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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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再び

 いつかの池の元へと戻ってきたニア達。


 そうして続けて迷うことなく歩いていくヨスナの背を追いかけて歩いていくと、開いた森の先にはこれから赴くカラクリアが聳えており、


「カラクリア内部まで私が案内いたします。ですが、そこからは私は干渉致しません。なので、カラクリアへ足を踏み入れたその瞬間から勝負は始まっていると、そうお考えください」


「「かしこまりました」」


「…あ、そうだ。それともう一つ言い忘れていましたが、今回の王家選抜。当たり前ですが他の方々も新たな王家の座を狙っています。ニアさ…はぁ、レヴィーナ様方よりも可憐で美しい方も少なくないでしょう。ですが、どうか自信を失わないように。自分を魅せる事を忘れることのないようお願いします」


 伝えられたヨスナの言葉。それはニア達が美しくないということでなく、単にそれ以上に身なりに気を遣った者達が多く存在しているという事。


 だが、それでもニア達を見つめるヨスナの瞳に迷いはなく、だからこそニア達もまた不思議と不安を感じることはなかった。そして、


「では参りましょう」


 何処かから初めて会った時と同じフードを取り出しながら、ヨスナは再びその歩みを進めるのだった。









「おぉ…」


 目の前に広がる光景にニアは誰にも聞こえないほどに小さな声量で、感嘆の声を漏らしていた。


 1週間前に訪れた際にはなかった豪華な装飾の施された街並みやそれにおいて行かれない程の人々の活気。


 それは今日という日に王家選抜があるためか、もとより華やかさを見に纏っていたカラクリアの街並みは、さらにその魅力を増していた。


 そうして同時に、そこにいる人々の姿を視界に捉えたことでニアは改めて伝えられていたある事実を再度理解する。


ーーやっぱりみんな今日のために色々と準備してるんだな


 何気ない家の前に立つ少女ですらその身なりは可憐に整えられており、だからこそヨスナの言った通り、ニア達よりも可憐で美しい佇まいのものは少なくなく、だからこそニアは小さく息を吐くと、


「…よし」


 オーゼンと共に、その歩みをさらに先へと進ませていく。その脳内には、ある記憶が映し出されていた。


『まず一つ、王家選抜にこれと言った参加方法はありません。強いていうのなら、“王家選抜の選抜役の方の目に留まる事”のみ。そして選抜役もまた、普段の装いを捨て街並みに紛れ込んでいます。なので下手に気合いを入れてもかえって逆効果です。できるだけ自然に、そして可憐に。大丈夫です。私の教える事をきちんとこなせていれば、まず誰の目にも留まらないということはないと思いますので』


 それはヨスナに礼儀を叩き込まれている時の、またしてもラノアが伝え忘れていた肝心な言葉。


 慣れた口調でラノアの言葉の足りない部分を補完していくヨスナはそれでもってニア達の一挙手一投足へと目をやっており、同時にその立ち振る舞いさえモノにすれば後は大した問題ではないと口にしてみせる。


 本当なのかとその時のニアは疑問に思ったが、今目の前に広がる光景を見たことによりその疑問は解決される。


ーー確かに、身なりは整っている人が多いが同時に動きが硬い人が多い…、ヨスナさんが言っていたのはこういう事だったのか


 王家選抜の選抜役。それが何処にいるのかわからない以上一般の人たちの意識は何処か一箇所にとどまる事なくあちらこちらへと揺られており、それに比例するようにその動きは緊張のためか堅苦しいものとなっていた。


 だがニア達は違う。ヨスナの礼儀講座を乗り越えた今、それ以上に恐ろしいものも緊張するものもなく、だからこそ悠々と、そして凛とした立ち振る舞いで街を闊歩することができていた。


 いつの間にかニア達を先導していたヨスナの姿はなくなっており、それは後は任せたという言葉の元の行動であり、だからこそニア…もといレヴィーナはカラリナの手を掴むと、


「参りましょう、カラリナ様!」


 完璧に仕込まれた女声。もはやその声の元にその者が男であることを気付けるものなど存在せず、だからこそ声をかけられたカラリナもまた乗り気に小さく笑うと、


「えぇ!せっかくの王家選抜祭、待っているだけじゃもったいですわ!」


 その街並みの中へ、小さな足取りで駆け出すのだった。

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