表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
81/105

案内人は伊達にあらず

「カナリア、ただいま戻りました!って、どうしたんですか?」


 数時間後、日が沈み、辺りが完全な暗闇に覆われた頃。カラクリアの祭りを堪能したオーゼンはどこかご機嫌な様子でその扉を開け、だが中の様子を見たことで小さく絶句する。


 散らかったメイク道具に、そのメイク道具をかき分けるように虚無と言うほどに感情の読めない表情で机に伏すニア。そしてその隣に備えられた椅子に当たり前のように鎮座するヨスナ。


 本能的に自身がいない間にここで何が行われていたのかを理解したオーゼンは小さく絶句し、だがオーゼンが戻ってきたことで改めて時間を確認したヨスナは小さく一息つくと、


「ではここら辺でしまいとしましょう。付け焼き刃のメイク技術。私たちよりも数段劣るとはいえ、それでも問題のない仕上がりになるでしょう。あとはカラリナ様ですが…」


「あー…それなんですけど」


 向けられた瞳に反応するようにその瞳を伏せたオーゼンは、何処か言いづらそうにその続きの言葉を語ることなく静寂に身を焼かれ、だが数秒後、小さく苦笑いをしながらその目をヨスナへと向けると、


「私も招待もらっちゃった」


「…ほう?」


 瞬間、落ち着きを取り戻していたヨスナの瞳には再び小さな意思が宿り、だからこそオーゼンは恐ろしいものを見たかのように反射的にその足を後方へと擦らせていく。


 だがヨスナの考えていることのおおよその検討がついているからこそその手を大きく振ると、


「実は私昔とある街で案内人ってのしてまして…まぁ何が言いたいのかって言いますと」


 それはヨスナにとって初知りの、オーゼンの過去の話。だがそんなことは今この状況においてはなんの効果もない。


 だがらオーゼンは不意にその場所でわざとらしく咳払いをし、そして何処か自信ありげにニアへとその目を向けると、


「私、メイクとか結構出来ます」


「…は?」


 伝えられたその言葉にそんな反応を返したのは他の誰でもないニアだった。


 そして続けて先ほどの何処か意味ありげなオーゼンの瞳のわけを理解したからか、向けられた瞳に見つめ返すその瞳には段々と欺瞞ような感情が滲んでおり、だがその時、


「今なんと反応しましたか?“レヴィーナ様”?」


「あ」


 隣から聞こえてきたその一声によってニアの感情は完全に息を潜め、代わりに何かまずいことをした小動物のようにその体は硬直する。


 そうして落ち着いたニアを横目にヨスナは続けてオーゼンへとその目を向けると、


「レヴィーナ様はひとまず、カラリナ様。今おっしゃったその言葉の意味、わかっていますね?」


「あっ…えー…と…、はい!」


「では早速ですが、その実力を見せてもらいましょうか。まさか、大見得を切ったのに逃げるなんてことしないですよね?」


 見つめられたその瞳にはニアと同じ欺瞞の意志と、同時に自分たち使用人に見栄を切ったのだからそれなりの実力はあるのでしょうと言う、わずかなプライドのようなものが見えた。


 だがオーゼンもまた負けていられない。生まれてからこの旅に加わった寸前まで、自身の誇りでもあった案内人の格が今、試されているのだ。


 そうしてオーゼンは小さく深呼吸を繰り返し、そして続けてニアへと目を向けると、


「…なんでこっち見て…おいまさか…!実験台なんか嫌だからn」





「これは…失礼しました。確かに、カラリナ様の言葉は嘘ではなかったようです」


「信じていただけたのならよかったです!実は私数日前まで街の外に出たことがなくて…メイクの実力も人に見せられるのか不安で、なかなか言い出せなかったんです」


「なるほど、そう言うことでしたか。ですが安心してください。これほどの実力なら、おそらく誰も文句を言わないでしょう」


 賛美を繰り返すヨスナに対しオーゼンは満更でもないように笑みを我慢することなく披露し、その場は暖かな雰囲気に包まれる。


 ただ1人、有無を言わさずその実験台になった者以外は。


「…カラリナ様??すこーーしあとでお時間よろしいですね???」


 オーゼンへとそう伝えるニアの表情は可憐な満面の笑みであり、だがその笑みの中には隠しきれない怒りが紛れ込んでおり、だからこそオーゼンの額には薄い汗が姿を現し始めていた。


 だがそんなことお構いなしと、笑顔を向けるニアの肩を掴むのはヨスナであり、オーゼンが予想以上に技術を持っていたためか、その瞳は更なるやる気に燃えていた。


 ニアにはもはや、逃げる選択肢は残されていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ