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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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水鏡の先には

「…!!」


 飛び込んだ水鏡の先に広がった景色に、ニアは巨大樹を見た時と同等の驚愕を覚えていた。


 豪華に飾り付けられた、眩いほどの光の放つ装飾品に、部屋の中心に引かれた、見るからに高値だと理解できる赤いカーペット。


 それらが躊躇うことなく姿を見せるその部屋はまるで宮殿のようであり、だがニアが驚愕を覚えたのはそこではなかった。


「お連れいたしました」


 目の前ではつい先ほどニアをここへと案内した女が頭を垂れており、そして伏せる女の先には長い階段が設置され、その頂上に置かれた玉座に居座っていたのは、


「…えぇ、ありがとう。また指示を出すわ。それまで自由にいてちょうだい」


「かしこまりました」


 そう言葉を返すのは金色に光り輝く王冠を頭につけ、更には見るからに高価だと理解できる羽衣を身につけた少女であった。


 身に覚えのない少女。だがニアは何処か聞き覚えのあるその声に、次の瞬間にはその者がつい先ほど、ニアをこの不思議な世界の入り口へと案内した少女その者だと理解する。


 フードのせいであまり見えなかったその全貌は腰へとかかるほどに長い金色の髪をした赤い目の少女であり、だが齢16際ほどに見えるその外見とは裏腹に、玉座へと座るその雰囲気は並の大人よりも凛々しく、だからこそニアは強い驚愕を覚えてしまっていた。


 そうして小さな会話を終えた女は少女の言葉通りに広い広間の端へと移動をし、少女の次の命令を待つかのように静かに目を瞑り、僅かな沈黙を貫く。そして、


「よく来てくれたわね。既にされているでしょうけど、改めて歓迎するわ」


「君は一体…」


 対面してもなおニアの第一印象とはかけ離れた少女のその話し方に、ニアはこの時にしてようやく少女がそれほどまでに高貴な立場のものなのだと理解する。


 ニアを見る目は揺らぐことなくニアの瞳を的確に射抜いており、だからこそ少女は小さく口を開くと、


「私はカラクリア国王第一主せち……第一首席、ラノア・ベイル・カラクリア。英幽帝都カラクリアの…次期国王です」


 伝えられたその名はニアが予想すらしていなかったものであり、目の前に立つ者が自身の先ほど訪れていたカラクリアの王であるのだと。


 だが通常であれば驚愕を覚えてしまうであろうその発言に、ニアはあまり驚愕を覚えはしなかった。その理由は至ってシンプルであり、


「…噛んだよな?」


「噛んでないから!!」


 ニアが反応するよりも早く、迅雷の如くに訂正こそしたが間違えようもないほど先ほどの告白の中でおそらく最も大事な箇所を盛大に噛んでおり、食い気味に否定をしているものの本人も自覚があるのか、何事もなかったと言わんばかりに威厳を放っていたその顔色は、徐々に薄い赤色に染まって行く。


 その反応は年相応の乙女の反応であり、先ほどまでとの雰囲気の差にニアはつい笑みをこぼしてしまう。


 そうして笑うニアを見たラノアはどこか悔しそうにニアへと指を指し、


「いい!?聞こえなかったようだからもう一度言うけど、私は次期国王よ!!次期、国王!!」


 恥ずかしさを誤魔化すためか、声を荒げるラノアにもはや数秒前までの威厳のあった姿の面影はなく、早すぎるキャラ崩壊にニアは更に堪えようのない笑みを吹き出してしまう。


 そうしてそのニアの反応にラノアがムキになったその瞬間、


「お嬢様。お言葉ですが、先にお客人が待たれております。要件へと入られたほうがよろしいかと」


「そ、そうね。私も丁度今言おうとしていたわ」


 終わりのないその小さな喧嘩に口を挟んだのは先ほどラノアに命じられ端へと移動していた女であり、女はニアとラノアの会話の最中にもニアの到着を待っている者がいると、慣れた口調で本来語ろうとしていたその話題への訂正を提案して見せる。


 そうして女の言葉を聞いたラノアは冷静になったのか小さく咳払いをし、そして再びニアへとその目を向けると、


「着いてきて。貴方に伝えたいこと、色々あるから。それと、貴方のお友達もこの先にいるわ」


「…!!オーゼン達が!?」


「えぇ。でも今話せるのはここまで。ここからは着いてきてくれないと教えてあげられないわ」


 先ほどまでの威厳のある声色へと戻ったラノアは、ニアをどこかへと案内するのか着いてくるようにと提案し、そして続けて着いて行った先にオーゼン達が待っていると、そう伝えて見せる。


 そうして食いついたニアにラノアは安心したように小さく笑みを浮かべ、そしてニアが着いてくることを確信しているのか、次の瞬間には長い階段を降り、そして何処かへと歩いていく。


ーーオーゼン達がこの先に…それに次期国王…なら何でカラクリアじゃなくてここにいるんだ…?数年前に起こったってオーゼンが言ってた内乱も何か関係が…?いや、考えてても仕方ない。着いた先で聞こう。


 思考するニアを他所にラノアはその歩みを止めることなく巨大な扉のそばへと歩みを寄せ、だが金色に輝く扉はまるでラノアの接近を感知するかのように誰の手も借りることなくひとりでに開き、そして、


「…来ないの?それは予想外なのだけれど」


 未だに動き出さないニアをその瞳に捉えたからか、何処か不安そうな声色へと変わったラノアにニアは考えることを後回しにする判断を下し、そして、


「はいはい、今行くから少し待っててくれ」


「…私次期国王なんだけど、その話す態度ってどうにかならない?」


「俺からすればまだそれが本当かすら分かってないんだが」


「それは…まぁ確かに…」


 駆け寄っていくニアへラノアはどこか不服そうに文句の言葉を溢し、だがニアからすればラノアが本当に次期国王なのかを測る手段はなく、だからこそ伝えられたその言葉にラノアは少し残念そうに納得の言葉を返してみせる。


 放っておけばすぐにまた小さな喧嘩をしそうな2人を見つめながら、部屋に残った女は小さくため息をこぼすのだった。

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