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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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自然すぎる

 予想外の事態によりカラクリアを出た…否、追い出されたニアは、正体不明の少女に連れられるままに暗い森の中へとその足を運んでいた。


 思い返せばこの世界へ落ちてきたからのほとんどの時を何処かしらの森の中で過ごしていると、そんななんてことのない気づきを得たその瞬間、目の前を歩いていた少女は足を止め、こちらへと振り向くと、


「『白き王』…、貴方は本当に白き王なの?」


 問いかける少女の、フードから覗く瞳はニアが本当に『白き王』と呼ばれる者なのか、その真偽を確かめているようであった。


 だが前回同様知り得るどころかつい先ほど初めてその単語を聞いたニアにとってその質問は悩むまでのない質問であり、だからこそ何処か面倒くさげにウミを地面へと下ろすと、


「さっきも言ったが俺は『白き王』なんて知らないし聞いたこともない。それに、他人の空似でここまで追い出されて色々と聞きたいのはこっちのほうなんだが」


「でも…」


「でもじゃない。もし君がその人を探してたんだとしても俺ではないし、俺も君のことは知らない。…けどどうするか…あの様子じゃ聞く耳の一つすら持ってくれないよな…」


 灰奄を探すという当初の予定はもはや空白へと戻り、それどころかカラクリアにはいることすら容易ではなくなってしまった。


 改めて考えてもため息しか出ないその現状に、ニアは少女の言葉を遮りながらもこれからの予定をどうするべきかと小さく思考を巡らせる。


 だが、そうしてしばらくの静寂が訪れた時、


「そちらの様子はいかがでしょうか」


「…!!」


 突如として聞こえてきた聞き覚えのないその声に、ニアは追手がここまで迫ってきたのかと反射的に刀へと手をかけ、警戒をあらわにしながら背後へと振り向く。


 だが振り向いたその瞬間、ニアは更にその脳内を混乱させることとなる。何故なら、


「オーゼン!!」


 ニアへと声をかけたのは少女が路地裏へと連れ込む際にいたもう1人のローブを纏った者であり、だがその背後にはカラクリアに残してきてしまったオーゼンの姿があったからだった。


 そうして何故ここにいるのかと頭の中に疑問を浮かばせたニアを置き、問いかけられた少女は何処か落胆したような態度を浮かべると、


「…この人は違うらしい。…まぁ、元々予定にはなかったし、あんまり期待はしてなかったんだけどね…」


「…左様でございますか。やはり空想は空想に過ぎないということですね。ですが、だとすればこの方々の対処はいかがしましょうか」


 少女の返事を聞いたフードの女はわずかに少女と同じく何処か落胆したかのようにその返答に間を生じさせ、だが次の瞬間には被っていたそのフードを脱ぎ、そして何処か無機質に聞こえる声でニア達のこれからをどうするべきかと少女へ問いかける。


 陽の元に晒されたその髪は漆黒の、肩ほどまでかかる結われた髪をしており、そしてフードを脱いだことにより露わになったその瞳もまた、意識せずとも無意識に吸い込まれてしまいそうなほどに漆黒に染まった瞳だった。


 そうして問いかけられた少女はわずかに悩むようなそぶりを見せたのち、


「貴方、本当に違うのよね?」


「違う。が、それだけ言われると逆に気になってきた。その『白き王』ってのはなんなんだ?俺に似てるのか?」


「…はぁ、そうね。着いてきて。どっちにしろこんな場所に置き去りには出来ないし、それも含めて、着いた先で教えるわ」


 最後の確認とばかりに問いかけられたその言葉へニアは一貫して否定の言葉を返し、だがだからこそ『白き王』に対し興味の湧いたニアへ、少女は着いてくることだけを伝え、再び何処かへと歩いて行く。


 そうして去って行く少女の背中を見つめながらついて行くべきかを迷うニアへ、いつの間にか近くへと寄ってきた黒い髪の女はただ一言、


「着いてきてください。それが貴方の今するべき唯一の行動です」


「はぁ…はいはい、わかりましたよ」


 言葉にできないその圧に負けたように、ニアはこの日何度目かわからないため息をこぼしながら了承の意を返し、だがその時先ほどまで黙りこくっていたオーゼンはニアのその肩を軽く叩くと、ようやくなことでその口を開き、


「なぁニア、これ大丈夫か?俺あの女の人に「あの方達のご友人ですか?ご同行願います」だけ伝えられて返事する暇もなくここに連れてこられたんだけど…!!」


 ニアと同じく、あるいはそれ以上に状況の飲み込めていないオーゼンは言ってしまえばニアが『白き王』と呼ばれたあの場にいたにも関わらずその一切を知り得ない唯一の人物であった。


 だが、だからこそ混乱し、あたふたとするオーゼンのお陰でニアは瞬く間に変わる状況に混乱しながらも冷静さを欠くことはなく、


「このまま戻ってもさっきの二番煎じになりかねないしな。あの人の言う通り、着いて行くしか俺たちに選択はないみたいだ」


「何してるの?早くしないと置いて行くわよ」


 それ以外にできることがないと言うことを理解したニアは混乱するオーゼンへとりあえず少女達に着いて行くことを伝え、かけられた言葉に反応するようにその足を動かして行く。


 ニアが『白き王』と呼ばれる存在ではないことを理解したからか、少女は先ほどのようにニア達の動向を伺いながら歩くのではなく、言葉通り着いてこなければ置いていくと言わんばかりに足早に先へと進んでいく。そうして後を追うこと十数分後、


「着いたわ。ここが私たちの家。もてなす余裕もないけれど、疲れたのならゆっくりしてちょうだい」


「…家?」


 当たり前と言わんばかりにそう伝える少女はそこを家だと言い切り、ニアへと自分でくつろぐようにという言葉だけを残して何処かへと去って行く。


 だがニアはそれを家だとは決して認められなかった。否、ニアでなくてもそれを家だと認められるものはほとんどいないだろう。何故ならニアのその目前に広がる景色は、


「…自然すぎない?」


 少女がそう語るのは光の漏れだす木々の中に巨大な池のみがその視界へと映る、神秘さすら感じるほどの大自然の風景であり、だがいくらその神秘さに目を眩ませようとも少女の言う家が見えることはなかった。


 当然だ。何故ならそこは自然なのだから。


 だがそこを家だと言い切った少女の瞳に迷いはなく、だからこそもしかしたらこの中の何処かに家があるのかもしれないと、ニアは自身の背後でオーゼン達を連れる黒い髪の女の方へと振り向き、


「いかがなさいましたか?」


「…ほんとにここが家なのか?もしかしてあの子、青空が天井とか言っちゃう人?」


「あの子…ですか。…えぇ、確かにここは家と呼ぶにはあまりにも壮大で、そして全てが物足りない」


 ニアの視線に気づいた女もまたニアへとその目線を送り返し、そうしてニアはたった今抱いた疑問を解消するべく、女へと少女の言葉が正しいものかを問いかける。


 だがニアが問いかけたその瞬間、女はニアの言葉にわずかにひっかかりを覚えるように繰り返し、だが次の瞬間にはニアと同じ意見のもとに目の前に広がる池の元へとその歩みを寄せて行く。


 反射する光はわずかな風に水面を揺られながらもニア達の姿を写し出し、その光景に意識が吸い寄せられた次の瞬間、


「っ…!?」


 唐突にその背中には誰かに押される感覚が訪れ、そして傾く体を以てニアはそれが勘違いではないことを理解する。


 そうして背後へと咄嗟に振り向いた時、その視界にはニアだけでない、オーゼンとウミもを池へと突き落とす女の姿があり、だが女は不意に小さく笑みを浮かべると、


「ですから、まずは行ってきていただきます」


 そうして3人は、深い池の底へと沈むのだった。

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