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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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見知った見知らぬ者

 ラノアの後を歩きながらニアはこの短期間に起きた出来事を振り返っていた。


 カラクリアへと進行するや否や言いがかりをつけて追い出され、更にはその際に一緒についてきた少女に何処かへと案内されたかと思えば池の中へと突き落とされ、だが突き落とされた先には幻想的な世界が広がっていて、止めにニアを案内した少女はつい先ほど追い出されたカラクリアの次期国王ときた。


 文字にしたとてまるで理解が出来ないその事象の数々にニアはどうしようもない困惑を余儀なくされ、だが次の瞬間にはとあることに気づいたことによりニアの混乱は一時的に息を潜める。


 そうしてニアの見つめる目線の先には、


ーー…擦ってないか?


 先ほどまで気付かなかったが、ラノアの身に纏っている羽衣は明らかにラノアよりも一回りほどサイズの大きいものであり、そのせいか、羽衣の裾が躊躇うことなく地面と接触していた。


 だがそれは背面のみの接触であり、であれば何故前面は接していないのか。その疑問はラノアの腕を見た事により瞬時に解決される。


ーーいっつも思うけどサイズ合ってないのよこれ…!!絶対後ろ擦ってるわよね…でも今更気にした所で変に思われるだろうし…いや、後少しで到着するし、耐えろ、耐えるのよ私!!


 本来であれば背面と同じく地面へと擦れるはずの羽衣はラノアが必死に持ち上げるおかげで地面へと擦れることなくその可憐さを保たれており、だが自身でも背面の裾を擦っていることを理解しているのか、その凛々しい表情の内側にはどうしようもない焦りが生まれていた。


 そうしてばれていないのではないかと一筋の希望を頼りに後ろを振り向いたラノアは、間違えようもないほど自身の裾を見つめるニアを理解したことでその焦りを加速させ、そうして更に足早に先へと進ませていく。


 だがニアは擦れるその裾を見ながら、ある一つの疑問を生じさせていた。


ーー擦らせてる…?次期国王…もしそれが本当ならこの子はそれなりに高貴な生まれ…おそらく貴族辺りに違いない…だとすれば俺の知らないこの世界の常識があってもおかしくはない。そうか、この世界の貴族にはそう言う常識があるのか…


 あまりにも堂々と擦らせるその姿はニアにもはやそれが常識なのだと言う勘違いを抱かせてしまうほどであり、だからこそ自身の知らない常識を持っているラノアが本当に次期国王なのかも知れないと、ラノアの恥じらいの裏でニアは静かに納得するのだった。


 だがその時、前を歩いていたラノアは突然その歩みを止め、そして連鎖するようにニアが思考を中断し、目を向けた先には、


「着いたわ。ここよ」


 閉ざされた白い扉。他の扉と同じく大きな、だが他の扉とは違いシンプルな白一色に染められたその扉は目的地と呼ぶにはあまりにも似合っていた。


 そうしてその扉の元へとラノアが歩みを寄せた時、先ほどと同様にその接近を感知したかのように鈍い音を立てて開き始める。


 こぼれ落ちた冷たい風はラノアの羽衣を微かに揺らしながらニアの肌を横切り、そして中の光景をニアへと伝える。


 そうして開かれた扉の先には、


「お、やっと来たんだな」


「…誰?」


 見覚えのない顔をした、聞き覚えのある声をした女性き、その女性の辺りを囲む使用人らしき女性達。


 状況が飲み込めず放心状態になるニアへ、何処か聞き覚えのある声をした女性は満足したように小さく笑みを浮かべ、だがその時、


「にあー!」


 どこからか聞こえてきたそんな声と同時に体に訪れた、何かがぶつかるかのような衝撃にニアはふと自身の足元へと目をやり、そして自身の体に1人の少女が抱きついている事実を理解する。


 見覚えのない装いをした少女。咄嗟に引き下がるべく一歩を後方へと引き下がるニアだったが、こちらへと向いたその少女の顔を見た事により次の瞬間にはその少女が誰なのかを理解する。


「…ウミ?」


「せーかい!へへん、どう!びっくりした??」


 顔全体に黒いモヤを生じさせる、だがそれを違和感として成立させないほどに自然な装いと化させる仮面はニアにとって一つしか該当せず、そうしてニアはその少女へと半ば躊躇いがちに問いかける。


 するとその言葉を聞いた少女…ウミは、ニアが自身のことに気付いてくれたのがよほど嬉しいのか湧き上がってきた喜びを余すことなくニアへと向け、満足そうな反応を示して見せる。そして、


「ウミ、オーゼンは何処に…待て、もしかして…」


「ようやくか?どっちの方が先に気付いてもらえるかって勝負してたんだが、この様子じゃ俺の完敗だな」


「いや、それは無理だろ」


 一緒にいるはずのオーゼンの姿が何処にもない事に気づいたニアは、ウミへオーゼンの居場所を問いかける。


 するとウミは何やら楽しげに自らの背後へと振り向き、そうして先ほどのオーゼンの声をした女性の存在を思い出したことで、ニアはようやくその事態を理解する。


 女装。だがもはや原型がないまでにその姿を変化させているオーゼンは何処か残念そうにウミとどちらが先に気づかれるかの勝負をしていたと言うが、声以外にもはやオーゼンとしての情報を残されていないその姿を見てオーゼンだと気づくのはほとんど不可能であり、だからこそニアは反射的に言葉を返してみせる。


 青い髪は腰へとかかるほどまでに伸び、元々整ってはいたその顔は化粧品により性別すらが変わったと勘違いするほどに女性の顔つきとなり、だがその見た目に合わない男らしい声にニアはオーゼンだと気付いてもなおわずかな混乱を余儀なくされる。


 だからこそ、ニアは不思議そうな困惑した表情を浮かべ、


「…なんで女装してるんだ?」


 当然の疑問を問いかけるのだった。

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