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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
夢と旅路
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事項と行動

「さて、そんじゃまずは何からしようか」


「そうだな、じゃあまずは買い物をしてくる」


「おう!…え、買い物?」


「さっきは特に用もなかったから素通りしたが、用ができたなら買い物をすることくらい普通だと思うが」


 正式な依頼として引き受けた直後、早速行動を起こそうとやる気を見せるオーゼン。

 だがそのやる気は当たり前のように放たれたニアの言葉により撃沈し、オーゼンはつい気の抜けた声を出してしまう。


 オーゼンの依頼を引き受けたという事はつまり、この一件が解決されるまでの不定期をこの街で過ごすという事だった。


 本来、今日一日でこの街を抜けようと考えていたニアにとってそれは計画が変わったことを意味し、故に自由に動ける今のうちに必要なものを揃えておこうと考えたのだ。

 

「それはそうだけどさ…うーん…まぁいいよ、それこそ俺が手伝ってあげよう。お代は…」


「そうか?ありがとう。だが言っておくが金は出さないぞ」


「…友達割引。タダなのは今回だけな」


 ここぞとばかりに声を挟むオーゼンへニアは用意していたとばかりに言葉を返し、付け入る隙すらないその言葉にオーゼンはわずかに残念そうに肩を落とす。


 そうして再び街へと戻ってきたオーゼンは、やがて隣に立つニアへと目を向けると、


「そんで、何が欲しいんだ?」


「そうだな。服と、食料が主な目当てだな」


「なるほどね、金はあるか?服は嬢ちゃん用、であってるよな、特に柄にも指定がないならこっちで嬢ちゃんに似合いそうなのを幾つか買ってくるけど」


「そうだな、頼めるか?」


「おうよ、任せてくれ」


 必要以上の言葉を交わさずともそれが何のためなのかを理解したオーゼンはやがてそそくさと人混みの中にその姿をくらませ、その場には再びニアとウミだけが取り残される。


「それじゃ、俺たちも行くか?」


「…」


 ニアの言葉にウミは反応を示さず、その違和感にニアは目前に立つウミへと目を向ける。


 立ったウミは不貞腐れたようにわざとらしくニアの視線を無視し、代わりにその目線は目前に聳える街中へと向いており——、


「…一応言うが、本当に何でもかんでも買える程余裕はないんだ」


「むー…はあい…」


 申し訳なさと共にその頭を撫でるニアへ、ウミは少しの間俯くようにして地面へと目を伏せる。


 先ほどまではオーゼンが先導してくれていたからよかったものの、今はその頼みの綱は存在せず、変わらない人混みにニアはため息すらこぼれ落としてしまう。


 そうして対するウミもまた、先ほどの買い物の影響でニアの懐に対した金銭が残っていないことを薄らとも理解しているのか、執拗に駄々をこねる事はしなかった。


「さて、行くとは言ったが…」


 足を踏み出そうと目を向けたニアは、やがてその一歩を踏み出すことなく停止する。


 目の前には人混みがあり、例え目的があるとしても、その場所すら碌に知らない状態で足を踏み入れるのは逆に危ないのではないかと考えたのだ。

 だからこそ、ニアは申し訳なさと共にその口を開くと、


「…はぁ、流石にこの人混みの中で迷ったら大変なことになりそうだし、迷惑はかけるが待つほうが無難かもしれないな」


 入れ違いになって仕舞えば元も子もないと、ニアはこの場でオーゼンが戻ってくることを選択する。

 そうして待つこと数分後、警戒な足音と共に目の前の人混みからオーゼンはニア達の元へと姿を現す。


「戻っ…あれ?」


 戻ってきたオーゼンは元の位置から動いている様子のないニア達はわずかに驚きの表情を浮かべたものの、説明を聞くや否や納得したように笑ってみせていた。


「なるほどなぁ、ははっ、確かに無闇にここに突っ込んでったら迷子になってたかもしれないな」


「すまない、先に何処に行けばいいか聞いておけばよかった」


「んや、そこまで気が回らなかった俺の責任でもあるし、気にしなくていいよ。それじゃあまずは…」


 と、一旦話を区切ると、オーゼンは続けて両手に握りしめられた大きな袋をニア達の前へと差し出してみせる。

 パンパンに詰まった袋は何かが詰め込まれていることを容易に想像させ、オーゼンはそんな袋をニア達の前で広げてみせる。


「まず服だけど、こんなのでいいか?」


 見えた袋の中には、オーゼンが買い出しに行った通りの多種多様な柄の子供用の服が詰め込まれていた。


 色とりどりの服の数々にオーゼンは何処か自慢げであり、拾い上げた服のサイズもまた、ウミにぴったりのようだった。

 直接測ったわけではないにも関わらず的確にウミが着ることのできるサイズの服を選んできたオーゼンの仕事っぷりに、ニアはさすがは案内人だと関心を抱いてしまう。


 そうしてニアは、自らの足元に立つウミへとその目を向けると、


「ウミ、好きなやつを選んでいいぞ」


「うーん…」


 オーゼンの持ってきた服の大半は、ウミ程の年の子供が好きそうな柄のついた服であった。

 だがウミはそれらの服を見てもなおいまいちな反応を示し、特に好きなものがないのか、がさごそとその袋のさらに深くへと手を潜らせていく。


 そんなウミへ、不意にオーゼンは念の為と持ってきた一枚の無地の服を広げて見せる。


「念のため、こんな感じで柄のないのも買ってきてるんだ。まぁ嬢ちゃんくらいの年頃にはあまり好まれないかもだけ…」


「これ!」


 それはオーゼンの言った通りウミのような子供向けの服ではなく、どちらかと言えばニアやオーゼンのような青少年が好んで着るような服であった。


 だがオーゼンがその服を見せた瞬間、ウミは躊躇うことなくその場で飛び上がり、食い気味にオーゼンの手からその何の特徴もない服を奪い取ってみせる。

 急に反応を示したウミへオーゼンは少し困惑した様子を浮かべ、だがその時、服を受け取ったウミは突然その場で着替え始め、


「ちょ、ちょっと…!あんたどんな教育してるんだ!?」


「待ってくれ、俺じゃない。ウミ!こんな場所で…」


 突然の行動に動揺を隠せない様子のオーゼンは次の瞬間にはニアへと目を向け、ウミにその動作を止めさせるべく詰め寄る。

 だがウミのその行動に動揺していたのはオーゼンだけではなかった。


 服を受け取ると同時に流れるようにして着替え始めたウミにニアは瞬きの間その反応を遅らせ、だがオーゼンの声を以てウミのしているその行動を理解する。


 そうして状況を理解した瞬間、すぐさまやめるように声をかけるニアだったが、その時すでにウミは服を着替え終えており、

 

「にあ、どう?」


「お前…はぁ」


 着替えたボロボロの服を片手にかけながら、ウミはニアへとその感想を問いかけていた。


 だが、ため息と共に目を向けた先のウミは先ほどのボロボロの服ではなくなったためか、透き通るほどの白い髪が灰色の何の特徴もない服と合わさることにより通常以上の可憐さを引き出していた。


 世間的に言うならば、きっと誰もが口を揃えて「とても似合っている」と言うだろうと思えるほどにウミはその服と似合っており、何処か上機嫌な様子のウミにニアはついため息をついてしまう。

 そして同時にニアとオーゼンと言う2人がウミから見て人混み側に立っていたおかげか、流れる人々がウミの着替えていた場面を目撃しているそぶりはなかった。


 そうして一旦はことなきを得たものの、ニアはその場に屈み込み、ウミへとその目を向けると、


「街中で着替えるな。わかったか?」


「なんで?」


「なんでって…倫理観的な…とりあえずやめるんだ」


 ただ純粋な疑問として問いかけるウミへニアはわずかに言葉を詰まらせ、だが適切な言葉が見つからなかったがために暴論的になりながらもニアはウミへとそう伝える。


 そうしてそれを聞いたウミもまた納得出来ないのかわずかに何かを考えるように首を傾げ、だがすぐにニアの方へと目を向けると、


「わかった、にあがそういうならやめる」


 わかっていなさそうな表情のウミへ若干の心配を抱きつつも、ニアはウミの頭を優しく撫で、ゆっくりと立ち上がる。


 だがその途中、不意にウミはニアの袖を掴み、その目線を自らへとおびき寄せる。

 そうしてニアが自らへと目を向けたその瞬間、その場で見せびらかすようにひらりと回転してみせると、


「どう?」


 先ほどの問いに対する回答を未だ聞いていないからか、ウミはその返事を促すようにニアの瞳をじっと見つめてみせる。


 瞬間、ニアはその無言の圧力に負けたように微かに目を逸らしながら口を開くと、


「…そうだな、似合ってる。けどもう少し清潔感のある方がいいとも思う」


 その声色はどこか照れくさそうな、伝えると言うことに慣れていないのだと一目でわかるような反応だった。

 そうしてその言葉を聞いたウミもまた満更でもなさそうな表情を浮かべ、次の瞬間にはニアに抱きつこうとそのそばへとかけていく。

 だが、対するニアもまた満更でもなさそうにその場に屈み込み、やがて飛び込んでくるウミの体を受け止める。


 その様子にニアはわずかな笑みを浮かべ、だがすぐに思い出したようにオーゼンへのその目を向けると、


「あー…それとだな、オーゼン」


 両目を手で覆い隠すようにして視界を塞ぐオーゼンへ、ニアは何処か躊躇いがちに声をかけると、声をかけられたオーゼンはやがてゆっくりとその指の間隔を広げていき、やがて目の前に着替え終わったウミが映ったことにより安堵の息を吐く。


 そうして何か言いたげな様子のニアへ、オーゼンはその言葉がわかっていると言わんばかりに声をかぶせると、


「わかってるよ、その子、何か訳ありなんだろ?さっきは咄嗟にあんなこと言ったけど、流石に俺もそこまで察し悪くないからな」


「…気づいてたのか」


「まぁな。髪の色も違うし、嬢ちゃんの懐き方も兄妹それじゃないと思ってな」


 オーゼンはそう言うと、わずかに気まずそうにするニアの隣へと腰を折ると、そんなニアへ余計な感情を抱かせない為か小さく笑ってみせる。


「それに、俺も拾われた子だからさ。何となくこう…わかるんだよ」


 何処か遠くを見つめながらそう口にするオーゼンは、やがて小さな息と共にその場に立ち上がる。

 そうして改めてニアへとその手を差し出すと、


「よし、暗い話はここまでにして、それじゃあ買い物再開だな。食料って言ってたけど、とりあえず俺のおすすめでいいか?」


「そうだな、日持ちするやつを頼む」


「おーけー、じゃあまずはこっちだな。嬢ちゃんもはぐれないように…そうだったな、ちゃんと抱えておけよ?ニア」


 オーゼンはそう言ってニアの方へと振り向き、だが当たり前のようにニアにくっついているウミの姿を見ると安堵したように笑ってみせる。


 そうして3人は、一度中断された買い物を再び再開するのだった。

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