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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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英幽帝都カラクリア

 人の足音の絶えない街の中で、ニアは荷物を詰め込んだ大きなカバンを背負っていた。


 夢の一件は全てが何事もなかったかのように平穏へと戻り、だからこそニアは自身の背後に立つ水色の髪のその少年へと目を向けると、


「無理してついてくることないんだぞ?ハドルとも仲直りできたんだろ?」


「だからこそ、だよ。あいつはまだ罪悪感を背負ってる。それは俺にどうこうできるものじゃないし、あいつ自身が乗り越えないといけない何よりの課題なんだ。それに、あいつから言ったんだぞ?「次に会う時までには変わってみせるから、期待して待ってて」って」


 ニアと同じくカバンに必要なものを詰め込むオーゼンは何処か誇らし気にそう伝え、だが語るその表情から、オーゼン自身もハドルが変わるその時を待ち遠しく思っているのだと一目で理解できた。


 そうしてしばらくして、一通りの荷物を詰め込み終わったオーゼンは一仕事を終えたかのように額を拭いながら一息をつき、


「それで、次の目的地は何処なんだったか」


「少し待ってくれ。…っと、あった」


 未だ自身の知り得ない次の目的地のことを問いかけるオーゼンに対し、ニアは背負った鞄を地面へと下ろし、ごそごそと漁ったのちに目的地の書いたその紙を引っ張り出して見せる。


 そうして提示された地図に横から顔を覗かせたオーゼンは物色するようにその地図をまじまじと見つめ、そして、


「今がここだから…そうだな、ここにいくんだもんな。だからこう…いや、直進で着けるか…?」


「ん…にあ、どこかいくの?」


 ぶつぶつと呟くその言葉は世界を知る者だからこその呟きであり、だがその時、いつも通りニアの睡眠時間と引き換えに快眠の中にいたウミは目を覚まし、そしてニア達の会話を少し聞いていたのか、何処へいくのかと問いかける。


「次の目的地が決まった。だから少しまた旅をすることになるな」


「…!!またいろんなとこいけるの!!わーい!」


 ニアの言葉に反応するように、寝起きだとは思えないほどの明るさでそう反応するウミにニアは苦笑いを浮かべてみせる。


 そうして数秒後、道のりをどうするべきかとつぶやいていたオーゼンは進路がまとまったことを確認するとその顔を上げ、そしてニアへとその目を向けると、


「一応進路はまとまった。目的地は“英幽帝都カラクリア”…まぁ、名前だけは一丁前な普通の街だと思ってくれていい」


「街?セレスティアみたいな国じゃないのか?」


 伝えられたその名称は大層なものであり、だからこそ街よりも国としての名称の方が相応しいのではないのかと湧いてきた疑問を口に出したニアへ、オーゼンは珍しいものを見るかのようにその目を点にし、ニアの瞳を見つめていた。


 だが次の瞬間にはニアがこの世界の色々なものに対しての見聞が足りていないのだと言うことを思い出すと、オーゼンはその場で小さく納得するようなそぶりを見せると、


「あぁそうだった…あーっと、“元”帝都だな。少し前に王族内の内乱があって、詳しくは知らないが結果として帝都って肩書は手放さなかったが、その実ほとんど国としての機能は失ったらしい。だから肩書だけは一丁前な街だと思ってくれた方がいい」


「なるほどな…先生はなんでそんなとこに…」


「さぁな。まぁ行ってみればわかるってやつだ」


 王族内の内乱。聞く限りですら物騒なその言葉にどうしてそんな場所へ赴かせたのかと疑問を抱くニアへ、オーゼンはいつの間にか借りていたその地図をニアへと返しながらそう返事をして見せる。


 良くも悪くもさっぱりとしたオーゼンの考えは深く考えすぎてしまうニアの思考を切り上げるのに最も有効であり、だからこそニアは受け取った地図を鞄へと仕舞い、そして再びその鞄を背負うと、


「そうだな。じゃあ、行くか」


「おう!」


「いこー!!わっ!」


 そうして一歩を踏み出したニアの隣にはよほど楽しみなのか、いつの間にか支度の全てを終わらせていたウミがおり、朝から発揮されるその底の見えない元気に若干気圧されながらも、変わらないその様子に小さく笑みを浮かべると、


「よし、いくぞ」


「いくぞー!!」


 開いた扉から舞い込む風を感じながら、ニアは新しい門出の、その一歩目を踏み出すのだった。

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