、感謝の言葉を伝えるのだった。




